投資で生命と生態系を豊かに、細胞レベルの楽しいエンターテインメント
西粟倉村に家族で赴くと、エーゼロの社員の方々だけでなく、エーゼロに投資している方々も「川遊び」イベントに参加していた。エーゼロが、生命あふれる生態系を取り戻すための事業を始めようとしていて、その活動に賛同し、応援しようという人達だった。家族で参加してる人もいて、とても和やか。
私は、お金はとても大切なものだと考えている。人が生きていく上で、お金がないと生活が困難になるのは事実。人を動かすには資金が必要。課題は、お金が作り出した人の動きが、生命を殺し、生態系を貧しくする方向に進むのか、あるいは逆に生命を豊かにし、生体系を活成化する方向に進むのか。
エーゼロは生命あふれる生態系をとりもどし、そのこと自体を事業化できないか、模索している。これはとてもチャレンジングな試みで、ワクワクする話。投資家の人達は、エーゼロのそうした意気込みに賛同して資金を提供しているらしい。
何より面白いのは、一緒になって川遊びを楽しんでいたこと。私も初体験で驚いたのだが、天然のオオサンショウウオがいるのを目撃できたこと。博物館で捕獲され、飼われているのは見たことあるが、天然のオオサンショウウオが、生息してる川でそのまま目撃できるなんて思わなかった。投資家たちも驚き。
そしてこの川遊びでは、野遊びの天才・熱田安武さんが指導してくれた。「魚はこうした石の影にいる。水の濁りにエサがいると感じて下流に泳ぐから、今から魚を追い込むね。合図したら網を上げて」と指導を受け、「今だ!」と熱田さん。子どもたちが網を上げたら、網の中にアマゴが!投資家の方も歓声!
西粟倉村のその川は、オオサンショウウオも暮らす豊かな川だが、それでもコンクリートの絶壁があって、上流と下流に分断されている。このためにオオサンショウウオだけでなく多くの魚も上流に遡ることができず、そのために繁殖することも困難で、危機的な状況にあった。
そこでエーゼロはクラウドファンディングで、オオサンショウウオをはじめとする魚たちが遡上できるよう、簡易に設置できる「魚道」を作りたい、と投資を呼びかけた。その資金で魚道を設置したところ、オオサンショウウオをはじめとする魚たちが魚道を遡って上流に向かい、繁殖活動!
イベントには、元NHKカメラマンで、実家の家業であるセメント会社を継いだという人が。イベント後、ウナギなどの巣にもなり、魚道も簡単に組み上げられるコンクリートを開発しよう!という話になり、大いに盛り上がった。
川遊びが、大人になっても大興奮するとても刺激的なエンターテイメントであることを実感した。そしてこれをいったん味わうと、「この豊かな生命、生態系をなんとか維持したい、なんならもっと豊かにして未来に残したい」と願わずにいられない。エーゼロの投資家の皆さんは、これに賛同してるのだろう。
前にも書いたが、その夜、熱田さんが前の晩にワナを仕掛け、ウナギを20〜30匹も捕まえて、蒲焼にして振る舞ってくれた。ただし小さなウナギは全部リリースした上で、特に大きなものだけ持ってきたという。一晩で!どれだけの腕!そしてなんと豊かな川!
天然のウナギは硬く、おいしくないという「誤解」がある。ただしそれは半分正しいが、半分間違っているという。素人はまだ未成熟な小さなウナギしか捕まえられない。そうしたウナギは、数はいるけどそれだけにエサが不足気味で、貧弱なのだという。しかし熱田さんによると。
流れの速い、遡上しにくい場所もものともせず、遡っていくど根性ウナギは、ライバルになるウナギもおらず、エサが豊富な穴場を見つけて、大きく肥え太り、成熟して腹が黄色くなり、脂のりまくりなのだという。熱田さんはそうしたウナギだけを捕り、小さなウナギはリリースしてしまう。
熱田さん、エーゼロの牧さん、道端さんは口を揃えて言う。「私達は自然の恵みを少しだけおすそ分けさせて頂く。それを経験させてもらうことで、私達はこんなに楽しい恵みをいつまでも大切にしたいと願うようになるから。そして、おすそ分け頂く以上に生命が増えるようにしたいと願うようになるから」。
投資家の人達も、「こんなオモロイ体験ができるなんて、なんて素晴らしい!なんて価値のある事業!」と思って賛同し、投資しているのだろう。
お金は使いよう。投資は決して生命や生態系と相反するとは限らない。お金を、生命あふれる生態系を豊かにする方向にも活かせる。
投資をしている人たち、株主の人達にお願いしたい。もしかしたら株主総会では、株主資本主義、株主至上主義、株主原理主義の人達が大きな声を張り上げ、配当を増やせ、そのために人件費を削減しろと圧力をかける人達がいるかもしれない。しかし株主だからこそできることがある。
労働者の賃金を上げ、生活が向上するようにしむけ、ゆとりを生むことで、生命を慈しみ、生態系を豊かにする活動を、企業に求めることが可能。そうした提案を、そうした声を上げる人がいれば、株主総会の空気は一変する。株主資本主義の人達が作ろうとするよどんだ空気を破り、新しい風を入れられる。
空気が変われば、企業も変わる。株主は企業に意見を述べることのできる存在。ならば、企業を通して社会を変えることもできるということ。未来を変える力もあるということ。
みなさんも一度、川遊びを体験してみるといい。身体の底から喜びが溢れてくるのを実感するだろう。
ただし、そこには優れたインストラクターが一人必要。熱田さんは「ほら、そこに魚がいる」と言う。しかし熱田さん以外には見えない。どこにいるのか指さされ、「見方」のヒントをもらって、初めて魚影に気づくことができた。なんだこれ!?魚ウジャウジャ!
熱田さんに「見方」を教えてもらっていなかったら、川はただの水の流れにしか見えなかったろう。しかし熱田さんという名インストラクターのおかげで、川は生命あふれる生態系であることに気づくことができた。しかしそれでもまだ、その時点では私はさほど反応していなかった。ところが。
熱田さんは「この魚は冷たい水が大好き。ここ、触ってみて。冷たいでしょう?地下から水が湧いているからです。ということは、その魚はこの湧き水の流れる場所にいるわけです」「この魚は温かいところが好き。ここ、浅瀬で太陽に温められてるでしょ?こうした場所に群がります」と解説を進めると、
川に棲む生き物たちの解像度がどんどん増す。言われた通り、そうした魚種がそうした場所で泳いでることに気がつき、「ホンマや!」と驚く。「その生態を利用して、こうして追い込むと」と、熱田さんが網を引き上げると、中に魚が!
しかしここまでなら、熱田さんの名人芸で終わる。子どもたちに、次に捕まえようとする魚の性質を説明し、「それを利用して捕まえるよ。それには、何処で網を構えたらいいかな?そう!よく気がついたね!」と、うまく子どもたちの思考を刺激しながら、子どもたちに網を構えさせた。
そして、投資家の人達も一緒になって、大人たちが魚を追い立て、熱田さんが「今だ!」と合図を出し、子どもたちが網を上げると、アマゴなどの魚が!私たちには水が濁ってるようにしか見えなかったが、熱田さんにははっきり魚たちが網に入っていくのが見えていたという。なんという目!
こうした名インストラクターの指導を受けると、それまではただの水の流れでしかなかった小さな川が、生命であふれ、しかも微小環境の違いで棲む魚の種類も行動も変わるという、複雑で豊かな生態系に見えてくる。見える解像度が桁違いとなり、身体知がこの上なく刺激される。
昔の人達なら当たり前のものだったろう。しかし現代っ子である私達は、ろくに生命の豊かさ、生態系の複雑さ、面白さを知らずに生きてきた。のっぺりとした都市空間しか知らずに生きている。しかし熱田さんを名インストラクターに迎えた牧さん率いるエーゼロは、自然の豊かさを身体通して教えてくれた。
お金にしか興味を持てなくなった人は、きっとノッペリした都市空間しか知らずに生きてきたのではないかと思う。株主資本主義の人達は、川遊びや野遊びが、どれだけ自分の身体に潜む生命を喜ばしてくれるのか、知らずにいるのではないかと思う。だからお金の話ばかりになるのではないか。
良くも悪くも、日本人は自然の豊かさ、生態系の複雑さ、生命の面白さをろくに知らずに生きてきた。しかしそんな中でもどっこい生命は生きてきた。そして、名インストラクターの力を借りると、今まで見えなかった世界が見えてくる。身体が、生命が震えるように喜んでいるのがわかる。
お金を、投資を、そうした面白い世界に投じてみてはどうか。使い古された表現で恐縮だが、文字通り「カネで決して買えない」ムチャクチャ面白い体験をすることができる。でも、お金があるからこそできることがある。生命あふれる生態系を取り戻すこと。
こんなオモロイものを失うのはもったいない!こんなに楽しくて興奮させてくれるものをみすみす傷つけるのはもったいない!お金は活かしようで、生命と生態系を豊かにすることもできる。それによって、かつて経験できなかったほどの解像度で、生命が、生態系が見えるようになる。千里眼を得た思い。
エーゼロの投資家の人達は、その面白さを知ったから、お金を投じる価値が十二分にあると感じたのだろう。エーゼロは、大儲けできないが、生命と生態系が豊かになり、そのおすそ分けで人間が楽しませてもらう、そんな事業展開を考えている。面白い活動だと思う。恐らく世界屈指のエンターテインメント。
生きたお金の使い方というのは、こういうのを言うのだろう。
株主の皆さんは、投資先の企業に、こうした活動を促す力がある。自然や生命の神秘さ、不思議さに目を瞠る感性、センス・オブ・ワンダーは、細胞レベルで楽しませてくれるエンターテインメント。それを投資で促して頂きたい。