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「虚心」100日間チャレンジ5日目

今日の言葉:

「 わが子よ、よく聞いて、知恵を得よ、かつ、あなたの心を道に向けよ。」箴言23:19


「どうして欲がいけないんだい?」
私は疑問に思ってスビラト氏に聞いた。

「欲が悪いとは言っていない。人間は生物の中で唯一エントロピーという放っておけば無秩序に向かっていく宇宙の法則に対し、意識的に抵抗できる能力を持っている。自由意志だ。動物のように、必要以上の獲物をとらない事も、またその逆も自らの選択によって決めることが出来る。人間特有の能力とも言えよう。」

なるほど。欲を持つことが悪いことではないのか。私は少し安心した。も少しで禁欲生活に進むところだった。

「人には損したくないという防衛本能を持っている。本来生き残るために備わった本能だ。分かるだろう?しかし文明が発達し生命の危険を日常で感じる事機会が減ってきても、その防衛本能はなお根強く残っている。」
スビラト氏の声はいつも低くて柔らかい。心地が良くて眠くなってしまうのだ。彼は続けた。

「キリストは言った。パンのみにて行くるにあらずと。我々は自分で選んで生まれたわけでも、身体を自分で作ったのでもない。そうだね?しかしだ、実はその我々を作った宇宙や神という存在に近づきたいという本能も誰しもが持っているんだ。王陽明はそれを良知と表現した。ただ日常では心の窓が曇っていて本来の姿が見えにくくなっていると。過去の偉大な人物についてよく言われることだが、彼らに共通するのは牢屋に入ったり死を感じる様な大病を患った経験のある人が多い。それは牢獄や死という究極の制約の中で世俗的な欲というものがどうでもよくなって、心の曇りも消えたからだと私は思う。そうなればだ、まるで世俗的な欲のない聖人君子のように、物事の本当の姿が見えてくる。もちろん程度はあるだろう。」

私はこのまま眠ってしまいたいのと、聴き続けていたいという葛藤に挟まれていた。私は欲でできているらしい。

「悩みやすい人は、その本来の姿に気づきやすい体質と言える。人生に寒さ厳しい冬や猛暑の夏が多い人だ。例えが浮かばないが、真冬の朝、布団から出たくないだろう?それも防衛本能だ。その時に考えてみるといい。何か不平不満や心に不快がある時、何か感謝を忘れていることが多いからな。フランクルが書いた『それでも人生にYESと言う』を読めば、あるいは分かるかもしれない。」

何だか心を見透かされているような気がした。明日の朝試してみようと思った。朝起きて、寒くて布団から出たくない時、何か感謝を忘れていないか自分に問いかけてみよう。彼は最後に言った。感謝は心の曇を消し去るものだと。それが虚心を磨き続ける事に繋がると。

ハリマさんの眼鏡が一瞬光ったように感じた。目を向けると、一瞬モナリザのような微笑みが彼女の眼鏡の下に浮かび上がっていた。

眼鏡のレンズがいつも綺麗なハリマさん

100日間チャレンジの始まり:


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