「感覚過敏」に気づくことの難しさ ~聴覚過敏・子どもの場合~
先日、TLでこんなツイートを目にしました。
発達に偏りがある方が併せて持っていがちな「感覚過敏」。その対象は、五感、つまり聴覚だったり、視覚だったり、嗅覚だったり、味覚だったり、触覚だったりと様々です。
この、なっつんさんのツイートにある「ただそこにいるだけでストレスがたまる」「その刺激に耐えているだけで疲れてしまう」という言葉の重み。私も頭では理解しているつもりでしたが、本当にはわかっていないのだろうなと、ツイートやその下のスレッドを拝見して改めて思いました。
感覚過敏は、キンダーカウンセラーや巡回相談員として活動している時に、子どもを見るのに欠かせない視点の一つです。
幼稚園、保育園の先生がよく気付いてくださるのは、聴覚過敏です。
特定の音や特定の人の声が苦手な場合、子どもは両手で耳をふさいだり、目を強く瞑ってうつ向いてしまったり、保育室を出て行ってしまったり、「うるさい!」と怒鳴って周りを黙らせようとしたりする行動が出るので、わかりやすいです。
せっかくなので、わかりにくい例も少し紹介します。
・空気清浄機の音。普通に稼働して耳ふさぎをしてくれる子は気づかれやすいのですが、機種によってついているイオン発生機能だけがダメな子などもいます。先生がそのボタンをONにした途端、ソワソワし始めて時折、両手で耳をふさぐ行動が見られるようになりました。試しに私がイオン発生機能をOFFにすると、元の穏やかな様子に戻り、普通に保育室にいられるようになりました。先生もまさか、これまで使用していた空気清浄機が原因とは思われていませんでしたが、インフルエンザが流行る季節になったのでONで使うことが増えていたという時期でした。
・特定のお友達の「泣き声」。その子が泣き始めると「うるさい!」と怒り出したり、言葉が苦手なお子さんの場合は、おもむろに避けたり、「泣き止め!」と言わんばかりにその子を叩きに行ったりして意思表示することもあります。普段は一緒に遊ぶこともある仲良し同士なのにそのお友達の「泣き声だけ」がダメなのです(他の子の泣き声は大丈夫)。
・特定の先生の声。その先生を避けたり、逃げたりする様子を見せます。対象が担任の先生だった場合、先生はとても悲しい思いをされます。「個別に話しかけたり、努力はしているのですが…なぜか、あの子とだけは信頼関係がつくれなくて…」と違う方向に悩みを大きくされていました。
・人ごみや騒がしい環境。全学年が集まる活動をしにホールに移動した途端、不機嫌になったり、飛び出したり。最初からホールに行きたがらないこともあります。先生は「さっきまで大丈夫だったのに…」と戸惑われます。
こういう場合、園からは「A君は、新しい所に行ったり、いつもと違う場所が苦手です」など、人見知りや場所みしりの特徴を持つ子として報告して下さることも少なくありませんが、音に関する他の特徴も見られる場合は、聴覚の過敏さも視野に入れて観察をします。
例えば、
・大人に聞こえないような、遠くを走っている救急車のサイレンが聞こえるらしく、窓辺に走っていく。先生がしばらく一緒にいると、本当に救急車の音が聞こえてきて近くを通過する。
・保育室からは遠く離れた場所にかかっている仕掛け時計が好きで、突然部屋を飛び出したと思ったら、時計のところにいた(仕掛け時計の音楽が鳴る時間だった)。
というようなエピソードです。
聴覚の敏感さは、好きな音にも発揮されるのですね。
上のケースの個々の対応についてはここでは省略しますが、聴覚過敏があるお子さんの場合、気をつけてあげなければいけないのは、特定の音だけでなく、音全般に対する過敏さがあるかもしれないということです。
私達の多くは、「今、必要とする音」だけを選択して聞くことができます。「カクテルパーティー効果」と言われるもので、パーティー会場のような周囲がガヤガヤと騒がしい場所でも、目の前の人と会話ができるのは、その人の声だけを抽出して聞き取る「音のフィルター機能」が備わっているからです。
多くの人にとって、それは当たり前のことなので意識すらしたことがないわけですが、このような、今の自分にとって必要な音を自然に抽出できる「フィルター機能」が弱い人がいます。
子どもの場合だと、自由遊びの時間に、
・複数のグループのお友達が周りでおしゃべりしたり、騒いでいる音
・戦いごっこの音
・走り回ったりしている足音
・空調の音
・部屋の外の音
・先生がドアを開け閉めする音
などが、全部同じ音量で聞こえてくる状態ということになります。
そういう聞こえ方の特性を持つ子には、少し離れたところから話しかけても無視されたり、聞き返しが多かったり、口元をじっと見ながら聞いていたりします。ましてや、後ろからの話しかけなど、自分に対しての声かけとは認識できていない可能性が高いので、当然のようにスルーされてしまいます。
静かな場所だと、必要な音だけしか聞こえてこないので本人も混乱しません。周囲からも、何も問題がないように見えます。耳鼻科的にも異常はないので、気付いてあげることができなかったり、「聞こえているのに無視する子」という誤解されてしまうこともあります。
こういった特徴を持つ子は、幼稚園だと入園時、3歳児クラスが始まって数か月頃が見つけてあげやすいです。行事がたくさんある秋や、学年が変わったときにも見られやすかったりします。
器質的な問題(耳の中に目に見せる異常がある)ではないため、耳鼻科で発見してもらえることは稀です。
「聴覚過敏があるのかな?」と気づいたら、できるだけ早めに子どもの発達を専門とする機関(子育て支援センター、発達支援センター、児童福祉センターなど、自治体によって違います)に繋げてあげあげたり、充分な配慮をもって接してあげてほしいものです。
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◇ 続編です。
どちらかというと幼稚園、保育園の先生向けの記事です。
◇ 大人版です。
私と話をしている時に、ご自身の「聴覚情報処理障害」に気づかれた方の貴重な体験談です。
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