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B2B営業スタンダード 第1章:数字の組み立て編

B2B営業の重要な仕事の一つにフォーキャスト(売上予測)がある。

人によっては営業で大切なのは売上を最大化することなので、提案スキルを上げて数をこなす事が重要で、どう数字を組み立てるのかは考えても意味がないと考える人もいるかもしれない。私も新卒で営業を始めた当時は重要性を理解しておらず、受注につながる交渉力や提案力こそ重要だと思い軽視していた。

しかし、ERPの営業で顧客の経営陣や経営企画の人と話したり、自分自身がマネージメントをする中で考えを改め、以下の理由で今では直接的に受注につなげる力と同じくらい重要だと考えている。

・売上予測を立てる事で達成までどのくらい足りず、アクティビティをどれだけ増やさないといけないのかが明確になる。
・企業は投資家や株主などのステークホルダーに対して、業績予想を出しており、それをもとに投資する。その精度は各営業の予測精度の高さも影響し、精度が低いとステークホルダーに損失を与える。
・上司に進捗を聞かれたさいに、詳細まで即答できると信頼される。結果、重要な業務、顧客をまかせてもらいやすくなる。

売上予測の立て方はキーエンス、SAP、OPENTEXT、freeeでそれぞれ違うが、根本となる考え方は同じだった。今回はビジネスモデルごとの違いを見ながら、共通する考えを抜き出してみようと思う。

前回のnoteに転載したこちらのツイートも、組み立てについて書いたものなので詳細を掘り下げて書いてみる。

🔸自社ビジネスモデルにおける売上の組み立てを考える

まず最初にやるべきことは自社のビジネスモデルにおいて、追うべき指標、関連する項目の洗い出しを行う。

これは求める結果から逆算してロジックツリーで考えると整理がしやすい。

例えばキーエンスの場合、営業が追うのは利益で、センサーやPLCという製品の特性上、一度大きな工場の装置に使用されると、その工場が同じ装置を作るたびに購入される。これを構造化してみると下の図のようになる。
※内部情報は書けないので、こちらはキーエンスが実際に追っている指標というわけではなく、客観的に見た追うべき指標を簡略化したものになります。

この図を作るときは右側のゴールから遡って考えていく。

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キーエンスの場合、単価がそこまで高くなく、ユーザーも町工場から大企業まで幅広く、アプローチすべき先が大量にある。このようなビジネスモデルの場合、営業ボリュームを大量にかけると、人によって率は違うが一定の割合で売上に繋がるため、架電数が重要になってくる。

これに対してSAPやOPENTEXTのような外資のエンタープライズ企業においては、担当している顧客数が少ないため、架電数は重要ではなく、いかに組織内の重要人物を抑えるかや、顧客内の投資案件を掴む事が重要になる。

🔸KPIを構造化する際のポイント

追うべき指標の洗い出しを行う際には下記3つのポイントを意識しながら行う。

1、MECEになっているか?
2、変えられない項目は何で変えられる項目は何か?
3、数を増やす項目なのか、率(質)を上げる項目なのか?

右にある上位の項目から、左の構成要素を考える際には、掛け算と足し算(引き算)で分解していく。

例えば足し算の例は「利益」=「売上」+(ー「原価」)という式になる。掛け算の例で言うと「受注数」=「提案数」×「受注率」という計算式が成り立つ。

🔸MECEになっているか?

同じレベルにある項目を足した(掛けた)ときに、上位の項目と一致しているかは大事である。

先ほどの図でいうと売上に繋がる項目として、新規とリピートという区分けをしたが、新規が「新しい企業からの受注」のみをあらわし、リピートが「過去に受注したプロダクトの再販売」のみをあらわすと、既存の顧客への新しいプロダクトを販売するクロスセルを見落としてしまい、「新規」+「リピート」が「売上」より小さくなってしまう。クロスセルできるプロダクトが多い場合、上位にある売上のうち見落としている売上が多くなる。

逆に新規が「既存顧客の新しい案件」を含み、リピートが「既存顧客における受注全て」という言葉の定義だと重複が発生してしまい、「新規」+「リピート」の合計が売上より大きくなってしまう。

🔸変えられる項目と変えられない項目

項目の中には変えられない項目と変えられる項目がある。
例えば、先ほどの図でいうと「定価」、「原価」は、基本的には一営業担当には変更できない項目になる。

変えられない項目は自分では変更できないが、数字を明確にする事により、変えられる項目をどのくらい変えればいいのか明確になるので重要である。

また本当に変えられないのか疑ってみる事も重要である。
プロダクトによって原価率が違う場合はプロダクトの構成を原価率が低いもの中心にする事で、原価を下げ利益を増やす事ができる。

🔸数を増やすものなのか、率を増やすものなのか?

項目の中には数と率がある。数は架電数のように回数であらわせる項目で、率はアポ率のように%であらわす項目である。

数を増やすことは時間さえあれば簡単だが、率を上げるにはやり方を変えたりスキルを伸ばす必要がある。数を増やすのは短期的には効果が出やすいが限界があるため、長期的には率を上げる方法を考える必要がある。

🔸目標達成出来るのか予測を立てる

KPIを構造化出来たら、自分の売上の予測を立て、達成出来るのか、出来ない場合どのくらい数字が足りないのか把握する。

どれくらいの頻度で予測を立て、振り返りをするべきかもビジネスモデルによって異なる。高頻度に詳細まで振り返っていると、多くの時間を取られ、顧客に向き合う時間がなくなってしまうので、頻度と詳細まで振り返るかのバランスをどこにおくべきかは各社で違う。

例えばキーエンスにおいては、毎日利益を報告し、架電数、アポ数などの進捗を管理していたが、単価の低いプロダクトを大量に販売するようなビジネスモデルの場合は、高頻度で進捗を管理したほうがいい。これはこなす商談の数が多いと、1案件によるブレの影響が少なくなく率通りになる事が多いので、予定通りの件数をこなす事が重要なためである。

一方、エンタープライズ向けの外資IT企業など1商談における金額が大きいビジネスモデルにおいては、売上数字を毎日チェックしても意味がない事が多い。これは1日単位では数字が変わらず、1件の受注によるブレが大きいためである。このような場合数字やアクティビティ件数の進捗を日次で追うより、個別の重要商談の進捗をしっかり確認したほうがいい。

例として商談期間1ヶ月〜3ヶ月ぐらいのプロダクトを販売していて、売上目標1000万の場合の売上予測について考えてみる。

まずは現在の状況を知るために、下記項目を整理してみる。

①毎月定常的に売上が上がる項目(リピート)はいくらあるのか?
②毎月、当月に発生した商談で当月中に受注する売上がいくらぐらいあるのか?
③今月、受注可能性がある商談が何件あって、それぞれ受注確度はどのくらいあるのか?
④翌月以降受注可能性がある商談が何件ぐらいあって確度はどのくらいなのか?

表にしてみるとこのようなイメージになる。

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目標に対して20%の余裕を持った1200万に対して達成出来るのかを考えてみる。
まず、リピートと当月発生した商談からの受注が200万ぐらいある。次に金額の大きい商談をみると、今月受注が決まっていて80%は受注が出来る案件が650万、50%程度受注出来そうな案件が850万、20%ぐらいしか受注可能性がない案件が190万ある。
この場合200万+(650万×0.8)+(850万×0.5)+(190万×0.2)で期待できる売上が1,310万あり、例月通りに進めば今月は達成できそうである。
一方、来月をみると635万足りずこのままいくと未達成になってしまう可能性が高い。

単価が低く商談数が高いプロダクトの場合、個別商談でのヨミのハズレがあっても全体で見ると確率に近づき精度が出やすいので、このような表で毎日自分の進捗を把握しておくと良い。
一方、単価が高く商談数が少ないプロダクトの場合、受注確度80%の案件が1件だったとすると、この商談のヨミを外してしまうと0になってしまう。そのため、個別の商談のリスク、マイルストーンなどを細かく管理し、またヨミを外したときのためにバックアップ商談を用意するなど、一つ一つの商談のヨミ精度をあげる事が更に重要になる。

🔸達成までどのくらいのアクティビティが必要なのか考える

まずは実力値としてどのくらいアクティビティをやり続ければ、理論的に達成し続けられるかを考えてみる。
月ごとに状況は変わるが、肌感として目標を達成するためにどのくらいのアクティビティをやり続ける必要があるかは持っておくべきである。

算出の仕方は簡単で過去の数字から、リピートや受注単価、受注率、アポ率などを調べておき、目標から割っていくだけである。初めて営業をする場合は、先輩の傾向値をもとに少し低めに設定をし、自分の傾向が出てきたら修正すると良い。

アクティビティ算出

例えば売上目標が1200万でリピートが月平均100万、受注単価平均が100万、受注率が20%、アポ率が10%の場合は、上の図のように新規で550件架電をして55件の新規提案を行い、11件受注をして1100万新規で売上ないといけない。気をつける点としては、この架電550件や新規提案55件は数を増やすために率(質)を落としてはいけない。率を落としてしまうと計算の前提が変わってしまうので、その際は更に数を増やす必要がある。

担当顧客数や時間配分で550件の架電が不可能な場合は、どこかの率をあげる必要がある。(アポ率の上げ方については第2章、クロージングレートの上げ方については第3章、第4章で書く予定。)件数も率も両方上げられないような目標の場合は、担当顧客を増やしてもらうなど上長にASKをする。根拠なく「達成できないので担当を増やしてください」と相談しても「達成できる方法を考えろ」という話になってしまうが、根拠がしっかりしていれば相談に応じてくれるはずである。

🔸月次の進捗を管理する

先ほど算出したアクティビティの件数をこなし続ければ、理論的には達成し続けるはずだが、現実には月ごとに波があるので理論通りにうまくいかない事も多い。そのため月次で進捗を管理し動き方を補正していく必要がある。

「目標達成出来るのか予測を立てる」の段落に貼った表を見ると今月は達成できそうだが、来月と再来月は厳しそうである。じゃあどのくらいアクティビティをすればいいのか考えてみる。

まず過去の受注した商談の平均単価を出してみる。100万だったとすると来月分は6件、再来月分は9件ヨミの外から受注しないといけない。
来月、再来月の商談を何件今月中に作っておくべきかは、過去商談の発生から受注までの日数をもとに傾向を考えるといい。

過去の商談の傾向をみたときに20%が発生から30日以内にクローズしており、40%が30日から60日、40%が60日から90日にクローズしている場合、商談の40%は2ヶ月前には作られていて、80%は前月までに作られている必要がある。

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今回のケースでは5月に当月作った商談からの受注を100万ヨミに入れており、ヨミ外で必要な契約の6件は4月中に作る商談から受注する必要がある。
受注率が20%だったので5月受注分の商談は4月中に30件行っておく必要がある。また6月分のヨミ外で必要な契約9件は4、5月に新しく作った商談からの受注分になり、半分は2ヶ月前から作っておく必要があるので、4月に作った商談から5件の受注を見込んで、25 件の商談をしておかなけれ絵ばならない。

結論としては4月分は達成できそうだが、4月に受注予定の案件の対応をしながら、5、6月受注分の商談として55件新規の商談を作らないと継続して達成することは難しい。
1ヶ月20営業日とすると1営業日中2.75件の新規商談を作らなければならない。これが現実的ではなく、1営業日2件しか新規商談ができないとすると月40件しか出来ないので、その分アポ率か受注率を上げるための取り組みをしないといけないという話になる。

月次で率の変化を追っておくと、自分の成長や手法が悪くなっているなど自分の変化が見える。また周りのメンバーと率を比較すると、自分の得意、不得意や担当顧客特性も見えてくるのでオススメである。

🔸まとめ

今回、数字の組み立てというテーマで書いたが、「売上予測の精度をあげる」「自分がやるべき件数を知る」「進捗が乖離した際に早期にリカバリをする」という目的に役立つ。

現実では考えた通りにいかない事も多いが、なぜズレたかを深掘ってみると課題が見つかる事も多い。

また自分もマネージメントするようになって思うが、数字のヨミを聞いたときに根拠を持って答えてくれると安心して任す事ができ信頼ができる。(今振り返ると新卒の時の私はこれが出来ておらず、マネージャーは不安だったと思う)

提案スキルは数をこなさないと身につけるのが難しいが、数字の組み立てはやってみるというだけなので、新卒や営業経験が浅い人でも取り組みやすいので是非すぐにでも取り組んでみて欲しい。

次の第2章ではアポ取得率向上をテーマに書きますので楽しみにしていてください。
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しんり(鈴木眞理)
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