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装丁家

「ジャケ買い」という言葉は、今でも音楽シーンで通じるのだろうか。

建物にとって外観が決定的に大切であるように、書籍にも外観の風貌や佇まいが、やはり決定的に重要だ。
実際には建物の実用的な価値は内部の構造にあるし、書籍も表紙をめくった先に本来の意味がある。

しかし、建物がその外観で人々の記憶にとどまり、地域との関係性を成立させるように、装丁は書籍と社会との関係性を創造する。

京都dddギャラリーで開催中の「本の縁側 矢萩多聞の本づくり展」。
これまで多聞さんが装丁を手がけてきた500冊以上の書籍の中には、たとえば学術分野のものも少なくない。

専門領域の人以外には知られることすらなかったかもしれない書籍が、装丁の魅力によって、思いもかけない新たな人々を招き入れる。

多聞さんは〆切に追われていたのに、一乗寺にある居心地のいいカフェに連れて行ってくれた。

装丁とは、読者の目をひくためだけのものでも、ありがたい芸術作品でもない。どんなに難しい学術書であっても、紙やインキが、いくばくかの居心地よさをもたらしてくれる。どんなにささいな本であっても、暗い時代の灯火になって、血の通う人間のあたたかさを照らしてくれる。どうかそういうものであってほしい、と祈るようにして、ぼくは本をつくってきた。 (「本の縁側展」イントロダクションより)


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