韓国の茶旅12ヶ月 智異山編(2)
聖人が集う場所
初めて智異山華厳寺のお坊さまを訪ねて以来、智異山は韓国で一番興味深い場所となりました。どのお寺を訪ねても美味しいお茶を飲むことができます。昔、寺にはお茶を製造して納める茶村やお茶を沸かす茶泉がありました。今でもそれが残っているところがあります。
寺にお茶が欠かせなかった時代を垣間見ることができるのが智異山です。そのなかでも一番気に入ってしまった茶室は方大山泉隠寺が建つ山の中にあります。泉隠寺は統一新羅時代の829年に創建されたお寺で、綺麗な泉がありその水を飲むと心が清らかな気持ちになったことから、当初、甘露寺と呼ばれました。李氏朝鮮時代に戦争によって焼失し、建て直しの際に、泉によく現れた大蛇を殺したことから泉が消えてしまったといわれ、その故事から寺の名前が泉隠寺に変えられたと伝えられています。
泉は隠れてしまいましたが、寺近くを流れる清流の水を用い、この地で育った茶葉で煎れたお茶はとても美味しいものです。そのうえ、その茶室は壁一面がガラス張りになっており、四季折々の風景を眺めながらお茶をいただくことができます。
さらにこの茶室には何度でも訪れたくなるオマケがいます。それは元気に走りまわる白くて可愛いい、日本ではあまりお目にかかることのできない犬です。朝鮮半島固有の豊山犬は、虎と闘うほど勇敢であるけれど、絶対に人をかんだりすることのない忠実な犬種です。確かにこの子は初めてやってきた人間にかまいたおされても嬉しそうでした。人里離れて暮らしているので、お客が来るととても喜ぶ子になったそうです。
平成19年の冬に訪ねた時は寒かったのか犬小屋から顔を半分だけ出して茶室から私たちが出てくるのを待っていました。お坊さまと一緒に私たちを見送ってくれた時には、置いていかれまいと私たちを追い抜いて車のほうへ走って行ってしまいました。まだまだ赤ちゃんだったようです。今ごろりっぱな成犬になって、畑を荒らすイノシシを追い払う任務をちゃんとこなしているのでしょうか。
泉隠寺から車でほどなく行ったところに智異山鶯谷寺というお寺があります。ここは542年頃、華厳寺同様に縁起祖師が開いた古刹です。茶樹が点々と植わっている坂を上がっていくと、林の中に浮屠(高僧の遺骨を祀って建てた石塔)が点在しています。このお寺で有名な浮屠は、李氏朝鮮時代に建てられた西浮屠、統一朝鮮時代に建てられた東浮屠、高麗時代初期に建てられた北浮屠で、それぞれの時代的な特徴をよく表しています。
境内にある茶館ではお寺に自生する茶葉で煎れた緑茶をいただけるのですが、こちらではいろいろな山の恵を漬けている蜂蜜のビンがずらっと並んでいるのが印象的でした。大きな松茸を漬けた蜂蜜を味見させていただきましたが、松茸はそのまま食べたほうがいいような気がしました。韓国では茶菓子や伝統茶にこの蜂蜜が非常によく用いられています。五味子や梅を漬けたものは美味しい伝統茶になります。
智異山は伝統茶材の宝庫です。伝統茶の中で特におすすめしたいのは五味子茶で、その名のとおり酸味、甘味、苦味、辛味、塩味の5つの味が存在し、古来漢方薬などにも用いられるほどに薬効成分があるとされています。中国産もありますが、朝鮮人参同様に朝鮮半島の五味子のほうが良質であるようです。私たちが伝統茶にも興味をもって、よもぎ茶やトゥングレ(ユリ科の高山植物甘野老の根)茶を手にしていたのを目にとめたのか、なんと華厳寺のお坊さまがソウルで茶館をしている友人を通して100%国産の五味子をホテルまで届けるよう手配してくれました。帰りの車の中でそのことを聞いた私たちはきちんとお礼を伝えることもできませんでした。
もしかしたら、これはまた智異山にいらっしゃいということなのかもしれません。
上の記事は韓国茶の旅中の記事です。
他地域の物語も読んでいただけたら、幸いです🍀
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