マイナーな肩書きを名乗りたい
なんでも良いから肩書きを名乗ってみたい。
自分を見つめ直したときに、自分に足りないものは肩書きかもしれないと気がついた。自分が何者かわからず不透明だから、自分というものを考えてしまうのだ。
肩書きがあれば、自分を表現する言葉かがあれば、私は私を発見できる。肩書きを意識することで、学ぶべきことや挑戦するべきこともおのずと明らかになるだろう。自分で自分に名前をつけてしまえばいいのである。
自分の肩書き、何がいいだろう。考え始めるとワクワクしてくる。
「成人」「note更新者」「医師」「料理研究家」「宇宙飛行士志願者」「第45代巨人軍4番」いやいや、嘘はいけないか。
せっかくなので名刺を作ってイメージを深めてみる。
名刺は良い。私はこういう人間だったんだなという実感が持てる。「どうも初めまして、料理研究家の田中です」格好いい。けれど、インパクトが足りない気もする。初対面の相手に渡す名刺、自分という存在を強いインパクトとともに伝えたい。
名刺という自己紹介文で、相手に興味を持ってもらいたい。肩書きに記された謎を紐解く数分間のおしゃべりから、私と言う人間のユーモラスな部分を知ってほしい。
そこで、また新しく肩書きを考えてみた。
「合気道八段」「プロ入浴師」「借り物競走2連覇」「ケーキ食学者」「ゲレンデ」
ゲレンデと言う言葉の響きが変で好きだ。言葉と実際のもののイメージがかけ離れていて、実体のない感じがいい。「初めまして、ゲレンデの田中です」という第一声、格好良すぎる。まるでアーティスト集団やバンドマンのようだ。相手は当然のように訪ねてくる。「ゲレンデ、って何ですか?」「私の好きな言葉です」これで相手はもう私にメロメロだ。
もう少し変わった人を演出するのもいいかもしれない。ネットで調べてみると、今の肩書きはもっとヘンな人が増えているらしい。NEVERまとめによると、「わくわくクリエイター」「ハッピーコーディネーター」「夢発見コーチ」などなど。現代社会は成熟を超え、発酵の期間に突入しているようだ。
昨今の肩書きのトレンドは、カタカナ多めなのかもしれない。肩書き大喜利では定番の「ハイパーメディアクリエイター」も「キャンドルジュン」もカタカナ一辺倒だが格好いい。肩書きはとにかく格好よさが大事だ。
文章で考えてもいい。
「遅れてきた反抗期」「コント仕掛けのスペシャリスト」「怒涛の中間管理職」なんかどうだろう。
お笑い芸人のカンニングがエンタの神様に登場する際のキャッチコピーなのだが、こう名刺に書かれてしまうと「革命家」「反逆者」に近い印象を受ける。「どうも初めまして、遅れてきた反抗期の田中です」ギョッとした相手は、名刺を受け取り損ねる。「大丈夫ですか?」と相手を気遣う優しさで名刺とのギャップを見せれば、相手はきっと私にメロメロになる。真面目な優等生より更生したヤンキーがもてはやされる社会で、反抗期や反骨心を主張することは有効な作戦の一つだ。
さらに飛んで「おはようからおやすみまで」「Inspire the next」「愛は食卓にある」のような企業系キャッチコピーも捨てがたい。
花王だ。「初めまして。おはようからおやすみまで。田中です」と言う自己紹介文には若干の狂気がある。なんせ「おはようからおやすみまで田中」なのだ。そりゃあそうだ。おやすみの後で夢を見ている間だけ、田中は田中を忘れ、自由に生きられる。けれど一度目を覚ましてしまえば、田中は再び田中になる。そしてまた名刺を持って働くのだ。社会人が背負わされた十字架のように田中の二文字が重い。
みんなが知っているフレーズならどうだろう。キャッチーだし覚えやすい。耳馴染みがいいから相手に好かれるかもしれない。「おいしいパスタ作った」「風に戸惑う弱気な」「私のお墓の前で泣かないでください」
「初めまして。風に戸惑う弱気な田中です」うーん。弱々しい印象を与えてしまうかもしれない。世界中の悲しみに触れる機会が増え、戸惑うことばかりの情報化社会で、田中は風に戸惑うのだ。気弱すぎる。なんとなくスーパーマラドーナ田中で再生される。
もっと相手に良い印象を与える肩書きが良い。
これならどうだろう。
家庭的な女がタイプの俺、一目惚れ〜♩だ。
・・・ということで私の肩書きオブザイヤーは「おいしいパスタ作った」に決定します。いいですね。おいしいパスタ作ったって肩書き。料理上手で湘南乃風好きということが一気に相手に伝わる。
名刺を受け取った相手の頭の中では湘南乃風が流れ、タオルを振り回し始めることだろう。元ヤンあがりが多い工業系の営業先で好かれるに違いない。これだ。私が欲しかった肩書きは。
「初めまして。おいしいパスタ作った田中です」
「これはどうも初めまして。おいしいパスタ・・?」
「はい、大貧民、負けてマジギレです」
「え?・・・おお!いいね、君の名刺!」
「それみて笑って楽しいねって」
「・・・優しい笑顔にまた癒されて」
「(二人で)ベタ惚れ〜♩」
どんな仕事でも乗り越えられそうだ。
最後に余談。
田中洋次郎というのは適当につけた仮名なのだが、こんな人は存在するのだろうかと思って検索をかけて驚いた。
横須賀ライフプランナー
田中洋次郎
という市議会議員が実在した。肩書きは横須賀ライフプランナーで、キャッチコピーは「生まれも育ちも横須賀市ハイランド」。
事実は小説より奇なりである。
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