「一人サーカス」 第61回短歌研究新人賞応募作品

2018年5月に応募した「短歌研究新人賞」の30首をまとめました。ありがたいことに予選通過したようで、2首が雑誌「短歌研究」に掲載されました。

30首作るのにとにかく苦労したし、お気に入りの歌もいくつかあって、別の公募に出すことも考えて長く仕舞い込んでいたんですが、この30首を詠んだときの自分はもういないし、もし何処かに残ってるとしたら尚更決別しないといけないという気持ちもずっとあって、たまたまnoteの存在を思い出したのでやっと手放すことにしました。放したところで、自分の歌であることに変わりはないけれど。

一昨年~去年は色々なことに苦しまされ悩まされ、ちょっと大げさに言えば死ぬ思いで繋いだ一年で、その重さが一番色濃く出ているのが一首目。短歌を作り始めて、何か目標が欲しくて、新人賞に出してみようと思い立って、でも締め切りぎりぎりになって数が揃わず、当時悩まされてた苦しみとは違う生みの苦しみにうんうん言いながら絞り出したのが、三十首目。改めて読み返すと、ずいぶん健康的に立ち直ったと思います(自画自賛)。

30首放出すればまた30くらいすらっと作れるんじゃないかという淡い期待。

全然関係ないんですが、ペンネームの苗字が「よもぎ」で、50音順だと後ろにワタナベさんくらいしか来ないので探すのとてもラクだと気づきました。

拙作ですがどうぞ。



「一人サーカス」 蓬 詩のぶ


宵闇をブランコこいで耐えている重い鎖に生かされている

ババ抜きと気づいた時には僕だけがペアになれずになんともピエロ

斜陽射す螺旋階段暖かく回り道して生きると決める

切りたての爪に絡んでた君の髪ふっと一息朝焼けに吹く

この愛の賞味期限を皿裏にこっそりと書く気づけば許す

ただいまのキスが痛むの伸びた髭朝帰りしたあなたはキライ

哀しみは続くようです玉葱の皮を剥くたび涙する人

星入りのマニキュア塗った指先を乾かしてくれ長い溜め息

週末に溜め込むいろは優しくはなれずに布団は強めに叩く

絆創膏の端の黒ずみ 世界とは夕焼け以外すべて汚い

冷めきった紅茶の砂糖飲み干して甘え上手な私に戻る

土筆煮はえぐみの残る仕上がりで彼の伸びしろは今吾にあり

理髪後の2ミリの黒髪いつまでも撫でていたいなまあるい平和

「出逢った日、ネコを被っていたよね」と聞くので私「にゃー」と答える

「御自由にどうぞ」の醤油を多く掴むこの手は何を手放すのだろう

買ってない新車をこする夢を見る僕は未来をまっすぐ視ている

カメラ持つ女子は桜に登りけり撮りたいものか撮られたいものか

陰口はそこまでにしようデザートのプリンもふるふる震えているし

降りやんだ驟雨を見やる窓のそと片手で受け止めきれぬほど夏

サヨナラは缶にしまって棚の奥オヤスミそこに在るだけでいい

雨宿り膝抱く私と滑り台触れられないまま終えたい日もある

色付きのコンタクトレンズが入らずに気づけば私ただ泣いていた

月火水(巡礼のように)木金土、日曜何かに赦され眠る

残桜を製氷皿に閉じ込めたシュレーディンガーの春は薄青

五円玉の穴に収まる幸せでいいやと思うあなたの横で

おむすびを作るの下手な君の手の米粒にまで嫉妬する僕

年齢が二桁になった日に「明日」と書いて窓から射し込む光

薫風を受けてはためくカレンダー予定はあえて入れないでいる

昔々、灰かぶりという(この先は個人情報保護のため秘匿)

階段を使ういつでも引き返せることは何より健やかなこと

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