三女の名言 其の弐「落ちちゃダメだよ!」【伊勢さんちの四姉妹】
四姉妹の出産話を経て、再び、それぞれの子どもたちの連載に戻ってみよう。
ちなみに、長女には「事件簿」、次女は「猟奇的」、三女は「名言」、四女は「冒険」とそれぞれに副題をつけているのには理由があり、長女はとにかく生まれてからこれまで「事件」と呼べるような出来事が多く、次女は「猟奇的」エピソードが多々あり、三女は年齢的にも「名言や迷言」が多いため、そういった副題をつけてみた。四女の場合は、まさにこれから人生が始まるので「冒険」である。
いずにせよ、副題はとくに内容とは関係なく、それぞれに事件や名言は飛び出すのでそこはあまり気にせずに、なんとなくな書き手のこだわりなだけだとおことわりしておきたい。つまりは、誰の話かにだけ注目していただき、なんなら、そのうち推しを見つけてもらえたら幸いだ(笑)。
ということで、三女の名言いってみよう。
日本語って難しい
3歳児というのは、みるみるうちに様々なことを吸収していく年齢で、3歳でだいたいの人格が形成されるともいわれる。
だからこそ、とにかく、覚えた言葉はすぐにも多用したいし、え? どこで覚えてきた、そんな言葉⁉︎ みたいな発言も増えてくる。しかも、まぁ、ピーチクパーチクとよくしゃべるし、これまで上ふたりも含めて、3歳児が一番面白いお年頃なのではないかと思われる。もはや、3歳児と触れ合い、眺めているだけで、最高のエンターテイメントを体感している気分にもなるわけだ。
思えば、育児漫画の名作「ママはテンパリスト」のごっちゃんエピソードも、3歳あたりが抜群に笑えた(※ちなみに、あのごっちゃんはもう成人しているという事実に震えた)。
そんなわけで、ある日、母と三女とでおままごとで盛り上がっていたときのこと。
何やらメルちゃん的な人形から、リカちゃん的な人形にプレゼントを渡すシーンにおいて、三女が母親の操る人形に向かって、「はい、これ、プレゼントだよ!」と言いながらとあるブツを手渡した。母は、御礼をお伝えしつつ、「喜んで頂きます!」と一言付け足してから受け取った。
すると、突然、三女の怒号が飛んだ。
「ママ、ちっがうよっ! 頂きますじゃないでしょ!」
え? 違うの?
喜んで頂いたらダメだった⁉︎
と、リアクションしたところ、、、
「食べちゃダメだよ? これは食べ物じゃないでしょ!」
なるほど、"頂きます"の使い方!
そう、彼女の中では、"頂きます=ごはんを食べる"が正解で、それ以外はあり得ないのである。とはいえ、現時点で「頂きますってやつにもいろいろあるんだよ」と教えたところでさらなる混乱を招くだけなので、日頃のコミュニケーションにて学んでいってもらえたらと思う。
洗濯物論争
続いて、同じような事例である。
我が家では、洗濯物はリビングを出たところに設置されている洗濯物カゴ的なものに、洗濯物を出す仕組みになっていて、ある程度それがたまると階下にある洗濯機へと誰かが運ぶ(※たいてい母か父であるが)。
まだ3歳児にもかかわらず、しっかりさんな三女は、自分で脱いだものはだいたいは自ら洗濯物カゴに入れるのだが、この日はテレビ画面から視線を離せず、うっかり脱衣っぱなしな状態がしばらく続いていた。
そこで母がこう投げかけた。
「洗濯物、ちゃんと出しておいてねー!」
と、何かにピンときたのか、我にかえってテレビから視線を離すと、猛烈な勢いで切りかえしてきたのだ。
「え? 洗濯物を出す? 出すじゃないでしょ、洗濯物はカゴに入れるでしょ!」
めんどくさいか!笑
彼女、どうやら、言葉に対するこだわりがお強めなようで、自分が認識していない使い方をされると正さずにはいられないタチのようだ。
たしかに、「出す」は、着替え時に、「ほら、足を出して」とか「手を出して」という使い方が多いので、「おいおい、洗濯物は出せないだろうが、何言ってんだ、このママは」という気持ちにさせられていたのかもしれない。
ひと問答あったあと、三女は、かなり疑り深い視線を母に突きつけながら、脱ぎ散らかした肌着やらパンツやらを洗濯物カゴに「入れた」。
王子様とシンデレラ
上に10くらい離れた姉がふたりいる三女は、3歳児然としたアニメやテレビ番組を観ることが少ない。
アンパンマンはほぼ観ていないに等しいほどに触れてこなかったし、ディズニー映画に関してもイマドキのものは観ても過去の名作にかんしては未鑑賞のものが結構あった。
ある日、姉ふたりが学校に行っていて、母の家事なども済み、平和な午後を過ごしているときのこと。ディズニーチャンネルで何かを観ようと、カーソルキーをピコピコと流していたら、「シンデレラ」のサムネイルを発見した。
プリンセスシリーズのシールなどで青いドレスのお姫様自体は認識していたようなのだが、イコール「シンデレラ」という認識はまだなく、「ママ、この水色のドレスのお姫様観たい」と好みのカラーを着ているという理由でシンデレラ鑑賞をすることになった。
すると、あっという間に物語の世界に魅きこまれ、食い入るようにテレビ画面に釘付けとなっている。
映像の古さなんて関係ない。これぞ、ディズニーのなせるわざか! なんて、感心しながら、久々のシンデレラを堪能する母。
0時の鐘がなる前の、幸せな時間を過ごしているシーンにて、そんな母が呟いた。
「いやぁ、王子様とシンデレラが恋に落ちちゃったねー!」
そうだねー。いいねー。本来ならば、そのくらいのリアクションで片がつくこのセリフ、なんの変哲もなさそうな一言にもかかわらず、三女の逆鱗に触れた。
「え? おちる? ママ、落ちちゃダメだよ!」
え⁉︎
「王子様とシンデレラは、このあと結婚するんでしょ! 結婚するんだから落ちちゃダメじゃない!」
え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ。
ふたりがうっかりどこかの穴に落ちてしまう⁉︎ と、彼女の脳内では、そんなカオスなストーリーが構築されたのかもしれない。
たしかに、このあとシンデレラは一度はどん底を味わうのだから、穴に落ちるの比喩は間違いではないのだけれども、この場合、彼女の脳内では、完全に王子様とシンデレラが落とし穴の中で手を取りながら、「まぁ、どうやって出ましょう」「ここはボクに任せておけ」などという、ラブロマンスから冒険ロマンスへと思い切りシフトチェンジしていたようなのだ。
「あ、ごめんごめん、そうそう、その落ちるとは違うんだよね。恋に落ちるっていうのは……」と、わかりやすく説明はしたけれど、やはり、さらなる混乱を招くだけのようだったので、別の意味合いについては少しずつ教えていくのがよさそうだ。こういうタイミングではすべてを理解はできないかもしれないけれど、ひとまず伝えておくというのがあとあと効いてくるものだと思いたい。
ということで、結論から言うと、、、。
日本語って難しい。
わけなのである。
共に勉強していこう!