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スミソニアン自然史博物館(3)大地と人が作りだす「芸術的な宝石たち」


今回も感動の世界をご案内します。

National Gem Collectionのお部屋に入って、大きく目立つのは、

Dom Pedro Aquamarine

ドイツ研磨の巨匠、ムーンシュタイナー氏(Bernd Munsteiner)がカットしたアクアマリンの彫刻です。高さ35センチという大きさもオベリスクの形も圧巻!重さは10,363ct。1980年代後半にブラジルのミナスジェライス州の鉱山から1メートルになるアクアマリンの結晶が発見されました。残念ながら掘り出し作業の時に落としてしまい、三つに分かれてしまいます。そのうち二つは宝石に加工されました。

そして残った一つが、ドイツのイーダーオーバーシュタインの宝石商の目に留まります。購入の交渉から始まり、購入後に原石をブラジルからドイツまで運び出す時には管制塔に原石を隠しておいたなど、多くの困難があったそうです。

そして無事に届いたアクアマリンの原石にムーンシュタイナーは一目惚れします。「自然が大きく育てたものを人間が小さくしてはいけない!」4か月かけて、どうカットするかを研究し半年かけて美しい彫刻が出来上がりました。

そして、ブラジルの2人の皇帝に因んで、Don Pedroと名付けられます。

ムーンシュタイナー(UNERATHED抜粋)


私は以前、ドイツのイーダーオーバーシュタインに行きムーンシュタイナーに会ったことがあります。突然メールして会いに行ったのですが、、、。

その時のブログ😝↓

このアクアマリンは2011年、Ms.Jane MitchellMr. Jeffrey Blandご夫妻から博物館へ寄贈されました。

上の画像の右下に何本も縦線のようなものが見えますが、これはレインと呼ばれるアクアマリン特有のインクルージョンです。まるで自然が作った彫刻のように見えますね。

レインとムーンシュタイナーのコラボ作品、勝手にそう思って私の中では価値が更に高まっています。


次も魅力的なアクアマリンです。

左はアクアマリン原石、右はMost Preciouse Aquamaline

アクアマリンは鉱物名はベリルで、含まれている鉄の相対量で青から緑がかった青に変わります。

右の研磨されたアクアマリンはMost Preciouse Aquamarineと呼ばれ、透明度が高く、大きさが1000ct!1951年に発売されたEvyan Prefumesの香水、Most Preciouseにちなんで名付けられたそうです。香水会社のオーナー、Dr. Walter Langerが販売促進として、ブラジルのミナスジェライス州のMorambaya鉱山のアクアマリンを1万ドルで購入。香水の宣伝後に博物館に寄贈されました。

左のアクアマリンの原石もMost Preciouseのアクアマリンと同じ産地から産出されました。その重さは3.1kg!この二つは同じ大地から生まれて、アメリカのワシントンDCで再会。同じケースに並べられている姿を見るとちょっと感動します。



こちらはアクアマリンと同じ鉱物ベリルであるエメラルド

Gachala Emerald

見た瞬間に思ったのは、「なんと神々しい!」私は漠然とした宝石のパワーは信じてないのですが、これは私に語りかけてくる気がしました。大地の恵み、その偉大さ、宝石が尊いものであることを再確認させてくれる原石です。

いやー、ホントすごいわ…。

このエメラルドは858ct、高さ5がセンチです。1967年コロンビアのGachalaにあるVega de San Juan鉱山で発見され、ニューヨークの宝石研磨師のMr. Al Hornが入手しました。最初このエメラルドは研磨される予定でしたが、原石入手の話を聞いたハリー・ウィンストンが、博物館に原石として寄贈する為にMr. Harnから購入、1969年に博物館へ寄贈されました。

いや、ホントすごい、すごいエピソード…。

購入して寄贈したハリー・ウィンストンもすごいけれど、研磨した後はもっと高値で売れるとわかっているエメラルドを売ったMr.Hornの行動も文化的ですね。

この画像はとても気に入っていて、スマホの待受にしています。見る度に気持ちが落ち着きます。携帯画面は見る頻度が多いので、気持ちを上げる画像、明るい気持ちや落ち着かせてくれる写真を使用すると元気が出ますよね、宝石から話がずれてしまいましたが😌良ければこの画像をどうぞ…。

さて次はアジアから、

左からスタールビー、スターサファイア、キャッツアイ

それぞれのネーミングは、

Rosser Reeves Star Ruby、Star of Asia、Maharani Cat’s Eye

画像左のRosser Reeves Star Ruby 138.72ct。縦が3センチ、高さが2.6センチを超える、おそらく世界一の大きさのスタールビーです。スリランカで産出されたのは1953年以前だそうで、1965年にテレビ広告の先駆け者でもあるMr.Rosser Reevesから博物館へ寄贈されました。彼がこのスタールビーを入手したのは1950年代後半で、その時の大きさは140ctでしたが、スター(3条の光の帯)の位置を中心に持ってくる為にわずかに研磨し直しました。

彼は幸運のお守りとしてルビーを持ち歩いたそうです。寄贈の時に添えられたメモには以下の言葉が添えられていました。

As delighted as I am to see such a splendid museum get this remarkable stone, I must say that it is with a feeling of regret. It is my ‘baby’ and I miss it.
素晴らしい博物館がこの著しく優れた石を入手することを喜ばしく思いますが、残念な気持ちでもあります。私の赤ちゃんと離れるのは寂しい気持ちでいっぱいです。

宝石は出会いだと私は思うのですが、自分にとってパートナーや親友のように感じる宝石と出会えることは奇跡です。だからその別れはとても辛いでしょう…。でもそのおかげで多くの人がルビーを見ることができるので、寄贈して下さったことに感謝です。

画像真ん中はStar of Asia 329.7ct、世界最大級のスターサファイアです。1961年にダイヤンドと引き換えにスミソニアン博物館に転売されました。 売り手はMr. Mr.Jack Masonの代理人である鉱物商のMr.Martin Ehrmannで、当時は「最高級のビルマ産。過去の持ち主の中にはインドのジョードプルのマハラジャがいた」と言われてましたが、いえいえ、それは捏造されたエピソードでした。

しばらくの間、博物館もその話を信じていましたが、古い新聞記事(1950年)を発見して、それがビルマではなくスリランカから産出されたことを知ります。裏付けの為に最初の所有者であるスリランカのMr. Syed Mohamed Maricarの孫に連絡を取りました。下の画像はお孫さんが持ってたもので、1958年にロンドンでこのサファイアの商談をしている時のものです。

(UNEARTHEDから抜粋)

上の青い画像は、スターサファイアのインクルージョンのシルクが輝いています。先に紹介したスタールビーもですが、どうして宝石にスターが現れるのでしょうか?

サファイア(鉱物名はコランダム)が地中深くで成長する時に、結晶内に閉じ込められていたチタン原子は冷める段階で針状の鉱物ルチルになります。この針状のルチルは120度の角度でそれぞれ三方向へ配向します。そのルチルに光が当たると六条の光の帯が現れます。この現象をアステリズムと呼びます。

さて画像右も光の帯が作り出す美しい宝石、Maharani Cat’s Eye 58.19ct、スリランカ産です。

キャッツアイは鉱物(宝石名も)クリソベリルで、カボションにカットをして猫の目のような一条の光が現れるものをキャッツアイと呼びます。この目のことをシャトヤンシー効果と言います。1961年、ダイヤモンドと引き換えにNYの宝石放射線鑑別所のMr. Noel Levkoから博物館へ。ネーミングのマハラニはインドの女王を意味します。この大きさもクオリティの高さも、まさに女王様級ですね。

さてお次は見た時に炎のようだと思ったトパーズです。

Whitney Flame Topaz

展示の仕方が宝石の潜在的な魅力を更に引き出していますね。ただ宝石を置くだけではなく下から挟んで宝石が燃えているようです。ちょうど私の影が写り込んで、額の位置で炎が燃えている様子が楽しくてそのまま撮りました。なんだか情熱の炎を秘めている感じ、、、かしら😝

宝石のネーミングにも炎の文字が入っています。展示室の中でも一際目を引きました。

宝石の炎ですね

トパーズのサイズは、48.86ct、ブラジルのミナスジェライス州のCapao鉱山から産出されました。原石の状態では200ctを超えていましたが、最初はコレクター用に50ct強に研磨されました。その後プロポーションを整える為に再研磨されています。

Coralyn Wright Whitney博士がツーソン(宝石と鉱物)ショーで見つけて、博物館の為に購入して2018年に寄贈しました。彼女の博物館への功績は長年に渡り、2009年には17.08ctのブラザビルのミナスジェライス州の鉱山から産出された最高級のアレキサンドライトも寄贈されています。

左 Whitney Alexandrite

こちらも彼女の名前がネーミングにされていますね。

Whitney博士は1990年にワシントン大学で生物統計学の博士号を取得して、同大学で研究教授を務めました。 引退後に幼少期からの石への情熱を再燃させ、大学院で宝石学の資格を取得しています。

宝石だけに限らず、博物館の科学教育センターへ1,300万ドルの寄付もしており、当時のスピーチで、「学ぶことは私を明るくしてくれます。それは私の若い頃に始まった情熱であり、私から離れたことはありません」と語っています。

まさにこのトパーズのような情熱の炎がずっと消えることなく心にあるのでしょうね。素敵💓


さて、炎とこちらも名前がつく宝石に、

Blue Flame Lapis Lazuli

炎の形に彫刻されたアフガニスタン産出のラピスラズリです。重さは75kg!ドイツのイーダオーバーシュタインでカットされました。博物館へは、Ms. Jane MitchellMr. Jeffery Bland ご夫妻から2015年に寄贈されました。芸術的な青い炎ですね。


そして、その大きさにびっくりした宝石は、

American Golden Topaz

淡い黄色のトパーズです。大きさが22,892.5ct! 縦が約17センチ、横が約15センチ、高さも約9センチあります。こちらの産地もブラザビルのミナスジェライス州、この州は大地の宝庫ですね…すごっ。その大きさでどれだけ驚いたかと言うと、

(UNERATHED抜粋)

両手にずっしり置かれる宝石😳この大きさを172面体のファセットに研磨したのはMr.Leon Agee。約2年間(夜間と週末に1000時間)かかったそうです。研磨後が約4.5kgなので、原石の大きさはゆうに10kgは超えていたのではないでしょうか…磨くには重すぎますよね。これは1988年、博物館の寄付で集めた4万ドルで購入されました。だからネーミングにアメリカとついているのでしょう。

ティファニー社寄贈のコレクション

展示されている宝石の光の当て方がエレガントで、この空間にいるだけでなんとも優雅な気持ちになれます。宝石は特に興味が無いと言う方も大地の恵、人類全員の宝物を感じられるのが博物館の醍醐味ですね。

輝きを放つ宝石はまさに芸術的な宝石です!

さて、このシリーズも3回目ですが、この記事もスミソニアン自然史博物館のキュレーターであるJeffrey Edward Post博士の本を参考にさせてもらいました。

まだまだここでご紹介できないお宝級の宝石のお話しがたくさん書かれています。

博士は地質学、宝石学、地球科学の専門で、1984年からスミソニアン博物館自然史博物館の鉱物科学部門に所属しています。その前の3年間にはハーバード大学の地質科学部門で博士研究員を務めていました。 1989年から1994 年と2014年から2019年には鉱物科学省の委員長も務めたという輝かしい経歴の方です。150を超える科学論文を出版して、昨年の2023年、宝石学の分野に多大に貢献した人に贈られる、 アントニオ・C・ボナンノ賞 (Bonanno Award)を受賞しました。

私は、ワシントンD.C.滞在中にこの本にサインを貰いたいと、全く面識のない博士にメールをしました。残念ながらタイミング合わず、お会いすることは出来なかったのですが、「次回会える時にはサインをしてあげるよ」とご丁寧に返信を頂きました。やったー!

次回は鉱物のお話しです。まだまだ続くスミソニアン…お楽しみに!


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