バレンタイン、憧れの先輩にチョコをあげた次の日「もう一個ちょうだい」って言われた話
私が通っていた中学校は男女共学で、所属していたバドミントン部も男子女子それぞれがある部活だった。
小学生の時は、あまり年齢を気にすることもなく縦割りで仲良しだったが、中学生になると年齢が一つ違うだけで年上を「先輩」と呼ぶようになり、社会的地位が強調され始める。
私の部活には、一つ上の学年に一際かっこいい先輩(私がかっこいいと思っていただけかも)がいた。
フォームも綺麗で、練習も熱心。
運動神経が良くバドミントンだけでなく体育祭などでもあらゆるスポーツで活躍していた。
試合でも他の先輩に比べ勝ち進むことも多くまさに私の憧れの存在だった。
前置きが長くなってしまったが、私の部活にはバレンタインに後輩女子が先輩一人一人にチョコを渡すという文化があった。
(先輩方はチョコをくれた後輩にホワイトデーでお返し)
それまでのバレンタインと言えば、小学生の時に、デパートで売っているような包装のかわいいチョコをクラスメイトにあげたことがあるくらいで、いわゆる「手作りチョコ」なるものを作ったことはなかった。
同級生たちにどんなチョコ菓子を作るべきか相談し、親にレシピ本やオーブンを買ってもらったり張り切ってしまった。
そう張り切ってた割には、最も無難なクッキーと生チョコという形でおさまった気がする。
バレンタイン当日、先輩たちは後輩がチョコをくれることを知っているため、あまりソワソワはしていなかったと思う。
むしろクラスの男子の方がソワソワしていたのではないかと(?)
そして私たち一年女子は、昼休みに各クラスを回り、先輩一人一人にチョコを渡しに行った。
私の初めての手作りチョコは、密かに憧れていた先輩の手にも渡った。
当時は、その憧れの先輩にだけ中身を豪華にしておくことや、手紙を入れておくなどの小賢しいことが思いつくような人間ではなかったので、私が先輩に特別憧れを抱いていたことはバレていなかったはず。
しかし、バレンタインの次の日、私にだけとある出来事が起きた。
それが、その憧れの先輩からの「あいしのチョコ美味しかったよ、もし材料とか余ってたらもう一回作ってくれない?」というお言葉。
しかも言われたタイミングは、部活後の集合で顧問が話している途中、ボソッと耳打ちのような感じだった。
私はもう顧問の話など入ってこないほど頭が真っ白に。
「今なんて!?」
「みんなに言ってるのかな?!」
「ただチョコ食べたいだけなのかな!?」
帰り道、方向が同じだった同級生に、「〇〇先輩にもう一回チョコ作って欲しいと言われたんだけど、みんなに言ってるのかな?」
と聞いたら、「え!私は言われてないよ、あいしだけじゃない?」と。
「えーーーーーーーーーーー」
家に帰ってから、すぐさま残っていた材料を使ってチョコ作り。
しかし私は本当にバカだったんだと思う。
いや、大バカ者すぎた。
クッキーの材料は残っていなかったので、生チョコだけを作ることにしたが、普通にチョコを、しかも今度は一人で先輩に渡なさなければいけないと考えるととんでもなく恥ずかしかった。
そのため、「言われたから作りました感」を出そうと、余っていた生チョコが全部入るだけの銀紙を用意し、チョコを流し込んだ。
形など可愛げも何にもなく、ただぎっしりチョコが詰まった直方体が完成した。
(ちなみにバレンタインに先輩に渡したやつはかわいい銀紙に小分けに入れていた)
それを何の疑問もなしに次の日の朝先輩に渡した。
そして長方形のチョコの塊は先輩の手元へ。
多分先輩も初めにもらったものとは見た目も包装も異なりすぎてドン引きしたのではないかと思う。
そのチョコに関しては「美味しかったよ」とも「また作ってね」とも言ってもらえなかった以前に何の感想もなかった。
まあ、先輩はただ普通にチョコが食べたかっただけだと思うから何の問題もなかったはず。
だってその先輩女だし。
今は多様性が強く意味を持つ社会ゆえ女だからを理由にはできないだろうが、当時の私は同性に恋愛感情を抱くという概念がなかったため、ただ本当にプレーの技術や運動神経の良さという部分で憧れを抱いていただけだった。
その先輩がたまたま横にいた後輩にチョコをもう一回作ってと言ったら可愛げの欠片もないチョコの塊がやってきたというだけの話。
たとえばこれが好意ある男性へだったら、長方形のチョコの塊を渡すことは女としてどうなのかと手作りチョコ初心者の当時の私でも流石に思ったはず。
先輩も「何これ」って絶対思ったんだから、その時突っ込んでくれれば良かったのにと思う。
その後も部活で先輩に仲良くしてもらい、平穏に先輩の引退を見届けることができた。
私の直方体チョコ、あの時先輩はどう思ったんだろう。