シン・結婚式
リビングで20人強の参加者が見守る中、奥の部屋から新郎新婦が入場、式の始まりです。
主役の二人が記念すべき日の晴れ着に選んだのはペンキで無造作に汚されたスーツとウエディングドレス、最高にクールでした。
式開始早々、私たち参加者は新郎新婦の手料理に舌鼓を打ちました。新婦お手製タコライス、そして新郎が目の前で捌いて作ってくれた鯛の活け造り。捌かれた鯛の頭に満面の笑顔の新郎新婦が包丁を入刀、初めての共同作業、ケーキ改め鯛入刀です。もちろんファーストバイト(鯛)も見ることができました。
やたら美味しいタコライスをおかわりしようとすると近くにいたカッパに声をかけられました。
「会費3000円しか払ってないやつは下の下だからおかわりするな」
「カッパはいくら払ったんですか」
と聞くと
「3000円」
と言われました。
食事を終えるとビンゴ大会が始まりました。
ハッピーちゃん(頭には巨大な被り物、体には大きなアップリケで無数のポケットが装着されたカラフルな着ぐるみ。掌には「おめでと!」の文字。お腹のポケットから「祝」の文字が書かれたハートを取り出し新婦に渡すなどする)が現れ、ビンゴ抽選機を回すではありませんか。
彼女(?)はあまり喋れないのか抽選器から出た球に書かれた番号は司会の方が読みあげます。ハッピーちゃんは黙々と抽選器を回し続けます。
20等以内にビンゴした人は新郎新婦とチェキ撮影ができました。ただし新郎新婦と肩を並べることを許されるのは1等の人のみで、下位になればなるほど新郎新婦との距離を離され写真に写りこむのが困難になります。3等や4等の人は身を乗り出して新郎新婦の肩を掴み肩を組んでいるように見せるなどのあがきを見せていましたが、5等以下となるともはや新郎新婦に触れることも叶いません。
7等だった私はできるだけ大きく写ろうと前傾姿勢になるもバランスを崩し前方に倒れかけました。心配の声があがると思ったのも束の間「ズルするな」「耐えられなかったフリするな」などのヤジを飛ばされました。
カッパはというとヤジに夢中で自分のビンゴカードを見ていませんでした。ゲームもクライマックスを迎える頃、ビンゴはおろかリーチすら生まれない自分のカードを見ながら「俺は本当はもうあがっている」と言っていました。
1等と3等にはチェキとは別の景品がありました。1等はスピーカー、3等はギタリストが用意した茶封筒でした。結婚式の終盤にギタリストが茶封筒の中身について「1300円回収すればいいところ、2700円回収してしまって浮いていた1400円です」と言っていました。ロックです。
新婦のお母さんは最後までビンゴに辿り着けていませんでした。
ビンゴに引き続き、新郎新婦の似顔絵大会が開催されました。参加者は2組に分かれ、1組目が新郎、2組目が新婦の似顔絵を描きます。制限時間10分で描かれた似顔絵を作者不明の状態で本人たちに見てもらい、最もグッときた絵を選んでもらうというルールです。1組目の私は新郎に何度も「目線ください」とお願いするもそもそもの画力不足からヤマンバが完成、選んでもらうことは叶いませんでした。
隣で描いていたやつは「目線ください」と言いながらさっき食べた鯛の魚拓を描いていました。
新郎の好きな食べ物(餃子だそうです)を聞き出しそれを描くことでポイントを稼ごうとする愚か者もいましたが、当然選ばれていませんでした。
2組目、新婦の真正面という特等席に座った人は3枚もの似顔絵を完成させていました。1枚完成する度に仲の良いギタリストに見せに行っていましたが、3枚どれもほとんど同じ絵でした。新婦の瞳と結婚指輪で土星のような惑星を描いた作品、無数に並んだ単語や文章が新婦を形作る作品などが並ぶ白熱した戦いでしたが「上手いだけでなく愛を感じた」と新婦に言わしめた似顔絵が勝利を飾りました。「俺のも愛なんだけどね」と言うカッパは新婦が海に溺れる絵を描いていました。
会場には広い庭があり、雲一つ無い青空の下で風船を持った新郎新婦と共に記念撮影を行いました。ドローンによる上空からの撮影も行いましたが、全員を画角に入れるのが容易なのでおすすめです。
カッパはというと「おめでとうございま~す!」と番傘を掲げくるくる回っていました。「今ではもう見られなくなった傘回しを見せる。小石を投げてくれ」との声には期待に胸が膨らみましたが、番傘に穴があいて終わりました。室内に戻るとハッピを着たおかめが躍り出てきました。ハッピーにハッピにややこしいです。おかめも番傘を開いてこちらは上手にボールを回していました。 1日に2度の傘回しを見るのは初めての経験でした。
次はDJタイム、カッパがDJになりフロアを沸かせます。ドリフターズの曲に始まり、カッパが川で聞きそうなチューリップの曲が続きました。3曲目にドリカムの「LoveLoveLove」がフル尺で流され、突然のラブソングに私達は動揺しました。次はノれる曲にするぞ!と流したのはX Japanの紅。紅だあー!の叫びとともに参加者の1人が急に苦しみだしたではありませんか。「あれはYOSHIKIだ。この会場にYOSHIKIがいるぞ…」とカッパ。YOSHIKIは紅中ずっと苦しみながら前腕でXの文字を作っていました。尾崎豊の「OH MY LITTLE GIRL」が流れた際には、尾崎豊も現れました。「この会場には尾崎もいるのか」とカッパ。モー娘。2連続からの中村和義で感情を揺さぶられます。最後は皆で新郎新婦に向け「カントリーロード」と「雨上がりの夜空に」を合唱しました。
「『ママ』以外の言葉で初めて喋ったのが『キャンペーン実施中』で、その後の人生でも色々なキャンペーンを実施してくれました。今日の結婚式は私にとって一番のキャンペーンでした」
母親から新婦への手紙に笑い涙しました。新婦が初めて履いた小さな靴下を持ち出して話した「これからもこの足で歩いて行くので、くれぐれも大切に、お元気で頑張ってください」という言葉に私は特に感動し、靴下の化身であることに誇りを持ちました。
「愛って何、とか言いたくないんですけど、私はお母さんの態度や姿勢から学んだと思っています。私をここまで生かしてくれたこと、改めてありがとうございます。平成に生まれて、とっても楽しいです。最高」新婦から母親への、これまた最高の手紙でした。
新郎新婦のお色直し(新婦はボーダーシャツにペイントされたオーバーオールを着てハートのサングラスをかけていました)を終えると、司会の1人が「歌に合わせたまる読み」というイベントを行いました。選ばれた4人が一列に並び、司会が熱唱する中で渡されたメッセージを代わる代わる読み上げます。「おめでとう」「結婚したんだね」「でも、そんなことは」「今は考えない方が良いよね」と句点で区切って一言ずつ祝いのメッセージを伝えます。ぶっつけ本番で参加させられた4人が徐々にそれぞれのキャラクターを出していき謎の世界観が誕生しました。
ドラマー(新婦)、ギタリスト、デジタル木魚(?)の3人によるバンド演奏も行われ「脳みそを半分取りたい」や「I can’t 糖質制限」が響き渡りました。700mlのコーラを箱買いしているものですから「I can’t 糖質制限」は腹の出てきた私の胸に突き刺さりました。「実はもう1人反抗的なボーカルがいるんですよ」という紹介とともに特等席で新婦の同じ絵を3枚描いた男が乱入し洋楽を熱唱していました。アンコールに応え、新婦が新郎のために歌う姿を見て「こんなことしてもらえるって、いいなあ」としみじみ感じました。
式のラストを飾るブーケトスを、裸にストッキングと白靴下のみを身に纏った男が担当しました。腹にはSOX、背中には寿の文字。私です。「挨拶が長い」「風向きを読め」などのヤジを飛ばされました。「寒いから早く投げろ」という声も聞こえましたが、どう考えても私の方が寒いです。股下から放ったブーケは瞬く間に地面に到達し、ブーケゲットへの意気込みが強すぎる3人が衝突して倒れていました。もみくちゃになりながら他2人を突き飛ばしブーケを掴んだ拳を高く掲げたのは尾崎でした。
私は勝手に用意した2つ目のブーケを取り出すと、1投目の反省を活かし地面に落ちないように慎重に股下から放りました。結果、真後ろにいた最年少の女の子の手元への完璧なパスとなってしまいました。「何をしているんだ」「公開告白したいだけだろ」「帰れ」などとヤジを飛ばされました。
続いて本命、新婦のブーケトスです。新婦が頭上から放ったブーケは風に流され色々な人の手を弾き、少し離れてベンチで休んでいた既婚者の腕にスポッと収まりました。「お前、何やってんだよ!」とカッパが既婚者にキレていました。
かくして最高の結婚式が終わりました。総括を頼まれたカッパは「総括はムリだ」と、穴のあいた番傘をくるくる回していました。
おめでとうございま~す!