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鋸山に行って来たよ-31
これまでのお話
お風呂で心身共に綺麗さっぱりしたら今日もお待ちかねのお寿司タイム。
昨夜は寒さかったから私はロンパンの中にスパッツ、たぁも厚手のズボンを履いて互いにダウンを持って部屋を出る。
一度、寿司屋を通り過ぎて今日行きたかった食堂へと行ってみる。近くだしね。
残念。
グーグル検索通り、お店は閉まっていた。素直に寿司屋へ踵を返そう。
「昨日とは違うスタッフだといいな」
「どうして」
「『また来た』って思われるのが嫌だから」
「別にいいでしょ。『おいしくてまた来てくれたんだね』って思ってくれるよ」
そうだよね。なにをくだらないこと思ってもおいしさに惹かれて店に戻るんだ。今日も堪能させてもらおうじゃないか。
変なところで自意識過剰になってくだらない気苦労する私よりもあっけらかんと素直になれるたぁのほうが生きていて受け入れられるものが多い気がする。
店のドアを開ける。
あっ。昨日、案内してくれた青年スタッフだ。
くだらない気恥ずかしさが蘇ってきた。
だけど青年は何も気にせず席へと通してくれる。
そうだよね。一度しか来店してないお客さんの顔なんて覚えていないよね。
楽観蘇る。
席へと座り「今日のおすすめ」を説明しようと彼はたぁの顔を見て一言。
「あっ」
やっぱり気づいたか。
また変な感情がチョットだけ戻ってきたけど現実となったことを受け入れる「今さら精神」も加えられて逆に解放されてスッキリ。
物事は現実化する前のほうが変に考えるもんだよね。
たぁが笑顔を返すと青年はそれ以上余計な言葉は発しなかった。
さぁて、気恥ずかしさは忘れておいしいに浸ろう。
食いしん坊の私は既に今日食べたいものを決めている。
好物のえんがわ、昨日おいしさに痺れた太刀魚そして何かの三点盛りとお刺身。光り物が苦手なたぁは東京湾で取れた地魚には興味がないけど私はいただきたい。だけどお寿司だと米がお腹に溜まってしまうのでこういう時はお刺身に限るよね。
「昨日は飲み過ぎちゃったから今日は気を付ける」
「それならお寿司屋さんで飲むお酒を減らして、宿で飲めば」
たぁは部屋という二人だけの空間でのんびりと飲むほうが好きだ。
「だけど食べていると勢いでつい飲んじゃうんだよね」
「僕は一杯で止める。今日は生じゃなくて瓶ビールにする」
そうなのね。なら私もとグラスを二つお願いする。
たぁは冒険せずに知っているおいしいを飽きることなくずっと食べられる人。
マグロ3点盛り、サーモン3点盛りにウニ・いくら・ねぎとろ3点は昨日と全く同じで迷うことなくすぐに注文した。
今日も何か揚げ物を食べたいな。
そういえば鮮魚店では干しイカを売っていた。多分、名物なのかもしれないからイカの唐揚げを注文しよう。
「すみません。今日はえんがわありません」
うーん。一番の大好物を失った痛手は大きい。だけど昨日500円だった太刀魚が350円だったからプラマイゼロということで。
注文した品が届くとたぁの目は輝く。好きな人の幸せそうな顔を前に食せることはこの上ない幸せだ。
「イカの唐揚げ、すごくおいしい」
歯ごたえがあるのに噛みきれがよくて、新鮮な味わいが揚げられることで引き立てられている。たった250円なんて信じられない。
「あっ、それ昨日頼んだお寿司」
太刀魚のお寿司を見てたぁが言う。自分のオーダーは全て昨日と一緒なのにそこはスルー。
「そうだよ。だって太刀魚めっちゃ美味しかったから」
だけど、そのお味は・・・・・・昨日よりも劣っている気がした。新鮮さが違うのかな。だからサービス価格だったのかもしれない。
“おいしいものをいただくのにケチるのは良くない”を学ぶ。
「お刺身食べる?貝の盛り合わせならホタテがあるよ」
ホタテは彼の好物だから一緒に食べることを思って選んでみた。
「うーん・・・・・・食べない」
彼は刺身より、お寿司派だ。それなら地魚3点盛りを頂こう。
瓶ビールは瞬く間になくなり、もう一本を追加注文。
地魚三点盛りが届いた。
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うぅ、なんて光り輝いているんだ。
鯵は歯ごたえからその新鮮さが伝わり、他二点も歯触りが良くたんぱくながら広がる味わいを堪能できた。だけどメニュー表にこの2点の名はなく明確に何の魚だったのかはわからず口にしていたことは残念だった。尋ねるなんてことすっかり忘れていたしね。
その後、たぁは海老を私はマグロ寿司を追加して、最後にウニを半分こ。
二人で目を閉じていただく。
はぁ~。
ハーモニーが口の中に広がっている。
昨日も食べたはずなのに今日も驚くうまさに合掌。
すっかりお腹もいっぱいになった。瓶ビールにしたことでたぁが言っていた通り、一人一杯(一瓶?)で収まった。
会計のためカウンターに向かうとあの青年がいた。
「お泊りですか?」
「近くに泊まっています」とたぁ。
「そうなんですね。今日、お帰りですか」
「明日帰ります。おいしかったです。ありがとうございました」
「また来た時はお願いします」
新鮮魚に素敵な対応、言うことないよ、船主さん。
このお店のためだけにもう一度ここに戻って来たいくらいです。
ご馳走様でした。
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