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鋸山に行って来たよ-08
これまでのお話
傾斜がきつめの車道の脇にはガードレールがあってその向こう側には広いスペースがある。
「車道よりこっち歩きたい」
確かに急に車が来たら、安全とは言えない場所を歩いている。
「でも排水路だよ」
歩くのに十分なスペースなんだけど水路を覗けるでかくて四角い穴が並んで開いている。よそ見して落ちる可能性の方が高そうだから、たぁの案は却下。
おしゃべり三人組との距離がどんどん縮まってきた。
「このまま抜いてもらおう」
「うん」
空を見上げながら素知らぬふりして抜いてもらい、彼らの姿が見えなくなるまで待っていたかったけど、先の分かれ道で地図を広げて止まってしまった。それでもしばらく待っていたらトンネルへと消えて行った。
それを見届けた後、私たちは分かれ道の土道へと進んで行くと、なんと彼らは戻ってきて、また私たちの後ろへとついた。
トホホ・・・・・・。
緑に囲まれた平坦な道、車力道へと入った。案内図だけではなく、採掘される石の情報など様々なガイドがあり、人気の場所だと伺える。
木からの落とし物がたくさん道に落ちている。
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ウネウネ毛虫にも見えるし、ハイブランドのパターンのようにも見えちゃう。
木の根道となり、ハイキング感が一気に高まる。
迷路のように這いつくばる根の合間を足の置き場を気にしながらルートを自ら選んで歩いていく安全チャレンジがたまらなく好き。
その先に大きな岩を削って出来た道が待っていた。
〔鋸山(正式名は乾神山)は山全体が火山性の堆積物で出来ていて、その岩石は「房州石」という呼び名で切り出され、京浜地方などに集荷されていた。ここ車力道は頂上部付近で切り出した石を運び出した道で、岩石を木製の荷車に乗せ、急傾斜の道をブレーキをかけながら下ろしていた。それは女性の仕事でもあり一日三往復する大変な重労働だった。今も道の表面に荷車の轍が残っている。〕
コース入り口で目にした案内板の内容を思いながら歩けば、その情景が頭に思い浮かび時間を超えた旅に出る。
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岩の合間の道を抜ければ土道に繋がり、先の空間では左右にたくさんの木や枝が投げ倒されていた。
「なんだかここの木々、すごいことになっている」
「そういえば、沢の道って行けなくなっていたよね」
たぁの言葉で途中で見かけた案内板を思い出す。
≪沢のコースは台風後の倒木と崩落で危険な状態の為、通行禁止です≫
「ってことはこれって台風の影響?」
令和元年(2019年)房総半島に台風15号が上陸し、記録的な暴風が襲い多岐にわたり大きな被害をもたらした。その時、東京にある私の実家も屋根他から水漏れを起こし、修理にかかった額でがっくり肩を落としたものだ。
根をしっかり張った木々はその猛威に勝つことが出来なかったようで根本から崩れ、互いに押し倒し、今でも荒れた状態だ。
温暖化の影響もあり台風はどんどん力を増している。それは日本だけのことじゃない。
これからの世界を思えば期待と共にたくさんの不安だってある。
私たちの歩くスピードは決して遅くないけど、写真を撮りながら、台風跡を見ては呆然と立ち尽くしたりするから、きゃぴきゃぴ三人組の声がまた耳に届くようになった。
道を譲るためにたぁは立ち止まったけど、そのすぐ後ろからも別のグループが来ていたので諦めて前進することにした。
道の周りには切断された木がたくさん転がっている。台風の後、山を管理してくれている人たちが道を再生するために手を施してくれたのだろう。
彼らの努力があってこそ、登山者は山を歩くことが出来る。
どの山においても管理してくださっている皆様方には頭が上がりません。本当にいつもありがとうございます。そしてこれからもどうぞよろしくお願いします。
私は一登山者として山を汚さぬよう、ちゃんとゴミは持ち帰り、山の恵みは写真に納め、持ち帰ることなどいたしません。
先は石ころ道となり、その合間を昨日の雨の影響か透明な水がチョロチョロ流れて光が反射して美しい。
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その先は再び車力道としての姿へと変わり石畳み道になった。
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木陰道に置かれた石たちは全体にたくさんの苔が成長している。
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山で出会う苔、こだまが今にも見えそうで好きです。
休憩場所を通り過ぎる。
「ここに座る」
たぁの意見を尊重して、日向のベンチで休む。
ニュージーランド人、お肌が白いたぁはハイキング中の日向休憩を嫌がる。もしここを私が選んでいたら文句を言われていたことだろうけど自分で選んだだけに、何も言わずに座っている。
3月中旬、晴天の中、太陽は私たちを照らすものの吹く風はまだ冷たい。
「暑い。リュックと背中の間に汗かいた」
今日は二人でコンパクトリュック一つだけを持っている。中には麦茶1ℓに上着など簡単なものしか入ってないから重さは問題じゃない。
「なら私が持つよ。さっきまで背負って汗かいたが場所が冷えて寒くなったから」
その間に3人組と別の二組が抜いていってくれた。
その先の広場では切られた石が集まって苔を生やして、かわいい。
凛と立つ子、片方に重心をかけてだるそうな子、完全に他人に寄りかかる子、へばって寝転ぶ子。
団体行動感に萌え。
その先は石段が続く。ずっとずーっと続く。
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きゃぴきゃぴ3人組のうち二人が止まっていたので抜こうとしたら、歩き出した。
ふっ、そういうものだよね。
だけどその先で道を譲ってくれたから「ありがとう」とお礼を告げて、息を弾ませて彼らを抜いて登り続ける。
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