伊豆天城山でハイキング-49
風呂上がり、たぁは海を見ながらギターを弾く。
朝日が顔に当たらないようにカーテンを少し閉めながら楽しむ趣味の時間。都市部のコンクリートジャングルに住む私たちには滅多にできないことだから今のうちに十分楽しんでおいてほしい。
8時、朝食を頂くため食事処へと向かう。貸切展望露天風呂の予約はいっぱいだったのに、今朝もちらほら人はいるけど混みあっているような雰囲気ではない。やっぱり素泊まり客がほとんどなのかな。
ホテル伊豆の音の朝食はアジの開きをメインとした和食だけど、それだとたぁは食べない。
彼は20年以上も日本に住んでいるのに嫌いな日本食が多く、食べないと決めたら(頑固に)食べない。
長い付き合いからそのことは十分知っているので、誰も嫌な思いをしないように事前に洋食をお願いしておいた。
席に着くとすでに私たち専用の食事が用意してあった。
「おはようございます」
料理長さんがわざわざ来て、料理の説明をしてくれた。
「今日もいろいろとお気遣いいただきありがとうございます」
忙しいであろう彼はすぐにいなくなった。
「いただきまーす」
見た目はおいしそう。
だけどこのパンケーキ、見覚えがあるんだよね。
家近くのスーパーで購入したホットケーキと瓜二つ。卵焼きも口にするけど市販の味がする。
和食メインのお宿でわざわざ一組分の洋朝食を作るのは多分、手間だったんだろう。
旅中の食べ過ぎからくる胃もたれに逆らえるほどの食欲は出てこず、申し訳なく思いながらも二人ともほとんど残してしまった。
昨夜とは逆に早々と食事処を後にして一階のカフェへと向かう。たぁはコーヒー、私はカフェラテを作り終えた時、四人ほどの団体が外へと出て行った。
「いってらっしゃいませ」
レセプションの人がそう声をかけたので、彼らはまた戻ってくるのだろう。
男性はサングラスをかけて何やら芸能人かお偉いさんかの雰囲気を漂わせていただけど、コーヒー片手にホテルの甚平を来た私たちにはどれほどの方なのかはわかなかった。
旅はもう終わりを迎えている。後は伊豆踊り子号に乗って帰るだけだ。10時31分発の特急を予約している。
ホテルのチェックアウトは11時だけど、朝食後、ここでゆっくりするよりも明日の事を考えて早めにお家に戻っていたい気持ちを優先した結果だ。
ホテルには駅までの送迎があるけど予約は出来ず、また必ず乗れるわけではないので、歩いていけることも考慮して10時前には部屋を出ることにしよう。
荷物の準備を終えた後、相変わらずたぁは外を見ながらギターを弾き、私はパソコンとにらめっこ。
時間となり、お世話になったお部屋にお礼を告げた後、レセプションで送迎を依頼する。
「タクシーをお呼びします」
良かった。歩いて向かう必要はないようだ。
屋内で待っていたけど、「新鮮な空気を吸いたい」で意見が一致して荷物を持って玄関へと出る。
昨日からたくさん波の音を聞いているのに飽きることなんてない。
騒音とは違う自然が作り出す音色に体は原始の癒しを感じているのだろう。
なかなか来ないと心配していたタクシーは10時5分に到着し、10時10分には駅に着いた。
良かった、まだお土産を買う時間はある。
地域共通クーポンはまだ2400円ほど余っているので全部、使い切りたい。昨日、駅のお土産屋さんに立ち寄った時に買いたいものはなんとなく決めていた。
*地元の手作り石鹸→いざ購入するとなると、自分で作っている石鹸のほうが良いと感じてしまい、却下。
*ささお勧めのニューサマーオレンジ→いい子の私は勧められたものはちゃんと購入。
それに私はニューサマーオレンジのリキュール、たぁは日本酒を選び、数百円現金を追加してお土産完了。
改札で時間を確認すると電車が車であと10分ほど。
うんっ、ちょうどいい。
今日も快晴で気持ちがいい。ホームには少なからず人がいる。
2号車を予約したので、その番号が書かれた場所に立つけどもそこには“踊り子”という文字はなく、不安に思っていたら案の定、電車が到着するとその車両はまったく違う場所に止まった。
車両連結で車内を歩けないと困ると思い、乗るべき車両へとホームを歩いていると「リリリリリーン!」と発射のベルが鳴ったので走って乗り込み、席へと座る。
「走って怖かった」
たぁは基本、私の後ろから付いてくる。
「私も」
「あそこからも乗れたよ」
「そうだね」
確かに心配していた連結部分はなかった。たぁはリュックのほかに小さなキャリーケースも持っていたから面倒だったことだろう。ごめんなさい。
電車は海沿いを走り、海景色が美しい。それを横目にたぁはオーディオブック、私はパソコンを広げる。空いていた車内もどんどん混みだし、ずっと画面を見ていたせいか気分が悪くなってしまったのでパソコンを閉じて目を瞑る。
12時40分品川駅に到着し、わが家へと戻る。
まだ昼過ぎ。予定ぎっしり、思う存分旅行を楽しむ人にとってみれば早い帰宅なのかもしれけど、明日を思う私たちは家でもゆっくりしたいので丁度良い時間に戻ってきた。
旅中いろいろあったけど、旅行前に瞑想で教えてもらった通り、初日から天気に恵まれた素晴らしい旅行だった。
社会人になったららの様々な言行に何かと反応してしまい、ぶつかることもあったけど、やっぱり大好きな家族だ。また一緒にどこかに行きたい。
そして今度はたぁと二人だけで楽しみたいとも思う。静かな秋の伊豆は私たちを優しく包んでくれた。伊豆の音は良い宿で周辺にはいくつか食事処があったから、今度は素泊まりで楽しむのもいいかもしれない。
あと一か月もすればニュージーランドへと渡り、日本の冬が終わるまで向こうで過ごす予定だ。その前に日本の秋を堪能できてよかった。
やっぱり旅はいい。
来年はもっといろんな場所に行きたいな。
主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう
これまでのお話
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