鋸山に行って来たよ-10
これまでのお話
案内に従って進んで行くと道が複数に分かれていた。
「ここからどうやって行けばいいんだろう?」
するとガイドのように人が現れて一つの道へと消えていった。
「こっちだよ」
たぁは彼らについていくよう支持し、私は素直にそれに従う。
土道の先に別の石切り場跡が出てきた。正面から見た時の迫力がすごい。
高すぎて写真に収まらないよ。
まっすぐ切られているそれは、やっぱり山の中では異彩を放っている。
階段が出てきた。
多分、元々は段差も同じで平坦な踏み場だったんだろうけど、苔が生えて滑りやすいし段差もまちまち、さらに踏み場が割れていたりして上るのも下るのも歩きづらい。光が反射して綺麗なんだけどね。
木が岩に這いつくばって成長している。根も隠れることなく凹凸の少ない岩場に必死にへばりついている。生きているその姿が既にアートだよ。
道が石切り場跡と日本寺とで分かれている。
ここに来るまで多くの人と出会った。
「混み合っている今日、あえて日本寺に行く必要はないよね。少しでも空いているのを狙って明日の早い時間にしよう」で意見がまとまっていた。
だけど折角ここまで来たからロープウェイで降りたいんだよね。
「乗り場まで行くのに日本寺の境内、通らないと駄目かな」
地図で見るとロープウェイ乗り場は寺の先にある。
「大丈夫でしょ。抜ける道あるはずだよ」
根拠のないたぁの意見に沿ってここまでたどり着いた。
とりあえず50mほどで行けるならと石切り場へと進む。
土道を登ると平坦な杉道へと変わり、ここから見られる海景色がまた気持ちが良い。ここは敷地が広いせいか、時間帯がよかったのか、はたまたいくつかの石切り場を見た後に上ってまで別の場所を見に行く必要はないと思う人が多いのか、空いている。
それにしてもここはまた一段と高い位置から切り取っているなぁ。
つくづく人の底力ってものを目の当たりにして、自分の小ささを実感するよ。
被写体がいれば大きさがさらに伝わるかな。
とにかくでかいんです。
削られた場所には「安全第一」と彫り込まれている。やっぱり危険な仕事だったんだよね。
柵に守られながら段を上って行くと展望台のようにひらけた場所に出てきた。
たまらん青さに心も爽快。いろいろと楽しめるこの山、人気がある理由がよくわかる。
「あ、う〇こ!・・・・・・じゃない」
松の身かな。
「違くて良かったね」
「うん」
だって咄嗟に見た時は踏んだら滅入る奴にしか見えなかったから。
一番上まで登ると海側だけではなく山側の遠くの景色を楽しめる。
「なんだかあそこ、でっかい石でも落ちたように木々が投げ倒されているね」
距離的に車力道コースで歩いてきた場所かな。
台風の爪痕だと思う。
広範囲の緑をいとも簡単に破壊してしまう。自然の猛威はスケールが違う。
3月中旬でも太陽を浴びながら歩き続ければ汗を掻くけど、ひらけた場所で風を受ければ、皮膚が簡単に冷えていく。
「寒いからパーカー着る」
「えー」
熱がりのたぁはお勧めではないようだけど、来て正解。直接、冷風が体に触れないので体温を奪われずに済む。
途中、昔は使われていたであろう、錆びれた機械がいくつも置いてあった。トヨタと書かれたものや石切り機と思われるものなど。
歯車がついていたので手で回してみたら動いた。
「すごいね。これ錆びてなかったらまだまだ使えそう」
「そうだね。だけどこれを持って下るよりは新しいものを作ったほうが安くて便利なんだよ」
「人間の勝手さだね。資源を大切に使うよりも利便性を選ぶなんて」
「うん」
たぁの意見が正解かどうかはわからないけど、正解な気がしてなんだか切なくなるよ。
13時51分、ゆっくり観光した石切り場跡を後にしよう。
美しくも注意が必要な石段を下っていく。
車力道入り口で見つけた毛虫のような葉(か実)。苔むす岩に、背を丸めていたら毛虫そのまんまだよ。
傾斜のきつい階段で軽く足を滑らせて手すりに摑まったらすごい揺れた。
「気を付けて。ここ滑りやすいよ」
滑った後の警告はちゃんと後者に伝えよう。
「ありがとう」
階段を下り終わって手すりの支柱を確認したら下の部分が腐っていて、揺らしてみたら支えているなんて思えないほど良く揺れた。
低山で階段が設けれた歩きやすいとされるトレイルだけど、石段は“油断は禁物”と身をもって知らせて、手すりは“いつでも安全だと思うなよ”とニヒルな笑みを浮かべているように思えた。
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