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伊豆天城山でハイキング-46

よしっ、焼くか。

アワビっ!!

こんな大きなアワビ、東京ではなかなかお目にかかれない。それにまだ元気に動いていますからね。

命をいただく大切さをしっかりと感じながら、たぁの和牛ステーキが焼かれている網の上に乗せる。

彼はアワビを見てから、私を見る。じっと・・・・・・悲しそうに。


生きているのにそのまま焼くの?


助けてあげないの?


そこに抵抗感はないの?


君は悪魔なの?


そこから彼の様々な感情が読み取れるから罪悪感がいっぱいになっちゃうよ。

なんだかごめんなさい。

確かに残酷極まりないですね。

殻から熱さを感じたアワビは皿の上にいた時は比べ物にならないほどよく動く。逃げようともがくけど、何もできない。

その姿を動画に収め、カメラを上へと向けると悲痛な顔のたぁがいる。


ウケる。


ニュージーランドでは生き物を大切に扱う教育をする。セミや昆虫を網で捕まえて籠で飼うなんて持ってのほかだ。観察した後はすぐに逃がしてあげるが当たり前。

だけと命をいただく食べ物に関しては別。魚や肉はフィレしか食べず、とにかく食べ残しが多い。それに“もったいない”なんていう言葉は存在しない。

どっちの教育が良いとは一言では言えない、文化の違い。

大丈夫、私は与えられた命はちゃんと残さず食べるから。

罪悪感を覚えながらも、アワビさんが私のもとに届いてくれたことにちゃんと感謝をしているよ。


初めてアワビを焼く私、焼き加減が難しい。

「もう、いいんじゃない。動きが止まったよ」

そう言ったのはたぁだ。

自分の牛の焼き具合だけを見ていればいいものの、95%はもがき苦しむアワビを見ている。

丁度よくスタッフさんが来たので聞いてみる。

「ちょうど良いと思いますよ」

へぇ、新鮮だから焼き時間はこんなに短くていいんだね。

アワビをお皿の上に置いてふと思う。

はて?

どうやって身を殻から外すんだろう。

テーブルにはナイフとフォークがあるからそれを間にいれてグイグイ動かすと緑色のグロテスクカラーが溢れ出てきた。

これって肝かな?

どうにか殻から外して、身を小さく切ろうとしてもうまくいかない。

まだ生だったのかな?

だけど別の方向から切り始めたらスッ、スッとナイフが通った。細かく切りたかったけど面倒だったのでちょっと大き目サイズでカット。

「食べる?」

「僕もあるからいい」

彼の席にはアワビの冷製パスタが用意されていた。

塩ベースのソースとともに頂いたら、おいしい。


めっちゃおいしいっ!!!!!


「すごくおいしいよ。本当にいらないの?」

念のためもう一度聞いたけど彼の答えに変化はなかった。

ならばと遠慮なしに平らげた後、彼から言われた。

「どんな味だったの?」

へっ?

「『いる』って聞いたら、『あるからいい』って言ったじゃん」

「でもこっちのは薄かったから」

「だから(もう一度)聞いたのに」

後の祭りである。
アワビを肝まで残さずにいただいてしまったけど、まだ塩ソースなら残っているからとそれを渡す。

「めっちゃおいしいじゃんっ!」

でしょ、だから共有したかったのに。

今度は変な遠慮はしないでちゃんと受け取ってね。


他にも海鮮はさみ揚げ、ロブスターのアクアパッツァともに食材の味が生かされた絶品料理が続く。

ビールを飲み終わり、私はハイボール、たぁ富士錦をいただく。


ぷぅ、余は満足じゃ。



主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう



これまでのお話



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