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光と影で彫刻を彫る写真家田原桂一

私が田原氏を知ったのは写真雑誌アサヒカメラに
掲載された氏の作品でした。それは80年代でした。
その作品は光と影を使い巧みなまでの詩的、かつ
哲学的は側面を持ちえた表現にまで達成していました。
 
《光の彫刻》:光が形を与える瞬間
田原氏の代表作と言える《光の彫刻》(1970年代後半)は、彼の芸術観を象徴するシリーズです。
この作品群は、建築物や人体を被写体としながら、
光と影の交錯によってそれらを彫刻のように
浮かび上がらせる技法が特徴です。
ここで注目すべきは、田原氏が光そのものを主体として
捉え、それが物体に与える「形」を見出そうとした点です。
 
彼の写真において、光は単なる照明や明暗のコントラストを作る手段ではありません。それは、物質的な存在を越えた「実体のない彫刻」として表現されます。
田原氏のカメラは、光の流動的な特質を捉え、
観る者に新たな視覚体験をもたらします。
 
このシリーズは、フランスの建築家クロード・パランや
彫刻家セザールなど、異なる分野の芸術家との
コラボレーションを通じて深化しました。田原氏の視点は、日本の伝統的な美意識とも通じています。
例えば、日本庭園における「空間」や「間」の概念は、
光と影の関係を重視する彼の作品に反映されています。
これにより、田原の作品は単なる視覚的な美しさを超えて、哲学的な問いを投げかけるものとなっています。
 
《都市の肖像》と文明批評
田原桂一氏のもう一つの重要な作品に
《都市の肖像》(1980年代)があります。このシリーズでは、彼は都市空間における人工物を被写体とし、その中に隠された美しさと荒廃を同時に浮かび上がらせました。鋭い視点で切り取られた建物や廃墟の写真は、近代文明がもたらした矛盾を映し出しています。
 
田原氏はここでも光を巧みに操作し、無機質な建造物に生命感を与える一方で、それらが持つ「死」のような静寂も強調します。このアプローチは、単なる都市写真の域を超え、文明批評としての役割を果たします。急速に発展する都市空間が持つ一瞬の美しさと、その裏に潜む儚さを捉える田原の写真は、観る者に現代社会の本質を問いかけます。
 
田原桂一の遺産:光の哲学
田原桂一氏が遺した写真作品は、光を通じて世界を見る
新しい方法を私たちに教えてくれます。彼の作品には、
技術的な巧みさだけでなく、深い哲学的洞察が込められています。

光と影という基本的な要素を用いながら、物質的な現実の奥に潜む「本質」を描き出すその手法は、現代写真の枠を超えて、普遍的な価値を持つものです。彼の死後も、その作品は国内外で多くの展覧会で紹介され続けています。田原氏の写真が持つ力は、時間が経つほどにその輝きを増しており、現代社会における写真芸術の意義を問い直す契機を与えています。

田原桂一氏の写真芸術は、光と影の美学を極め、
視覚芸術の新たな可能性を切り開きました。彼が追求した「存在」と「非存在」の探究は、私たちの視覚体験を超えた深い問いを投げかけます。その作品は、芸術としての写真がどこまで人間の感覚や思考を拡張できるかを示す重要な証左であり、未来の写真家たちにとっても永遠のインスピレーションになる得るのではないでしょうか。
 
田原桂一(1951-2017)
日本を代表する写真家
京都で生まれ幼少期から絵画に興味を持ち、美術を通じて
自己表現を模索していましたが、後に写真というメディアに可能性を見出します。田原氏にとって、写真は単なる記録手段ではなく、光を媒介にして世界を再解釈する手段でした彼は後にフランスでの活動を通じて国際的な評価を確立しました。

by.kai

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