うつ病患者は運動した方が良いのか?主治医に聞いてみた
最近『うつ病の予防や治療に運動が効果的』という情報をよく見ます。
ネットニュースなどで同じような情報に触れたことがある方も多いのではないでしょうか?このような情報を見ると
「運動した方が良いのかなぁ、でも散歩とかしんどいんだけどなぁ」
と筆者は毎回思ってしまいます(笑)
単に怠惰とか面倒とかじゃなくて、抑うつ症状には倦怠感や易疲労などがあり、酷いとほぼ寝たきりでトイレに行くのがやっと、座ってるのもしんどい、テレビもスマホも見れない、ちょっと近所のコンビニに行くだけで疲労困憊、といった状態になります。
こんな状態で運動なんか出来ないし、無理にやったらむしろ悪化するわ!と心の中で思いつつ、でも研究では効果があるっていうからやっぱり運動した方が良いのか…などと一人悶々としていましたが、
「あ、そうだ、主治医に聞けば良いんだ」と、
一番身近にいる専門家の存在を思い出しまして(笑)
そんなわけで今回は、主治医にうつ病持ちは運動したほうが良いのかと、その答えを聞いて筆者が今どうしているかについてお話しようと思います。
運動は、したほうが良いんだけど…
「うつ病には運動が良いって聞くんですけど、無理にでもやった方が良いですか?」と診察時間中に主治医に聞いてみました。
で、主治医の回答を要約すると
「確かに健康全般のためにも運動はした方が良いけど、どのくらいの運動が良いかは人によって違うから一概にこの運動をすれば良いとは言えないんだよね。自分が次の日に疲れが残らない程度の運動を見つけて、最初は週一程度からで良いからやってみたらどうかな。それこそ軽く屈伸運動する程度からで良いよ。」
ということでした。
一番のポイントは『次の日に疲れが残らない程度』
ちょっと専門用語になりますが、
『運動強度』という概念がありまして、簡単に言うと運動によって身体に掛かる負荷やキツさのことです。
心拍数などを基準にした客観的な運動強度と、自分の体感的にどのくらいその運動がキツイかを表す自覚的運動強度があるのですが、どのくらいの運動をしたらどのくらいの負荷が身体に掛かるかはその人の健康状態や年齢、性別によって違います。
80代の人と20代の人が同じスピードで走ったら、80代の人のほうが早く疲れるしキツさや疲労感もすごいというのは容易に想像が付くと思いますが、まあイメージとしてはそんな感じです(笑)
で、身体への負担が大きすぎると、翌日に疲労が残って生活に支障が出たり、筋肉などが炎症を起こしてしまいかえって健康を損なう事になりかねません。
いくら運動が健康に良くてもやり過ぎはNGで、身体を傷めない、疲れが残らず生活に支障が出ない程度の運動を続けるのが大事。過ぎたるは猶及ばざるが如しという事です。
そしてうつ病に限らず持病のある人は、療養生活で体力が落ちたり倦怠感が出やすかったりで疲れやすい傾向にあるので、運動の種類や時間は自分の体調を考慮しながら、自分にちょうど良いものを見つけてね、ということです。
それに、精神疾患を持っている人は、不眠や過眠、食欲の減退や亢進、ストレス過多といった状態や薬の副作用(精神科のお薬には体重増加、つまり太る副作用が出るものがあります)が遠因で生活習慣病になりやすいとも言われています。
参考:日本職業・災害医学会会誌第62巻第5号 (jsomt.jp)
定期的な運動は生活習慣病や突然死のリスクを下げる事が研究で分かっており、ごく軽い運動や、速足で5分程度歩くだけでも予防効果はあるらしいので、出来る範囲で運動はした方が身体の健康に良いよ、ということなのです。
そんな主治医の回答を聞いた筆者は、自分に合う運動を探しました。
筆者は外に出るのがめちゃくちゃ疲れるので散歩は論外。
ヨガや筋トレはグッズ代が掛かるし、一人だと慣れるまで時間がかかって挫折しそうなので除外。
ジムや教室は外出しなきゃいけない&教室代がかかるので却下。
室内で道具なしで簡単に出来るストレッチとかが良いかなぁということになり、ネットで簡単ストレッチとか探してやってみましたがイマイチ続かず(^^;)
で、最終的にたどり着いたのが、NHKのラジオ体操でした(笑)
最初は正直「えーラジオ体操?」ってなりましたが、室内で道具なしで出来るし、時間は1回3分程度、それでいて全身運動になり、きちんとやったら終わる頃には軽く息が上がるという、健康維持のためには1番バランスの良い運動だと思ったのでやる事に(笑)
まず、YouTubeで配信されているラジオ体操の動画をiPadで1タップ再生できるようショートカットを作成。
※やり方は【iphoneショートカット youtube 再生】で検索すれば出てきます!
そして動ける日で空き時間が出来た時に動画を見ながら室内で体操するようになりました。
筆者の場合、運動までの準備に時間がかかると億劫になってしまうのに気付き、続けられるようガジェットの力を借りて環境も整えました(こういうのも大事ですよね)。
最初はラジオ体操第一を週に1回程度しかできなかったんですが、一か月後ぐらいには週2回、さらにその一か月後ぐらいには週3~4回程度まで出来るようになり、肩こり等もマシになりました(笑)
そして先々月頃からは第二もやるようになり、今はラジオ体操第一と第二を週に3~4回やっています。
通院などで外出した日は無し、作業をした日は必ず、用事の無い日は体調を見て出来そうなら、とマイルールを決め、自分に合った運動を見つけられました(習慣化できた一番の要因はショートカットを利用して動画をすぐ再生できるようにしたことですが笑)。
あくまで筆者の場合ですので、ラジオ体操をゴリ押しするつもりは全くありません(笑)
ご自身に合っていれば散歩でもヨガでも筋トレでも何でも良いと思いますし、ペースも週一程度からで全然OKです。
『疲れが残らなくて続けられる』
この条件さえ満たしていれば何も問題ありません。それが自分に合った運動ですから(^^)
運動は回復期に
運動は適度にしたほうが良いよ、とお話しましたが、一つ注意。
この話は、回復期であることが前提です。
発症して間もない急性期や、慢性でも症状が強い時期は運動しても疲れるだけだと思いますし、そもそもろくに動けない状態で運動なんか無理という人も多いはずです(個人差あり)。
筆者的には、辛い症状が和らぐ日が増えてきて、ある程度食事や入浴が出来るようになり、テレビや読書を楽しめる余裕が出てきたら、運動を取り入れて良い時期かなと思いますので(個人差あり)、そういう時期に始めてみてください。
※しつこく書きましたが、うつ病の症状にはかなり個人差があるので上記はあくまで一例です。ご自身(あるいはご家族等)が回復期に入っているかどうか、運動して良い時期か分からないという方は主治医に確認してください。間違った時期に間違った行動をするとかえって悪化しますのでそこは重々気を付けて。
運動すれば治る…わけないです(^^;)
「運動したらうつが良くなった」
なんて体験談も聞きますが、かれこれ半年近くラジオ体操を続けてきた筆者の経験的には
『運動しただけで良くなる』なんてことはございません(^^;)
心と身体は繋がっているので、身体の不調がメンタル不調の一因になるのは確かですが、身体が先かメンタルが先かは人によります。
うつ病などを発症する人は
ストレス等でメンタル不調が起こる→身体に悪影響が出て不調が起きる→身体の不調がメンタルに悪影響…という負のスパイラルに陥っているのが実情ではないかと。
実際、筆者がラジオ体操を始められたのは、ある程度メンタルの調子が良くなって動ける状態になったからで、
『運動したからメンタルが良くなった』訳では決してありません(^^;)
今も心身へのストレスがあると強めに症状が出るので、運動が直接メンタルに効いているという実感もないし、主治医も「運動したら良くなる」とはひと言も言ってなかったです。
うつ病治療の選択肢として運動療法も挙げられていますが、運動療法は
『専門の訓練を受けたコーチの下、実施マニュアルに基づいて行うべき』とされているらしく、単に運動すれば良いというわけではないようで、エビデンスも十分ではなく、効果に否定的な研究もあるそうです。
これは筆者の憶測ですが、散歩や運動で改善したという事例は
①概日リズムの乱れがうつ病の発症や慢性化の要因として大きかった
②極度の日照不足でセロトニンの分泌が足りていなかった
③たまたま運動がコーピングになった
④プラセボ効果(偽薬)でよくなった
のどれかなんじゃないかと思います(^^;)
①の概日リズムとは要は体内時計のことですが、夜更かしなど不規則な生活による体内時計の乱れは精神疾患の発症リスクを上げると言われています。
②の不足するとうつ病になると言われているセロトニンも、日光を浴びる事で分泌されることが知られており、①②がうつ病の発症・慢性化の要因として大きい人は散歩などで日中に活動すると大きく改善するかもしれません。
しかし、うつ病を始めとする精神疾患の原因はそれこそ発症しやすい遺伝子から生来の気質、発達の偏り、ギフテッドや境界知能などIQの問題、トラウマ体験、過労による心身の疲弊など様々で、しかもどれか一つではなく複数重なり合っている事の方が多いです。
こうした①②以外の要因が大きなウエイトを占めている場合、運動より休養や環境調整のほうが優先ですし効果も大きいです。
過労やストレスで物理的に脳の機能が低下している場合は薬物療法も必要でしょう(お薬は回復のきっかけ作りのようなものらしいです)。
運動はあくまで回復の補助であり、投薬や休養である程度回復してきたら、体力回復や規則正しい生活の維持のため、無理のない範囲で取り入れるという形が正解ではと考えます。
③のコーピングとは心理学用語でストレスに対処するための行動、つまりストレス解消法のことです。ストレス発散が苦手で溜め込んでしまっていたのがうつ病の主な原因で、運動がたまたまストレス解消になり、以後ストレスに対処できるようになって回復した、というパターンも考えられます。
ストレス解消法を身につけること自体は重要で、うつ病の治療マニュアルにも載っていますが、参考にウィキペディアのストレス管理の項目を見てみると、マインドフルネスや音楽、各種心理療法にアロマテラピーなど様々な方法が掲載されており、別に運動でなくても良いわけです。
それにストレス管理が苦手という以外にも発症や長引く原因があることが多いですしね。
④のプラセボ効果は、狭義には薬理効果のないものを薬として投与すると実際に何らかの効果が現れるというものですが、薬以外でも同様の効果があるので
『運動したら良くなるかも』という認識そのものがプラセボ(偽薬)になって実際に回復に繋がったという考え方もできます。
プラセボ自体は効く時は本当に効くし、効果のある治療を受けていても『効かない』と思うと本当に効果が出ないという現象も起きるので、『効果があるかも』という認識自体は治療全般に必要です。
ただし、プラセボ効果の出やすさには個人差があり、時間とともに効果も薄れてくるので、プラセボだけでは限界があります(臨床試験で二重盲検試験を行うのもプラセボより効果があるかをテストするため)。
おそらく、薬物療法などを受けて(あるいは①②③で)ある程度調子が良くなったところにプラセボ効果が上乗せされてさらに回復、という感じなのではないかと思います。
とはいえ、運動は回復期に取り入れれば調子の良い状態を維持してくれ、軽快・寛解状態のキープに役立つとは思います。
メンタルの調子が良くなる→運動などで身体の調子が整う→メンタルの調子がさらに整う…と、まあ実際はこんな簡単にはいきませんが(^^;)
この好循環を生み出して長く維持できれば、生活の質はずいぶん変わると思うし、軽快・寛解状態にも繋がっていくと思います。
回復期に日中活動すれば、程よい疲れでしっかり寝る事ができるといった効果や、ガタガタになった生活を整える効果も期待できるので、しんどい時はやらなくて良いけど、回復期になってちょっと出来そうかもと思ったら、無理のない範囲で運動を取り入れてみるのもアリではないかと。
うつ病は原因も回復過程も人それぞれで、一概に『これをやれば治る』というものは正直ないと思います。
『標準治療+α自分で出来る事』で試行錯誤しながらやっていく。
運動はその『+α』の一つに過ぎないのです。
寛解を目指さなくて良い
回復期に運動を取り入れると良いよ、というお話でしたが、うつ病の症状には波があるし、うつ病は残遺症状(ある程度改善しても抑うつ気分や意欲低下などの症状が残る後遺症のようなもの)が残る場合や、慢性化していたり他の精神疾患を併発している場合、そもそも軽快・寛解状態まで持って行くのが難しい事もありますので、好循環が生まれないからといって焦ることはありません。
病気なんて自分でコントロールできるものじゃないし、いつ良くなるかなんて分かったら神さまですから(^^;)
治療を受けてもなかなか良くならないのは努力不足じゃありませんし、ぶっちゃけ、寛解しなくても生きてはいけます。筆者がそうです(笑)
寛解状態を目指すとそれがかえってプレッシャーやストレスになるので、逆説的ですが寛解状態を目標にせず
「まあ治らなくても生きてはいけるしなんとかなるか」ぐらいのんびり構える感じで良いです。
運動も出来なかったら出来ないで良いし、もし始めて最初順調だったけどまた調子が悪くなって出来なくなってもそんなものですから、落ち込んだり自分を責めなくて良いです。
ぼちぼち、自分のペースで行きましょう。
長くなりましたが、運動は
『やった方が良いけど無理しなくて良い』
『自分が続けられるものを』
『短時間でOK!』
ということです。
筆者の経験を共有させて頂きました。参考になれば嬉しいです(^^)
※一応補足しますが、今回はうつ病の場合をメインに書いているので、他の疾患には当てはまらない部分があります。また、双極性障害の場合、運動が躁転に繋がってしまうこともあるので慎重にやってください。
静野沙奈巳