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第10回:関係者招集:全員集まれればいいが..... -状況変化に応じて対応方針を変える-

紅葉山FCが利用している市営グラウンドが、近隣住民からの苦情によって使えなくなってしまったため、紅葉山FCでは他の利用団体や様々な関係者の協力も得ながらグラウンドの利用再開を目指しています。自治会長の藤田氏を通して近隣住民の方々に状況を聞いた結果、苦情の原因となった迷惑行為が、今後グラウンドを利用しないフットサルグループのものである可能性が濃厚となりました。しかしながら住民の中には、たとえフットサルチームが原因だったとしても夜間利用はやめてほしい、という意見もあるようです。

渉外担当の近藤が中心になって声をかけ、関係者が一堂に会して現在の情報を共有し、今後の対策を話し合う機会を設けることになりました。サッカー協会アドバイザーの藤崎、市の担当者である日吉、野球チーム代表の松嶋が参加してくれることになりましたが、フットサルグループの白鳥に電話をしたところ、何ともネガティブな反応が帰ってきました。

白鳥:その話なら、こないだウチのメンバーに聞いてみましたけど、路上に車を停めた奴はいませんでしたよ。

近藤:そうですか。ぜひそれを今度の会合で皆さんに説明していただきたいんですけど。

白鳥:あの、こないだお話したと思いますけど、ウチはもう他の場所に移ったので市営グラウンドは使わないんですよ。なんでそんな会合に出なきゃならないんですか?

近藤:まあそれはそうなんですが、先月の時点ではフットサルグループの皆さんも市営グラウンドの利用者だった訳で.....

白鳥:いや関係ないでしょう、そんなの。だいたい俺だって代表でも何でもないんですよ。そもそもウチは代表なんて決めてなくて、フットサルが好きなメンバーが集まってるだけなんで、メンバーだって毎回違うし、ユルく楽しくやってるんです。

これでは取り付く島もないと感じた近藤は、たまらず市役所に電話した。

近藤:日吉さん、こないだ日吉さんが白鳥さんの電話番号くれたから白鳥さんと電話で話したんだけど、彼は代表じゃないって言うし、そもそもフットサルグループで代表を決めてないとか言ってるんだけどさ、これどうなってるんですか?

日吉:ああすみません。白鳥さんは代表という訳ではなくて、単に連絡先として登録していただいているだけなんです。市の方としても、特に代表を決めてくれとはお願いしてませんし、そのようなルールにもなっておりませんので......

近藤:でもそれじゃ何か問題があったときに困るじゃないですか。

日吉:そうなんですよね。しかし代表を決めてない団体は他にもありますし、これまで特に問題がありませんでしたので......

近藤はさすがにこのような状況では会合に参加してもらえる可能性は低いと考え、監督の高宮に報告したうえで、フットサルグループから参加してもらうことは断念しました。その後、出席予定者の間で日程調整を行い、五月連休初日の4月29日(水曜日)に市役所にて最初の会合を行うことになりました。


【今回の場面における緊急事態対応の勘どころ】

紅葉山FCは、関係者が一堂に会する場を設けるべく動き始めました。市の担当者や野球チームは快く応じてくれたものの、フットサルグループは我関せずの状況です。ここでフットサルグループの対応についてよく見ると、窓口の白鳥は連絡先として便宜上名前を貸しただけのつもりで、近藤のように渉外対応を任されているわけではなく、それ以前にグループの役割(※A)が何も(代表者すら)決まっていない集団であることがわかりました。これでは交渉の糸口がつかめないため、フットサルグループ側の状況が確認できないという前提で、善後策を検討するしかなさそうです。

このように、対応を進めていく中で状況の変化を認識し、善後策を検討していくことが何度も必要になります(※B)。情報を収集・共有し、状況を把握した上で先を見据えた新たな計画を定め、その決定のもとに次の対応を進めていく、という手順を何度も回していくのが緊急事態対応の基本的なプロセスとなります。

本連載は緊急事態対応に関するノウハウが体系化された国際規格「ISO22320」を拠りどころにして書かれています。今回の場面における緊急事態対応の勘どころがISO 22320の2018年版に記載されている場所は次のとおりです(アルファベットA〜Bは上の ※A〜B に該当します)。

A:5.3.2 役割及び責務
B:5.2 インシデント管理プロセス


イラスト:上倉秀之
オリジナル記事はこちら


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