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映画感想もどき〖ローン・レンジャー(2013)〗
子供の頃劇場でこの映画を観て痺れた記憶が今も生々しい。その要因は今になってやっと分かる。ハンス・ジマーの使い方が上手すぎるのだ。聞いているだけでハンス・ジマーが楽しんでウィリアム・テル序曲を編曲している様が浮かぶような、鳥肌モノ。この劇伴がなければ俺の劇伴ファン人生はもっと貧相だったかもしれない。
特に終盤の盛り上がり方や演出の一つ一つは同じディズニーが手がけるアベンジャーズよりももっと凄まじいものがある。より劇伴らしく現代ぽさを加え重厚な味わいのあるウィリアム・テル序曲に負けず劣らずのアクションの連続は天才の領域である。コミカル要素のバランス良し、主役ふたりの活躍のバランス良し、悪役たちのキャラも立ち最早黄金比だ。
あえて書くが、私はロッシーニファンの端くれである。
内容的に売れない原因がイマイチよく分かってないが、再評価必須の作品であることは間違いないだろう。恐らくではあるが、この作品はアメリカ合衆国と言う国家の歩んだ道、持ち続ける正義というものを根本から否定し、彼らの反省を反映させたつもりだったのだろうが、国民にその覚悟と準備がなく売上に繋がらなかったと見る。
昨今の主流である奴隷制に深く触れず、比較的光の当たらない先住民に対する虐殺に焦点を絞り、フラー大尉という人物を通してアメリカの持つ精神の不安定さを描写する。彼が先住民の酋長を刺し殺した時の手の震えは当時のアメリカ国民にはどう見えたのか、非常に関心を持たざるを得ない。しかし事が終わり最後に行進曲「星条旗よ永遠なれ」がボロボロの楽隊によってへっぽこな演奏をしていることがある種の答えを示しているだろう。
トント役を見事にこなしたジョニーデップが先住民の血を引いているという話はあまり話題に上がらないが、彼が参加したことによる作品のクオリティの担保やそのオリジナリティを活かした活動は価値のあることで、エンタメ作品を作るという商業性とコンプライアンスを軽視しないことのバランスという面ではディズニーの最大限の配慮は垣間見える。
そして何よりヒーロー映画をやるということの面白みを良く活用したローン・レンジャーに仕上がっている。今作で登場するアーミー・ハマー演じるローン・レンジャーは何度でも死地から甦り、悪が栄える限り彼はいつでもどこからでも駆けつける。白馬に跨り、銀製の銃弾を握りしめ、鋭い眼光で敵を見る。黒いマスクは自分を守るためではなく人々に希望を持たせるための象徴であり、超法規的存在として正義を執行する。それは神が遣わした使徒ではなく、文明が必要とした神そのもので、カトリックや資本主義が犯してきた罪をキリスト(アメリカ)が担い、新しい現人神がその役割を引き継ぐ神話的側面がある。だからこそ老トントの話す昔話の体裁をとる必要があるのだろう。トントはそれを語り継ぐことが使命であり、継承者が現れることで旅立つ。
ローン・レンジャーがローンである所以、トントが死んだカラスに餌をやり続ける意味、アメリカが発展の中で強いてきた多くの犠牲など決して浅い物語ではなくきちんと作られている。それこそが時代劇であり、現代とは違う文化や価値観が舞台となる世界なので何を描くか描かないかの選択は否が応でも画面に反映されてしまう以上この作品にも問題はあるのだが、ひとつのエンターテイメント作品として俺は高く評価したい。