見出し画像

ゴールデンタイムを自分に返したら、まるごとの平穏がやってきた

ドラマを観ること、カフェで本を読むこと。私が我慢をやめて自分に許したのはこの2つだ。

ポイントは、その時間帯。どちらも夕方。仕事が終わってすぐ、仕事から帰ってすぐの時間帯。

以前は、そこは夕食づくりのゴールデンタイムだった。すぐに取り掛かれば家族の帰宅より前に大体の準備が完了する。家族の帰宅後にばたばたと焦るのが嫌で、自分の仕事が終わったら即、献立と食材に思いを巡らせ、家に着いたら台所に立つようにしていた。

でも、もうそれはしていない。我慢をやめて、そのゴールデンタイムを自分の時間にした。20分でも30分でもいい、その時間帯を自分のために使うことで、思いがけず手に入れたもの。それは、夜の時間のまるごとの平穏だった。

棒になった足で台所に立ち、無理やり手を動かしていたとき、時間は稼げても、私はいらいらしどおしだった。家族が帰宅すると、「もう帰ったのか」と感じ、そんな自分が嫌いだった。一日、また一日、それなりの食卓を作れるかというプレッシャー。間に合っても間に合わなくても、おいしくてもおいしくなくても、心は平穏じゃなかった。眠りにつくまで、そのいらいらを引きずってしまうことも多かった。

いつ、どんなふうにして切り替えたのか、よく覚えていない。大きな決心をしたわけではなかったと思う。ある日、仕事でくたくたになって、どうしても台所に立てなくて、テレビをつけて撮りためたドラマを流していた。放心して、時間の感覚が薄れたまま、家族が帰った時にもまだ、ぼうっとドラマを観ていた。それでも、驚くほど何も支障がないことに気づいたのだ。

最初は罪悪感があったし、だらしない様子を晒すこと自体に抵抗があったけれど、そのうち、そのほうがずっと気持ちよく夕食を作れることに気がついた。家族にもそれは伝わる。彼はもともと料理をする人だったが、たとえ先に帰った私が作り始めていなくても、気分を害することなく合流してくれた。なんだ、そうだったのか。たった20分、ゴールデンタイムを自分に返すことで、家族へのいらいらも、それが家族に伝染することもなくなるんだ。

夕食だけじゃなく、そのあとも心の余裕は保たれる。寝るまでの、まるごとの平穏。

たまに、近所のカフェに行くこともある。仕事で行き違いがありいつもより多めに疲れてしまった日、人とのすれ違いや自分の不甲斐なさに悲しくなった日、ただ静かに読みたい本に出会ってしまった日に、40分ほどあれば十分。ただひたすら本を読む。夕食のことも仕事のことも、その間は忘れる。そしてカフェを出るとき、優しい気持ちで家族のことを考えている。

リセットのための、ごく単純な習慣。でも、リセットの方法をひとつふたつ増やすことで、自分の時間と心は思った以上に楽になる。そしてそのきっかけは、我慢をやめることかもしれない。