ヴァリスゼアとは何だったのか|FF16メタ考察
※FF16とFF過去作のネタバレと邪推を多分に含みますのでご注意ください。
前回タイトルロゴに関する記事を書いてからだいぶ時間が経ってしまいましたが、その後発売されたDLC2つもクリアし、考察を進めるなかでFF16に対して前回の記事とはまた違った捉え方をするようになったので、またこちらで書き残していきたいと思います。
先日TGS2024のPC版発売記念 出演声優トークステージで正式に発表された世界設定本 『LOGOS』で詳細は語られることになるかと思いますが、自分なりにFF16の舞台となったヴァリスゼアをどのように捉えたのかをまとめてみます。
※↑FF16発売後声優陣が揃って登壇するのは、今回が初めてで最後になるかもしれない…!ということで現地で見てきました。内田夕夜さんの「聖女と使徒」の演技は素晴らしかったです。生で見れてよかった。。。
ヴァリスゼアの概要と成り立ちに関する噂
発売前当時、FF16の発表とともに、この物語の舞台となるのが“黒の一帯”の浸蝕によって終焉に向かう大地“ヴァリスゼア”であるということが発表されました。
ヴァリスゼアは風の大陸、灰の大陸と呼ばれるふたつの大陸からなる地域のことであり、この地域の外に外大陸と呼ばれる未知の地帯が存在。
各地に巨大なマザークリスタルが鎮座し、その周囲に都市と国家が築かれ、人々はこれまでマザークリスタルから供給されるクリスタルの力を借りた“魔法”によって発展してきた。
しかし近年、“黒の一帯”と呼ばれる不毛地帯の侵食により、国々はドミナントと呼ばれる召喚獣に顕現(変身)することができる者の力を使い、資源であるクリスタルを求めて争うようになった。。。というのが世界観の概要です。
発売前の発表当時からヴァリスゼアという名称とその地理について、発売を待つファンの間でいろいろな噂が立ちました。FF11の「ヴァナ・ディール」、FFタクティクスやFF12などの「イヴァリース」、そしてFF14の「エオルゼア」、それらを組み合わせて「ヴァリスゼア」なのではないか、と。
詳しくはまた別の記事で後述しようかと思いますが、事実、FF11との地形の類似性やFFタクティクス、FF12に因んだ地名、マザークリスタルをはじめとしたFF14の世界観との共通性があるほか、それ以外の過去作についてのオマージュや引用が多分にちりばめられているのは、過去作をご存じで本作をプレイされた方々であればよくわかるかと思います。
本作を手掛けた吉田直樹さん、高井浩さん率いるクリエイティブビジネスユニット3(現クリエイティブスタジオ3)は新生FF14の開発・運営も手掛けており、同作のコンセプトは「FFのテーマパーク」であるということも公言されていたことから、FF16についてもそういった側面があるのかな、と安易に考えていましたが、考察を進めるなかで、それだけではないより深い意味が込められているのではないかと感じるようになりました。
ヴァリスゼアの成り立ちについて考察をするうえで、この世界を生み出した制作陣のこれまでの歩みについて深堀します。
ヴァナ・ディールの礎とイヴァリースの系譜
前回の記事でも、FFの産みの親である坂口博信さんやFFⅪ、新生前のXⅣのプロデューサーである田中弘道さん、そしてFFタクティクスとFF12、ベイグラントストーリーなどといったイヴァリースアライアンスと呼ばれる作品群を手掛けた松野泰己さんなど、歴代FFの制作陣について触れたほか、本作のプロデューサー吉田直樹さんとメインディレクターを務めた高井浩さんについても言及しましたが、世界観やストーリーについて語るうえでの一番の主役はクリエイティブディレクター&原作・脚本を担当した前廣和豊さんになるのではないかと思います。前廣さんのこれまでの経歴を辿ってみます。
前廣さんは高井さんと同様にスクウェア出身ですが、キャリアの多くを松野さんの作品の制作に捧げています。ご自身も、最も影響を受けた作品としてFF12とFFタクティクスを挙げられています。
※↑こちらの動画でご本人が語られています。1位がFF5、2位がFFタクティクス、3位がFF12とのこと。高井さんもFF5が1位とされており、FF5は本作のストーリーのプロットと大きく関係しています。次の記事で詳しく考察します。
前廣さんが過去携わった作品は下記のとおり。
※個人的にはFFタクティクスのなかで、秘宝として入手できるサウンドノベル『空想魔学小説』も前廣さんが手掛けられていたものと知ってテンションが上がりました。インターネットがまだ普及する前の時代だったので、これらサウンドノベルに関する攻略情報が当時少なく、必死になってプレイした思い出があります。
PlayOnlineはゲームソフトというよりはウェブサービスになりますが、FF11はPlayOnlineを通じて提供されるMMOでしたので、FF11に密接に関係しているものになります。PlayOnlineのリリースと併せて発売されたFF11は田中弘道さんの主導のもと、FFシリーズ初のMMOとして興盛を極め、根強いファンからの人気により発売から20年以上経つ今もなお運営が続いています。
さらに、僕は今まで知らなかったのですが、このPlayOnlineのプロデューサーは松野さんであり、FF12も元々はPlayOnline用の小規模シミュレーションゲームとして企画が始まったものとのことでした。PlayOnlineの開発は紆余曲折があったようで、松野さんの退職にも関係していたのではという声もあるようです。
このように、前廣さんが携わったものの大半は松野さんが主導するプロジェクトとなっており、FF11=ヴァナ・ディールの礎となるPlayOnlineの開発、そしてイヴァリースの系譜を継ぐ作品に携わってきているのです。
今もなお愛される松野作品と幻の完全新作
さらに、吉田さんも松野さんがスクウェア入社前に在籍していた株式会社クエストで手掛けた、のちのFFタクティクスの世界観にもつながる『タクティクスオウガ』にゲーム開発者として一番影響を受けたと語っています。
松野さん退社後も、FFタクティクスはFF14のアライアンスレイド「リターントゥイヴァリース」として、タクティクスオウガはPSP用ソフト『タクティクスオウガ 運命の輪』、さらにはそれをもとにしたリメイク作品『タクティクスオウガ リボーン』として繰り返し制作されており、吉田さんや前廣さんをはじめとして今もなお松野さんの作品を愛する方々がスクウェア・エニックスのなかに多いのではないかと思います。
前廣さんは、松野さんとともに前職の会社からスクウェアに入社した皆川裕史さん(FF16の制作陣にも参加)と現在では退職されていますがFFタクティクスやFF12のキャラクターデザインを担当された吉田明彦さんとともに、通称「松野組」と呼ばれているそうです。
松野さんが退社された後は、高井さんがディレクターを務め2008年にXbox 360用ソフトとして発売されたラストレムナントのリードプランナーを務められており、高井さんとの仕事はこの作品が初めてだったとのこと。
ラストレムナントの開発が終わったあと、吉田直樹さん、高井さん、皆川さん、前廣さん、吉田明彦さんの5人はベイグラントストーリーの系譜を継ぐ完全新作を企画されていたそうですが、旧FF14の炎上により開発を引き継ぐことになり、幻となってしまったそうです。(引用:FFXIVの影で動いていた幻の新作は「ベイグラントストーリー」の系譜を受け継いでいた!?|4Gamer.net)
ベイグラントストーリーは松野さんご自身は元々イヴァリースとの関連性を否定していましたが、FFタクティクスやFF12との関連性のある要素が多く、後にイヴァリース関連作品として名を連ねることとなった作品です。
つまり、ベイグラントストーリーの系譜を継ぐ作品が制作中止となったことで、イヴァリースの系譜も一度途絶えることとなったのです。
旧FF14の炎上、そしてエオルゼア新生
旧FF14の炎上とエオルゼアの新生についてはさまざまなメディアで取り上げられており、有名な話なので詳細は割愛させていただきますが、下記動画で当時のエピソードが詳しく語られています。
ゲーム夜話さんのFF14再建にまつわる動画も面白いので是非。
吉田さんは過去のインタビューで旧FF14が炎上した原因を語っています。要約すると、
旧FF14の開発時に全社で「クリスタルツールズ」というミドルウェアを開発しており、社内の腕のあるプログラマーが軒並みその開発に召集されており、ゲームソフト開発のプロジェクトのメインプログラマーがいない大変な状態となっていた
FF制作陣はPlayStation2の時代に(FF10やFF11など)名作と呼ばれる作品を多数生み出しており、その成功体験により自分たちの職人的なゲームの作り方に過剰なプライドを持ってしまっていた
一方海外ではそれをテクノロジーによってカバーしようとする動きが活発になってきており、PlayStation3の世代に入った時点でテクノロジーの力が職人的な技術力を上回ることとなった
その問題を理解しているメインプログラマーがクリスタルツールズの開発により解決に動けない状態となっていたため、ソフト開発側ではその問題に気づけず、古い作り方を続けていた
巨大な成功体験とそれに培われた過剰なプライドが掛け合わされた結果、外に目を向けることが疎かになっており、他社の作品やユーザニーズのトレンドを把握できていなかった
と、当時さまざまな問題が絡み合っていたことがわかります。
再建に向けた対応のなかで、前廣さんもパッチ2.X「新生エオルゼア」とパッチ3.Xの「蒼天のイシュガルド」のメインシナリオライターを務め、ファンからの高い評価を得ています。旧FF14の炎上で信頼を失い、ユーザから厳しい目を向けられているなかでシナリオを手掛ける重責は、全件を背負う吉田さん、ディレクションをする高井さんとともに、相当なものがあっただろうと思います。
その後新生したFF14は、再評価を受けユーザからの信頼を取り戻し、そして、ヴァナ・ディールとイヴァリースの系譜を継ぐ制作陣により、その世界観はエオルゼアに継承され、現在では3000万を超える世界中の人々が、その世界のなかで語られる物語や日々の生活を謳歌しています。
ヴァリスゼアで制作陣が描いた"創世と新生の歴史"
このように、制作陣の過去を振り返るなかで、制作陣はこれまで歩んできたヴァナ・ディールとイヴァリースの「創世」、そしてエオルゼアの「新生」の歴史を、ヴァリスゼアというひとつの世界で表現しようとしたのではないかと僕は考えるようになりました。
その根拠となるひとつひとつの要素に関する深堀や、なぜこのような舞台でクライヴたちの物語をダークファンタジーとして描いたのか、メタファーに留まらない過去作とのつながり、メタ的な視点での各キャラクターやエンディングに関する考察などはまた別の記事でしていきたいと思います。
最後に、今後の考察を深めるうえで関わってくる制作陣のこれまでの歴史を年表にまとめておきます。
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