人生の締め切り
「人間にとっての1日は犬にとっては5日なんだから、5日もほっとかれてかわいそうじゃない?」
ホテルの朝ごはんを食べているとき、隣の席のカップルからこんな言葉が聞こえた。
犬の平均寿命は15年程度。
対して、人間の平均寿命は80年程度だから、寿命は約5倍。
だから人間の1日は犬にとっての5日というわけだ。
寿命の差がそのまま、人生の体感時間につながるわけではないと思うが、面白い考え方ではある。
もし突然神様が現れて、「あなたの寿命はあと1年です」と告げられたとする。
余命一年となれば、1日1日をどうやって生きるか真剣に考えるだろう。
「ラーメンを食べるのも最後かもな」
「こいつに会うのも最後かもな」
そんなことを考えながら、きっと誰よりも長い1年間を過ごすはずだ。
寿命に応じて、人生の体感時間は確かに変わるのかもしれない。
しかし、私たちはいつ死ぬかなんてわからない。
だから、つい無限に生きるかのように毎日を過ごしてしまう。
「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを私は本当にやりたいだろうか?」
スティーブジョブズの有名な言葉だ。
明日死ぬことを想像するのは難しい。
しかし、一度でも真剣に考えたとき、食べ慣れたご飯の味も確かに変わるのだ。
僕は長く生きてもせいぜいあと70年くらいだろう。
目の前を散歩している犬はどんなに頑張っても20年。
あっという間に27年も経ってしまった自分の人生を思い返し、20年後の自分はどうなっているのだろうかと思いを巡らす。
年を重ねるほど加速していく時間の中で、一体僕はどれだけ時間の歩みを遅らせられるだろうか。