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赤信号の贅沢

信号無視をしたことはあるだろうか。

さすがに車で故意に信号無視をしたことがある人は日本では少ないだろう。

しかし、数秒で渡れてしまうような短い信号付き横断歩道を無視したことがある人は多いのではないだろうか。


僕の高校は受験校で、センター試験を受ける人がほとんどだった。

センター試験対策の授業中に数学教師がこんなことを言った。

「どんなに短い信号でも無視しない。そういう当たり前を守っていくことが、運気を溜め、センター試験のラッキー正解につながるんだ。」


数学教師とは思えないスピリチュアルな発言だ。

しかし、僕は信号を無視するたびにこの発言を思い出す。

今でも、どんなに短い横断歩道でも赤信号だと律儀に立ち止まってしまう。


面白いのが、どんなに短い横断歩道でも僕が律儀に待ってると、後から来た人も大抵止まる。

そんなとき、僕だけじゃなくて、
後ろの人も運が貯まってラッキーだなと思う。

後から来た人には感謝してほしいくらいだ。


会社帰り、早く帰りたい気持ちを抑え、今日も信号を律儀に待った。

信号を待つ1分程度、やることもないから夜空を見上げる。

そんなに星も見えない都会の空を眺めていると、
耳が鈴虫の声を拾い上げた。

車の音に負けじと鳴いていたのに全く気づかなかった。

気づけば夏も終わりに近づき、夜風が心地よい。

後ろで待っている人には鈴虫の声は耳に届いているのだろうか。

信号を待つだけで運が貯まるわけなんてないのかもしれない。

しかし、待ち時間ともいうべきどうでもいいような赤信号が、
その日はちょっとだけ贅沢に感じられた。

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