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【そこはまるで理想郷のようで】映画『ロッタちゃん』シリーズを観る
「ロッタちゃん」を知っていますか?
「ロッタちゃん」とはスウェーデンの国民的作家アストリッド・リンドグレーンが1958年に発表した名作児童文学シリーズの1つ。
スウェーデンの片田舎に家族と住む5歳児のロッタちゃんを主人公にした児童書である。
「ロッタちゃん」の名前を聞いたことがない人でも『長くつ下のピッピ』と聞いたらピンと来る人もいるかもしれない。こちらもリンドグレーンの作品だ。
自分は児童書ではなく映画でロッタちゃんの存在を知ったのだが、そういう人も多いんじゃないだろうか。
『ロッタちゃん』シリーズは2000年に日本で劇場公開され大ヒットを記録している。3月1日からシリーズ2作がリバイバル上映されているということで3月25日に2作連続で観てきました。まさにロッタ尽くしの1日、楽しかった。
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「そもそもロッタちゃんってどんな子なの」というと、とても頑固な女の子。自分の意志を貫き強情。自分の願いが叶わないとなると癇癪を起す。
イメージとしては現代美術家の奈良美智さんが描く女の子のよう。
実際、2000年の上映当時は奈良さんデザインのポスターもあったりする。
むくれてる子供は傍から見てる分には可愛いものだ。
(巻き込まれてる家族からしたらたまらないのだろうけど)
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映画は原作のさまざまなエピソードを繋げた構成となっている。
このシリーズ、日本での公開順は『ロッタちゃん はじめてのおつかい』⇒『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』なんだけど、実際の時系列は逆。
内容的にも『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』が家族とお隣さんの交流だけに留まっているのに対し、『ロッタちゃん はじめてのおつかい』では家族だけじゃなく街の人たちや街の外からきた人たちとの交流も描かれる。
特に印象的だったのは『ロッタちゃん はじめてのおつかい』でのクリスマスツリーを巡るエピソード。毎年飾っているクリスマスツリーが準備できなくなる話だ。
その中には、これまでの登場人物のようにロッタちゃんに優しいだけじゃない登場人物も出てくる。
結果的にクリスマスツリーは手に入るが、どうしようもない現実を知っていくことでロッタちゃんの成長が描かれているのが興味深かった。
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ロッタちゃんだけじゃなく兄弟たち家族の可愛らしさ、北欧の街並みやファッションも良い。ロッタちゃんシリーズは観ているだけで幸せな気分になれるのだ。
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「ああ、素晴らしい世界だ…」と微笑ましい気持ちで観ていたんだけど、見ていくうちにこんな感情も湧いてきた。
「これはもう理想郷だな」
ロッタちゃんの家族は本当に絵に描いたような幸せな家族。
正直、今の時代ここまで幸せな家族っていないんじゃないだろうか。
少なくとも創作物ではこういう家族は描かれないだろうな。
これは作品の良し悪しという話ではなく「時代性」だと思う。
そもそも原作が発表されたのは1958年。映画化されたのは1992年(日本で公開されたのは2000年)。そしてリバイバル上映されたのが2024年。
価値観が変貌するのも当然だ。
今は戦争に差別に貧困…外の世界に目を向けずにはいられない時代だ。エンタメを作るにしても社会風刺を取り入れていたりする。ロッタちゃんの家族はそういう外部とは無縁だ。だからこそよりロッタちゃん家族の様子はよりありえなくも見えてしまう。
そういう意味で今の時代ではこういう映画は作れないだろうなと思う。失われた可能性を思うと切なくもなるのだ。
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