【無垢なる者たちの暴走】映画『イノセンツ』感想
ノルウェー郊外の住宅団地。
退屈な夏休みを過ごしていた子供たちは出会ったことにより不思議な力に目覚めていく。最初はその力で遊んでいた彼らだったが、その「遊び」は次第に暴走を始め取り返しのつかない事態をひき起こしていく…
これぞ悪夢の夏休み映画。
全編に渡って緊張感が続くので下手なホラー映画より怖い。観終わった後は手にじっとりと汗を搔いていた。
「子供たちによるサイキックバトル」というと青春SF映画の傑作『クロニクル』があるが、あの作品の主人公が高校生だったのに対し今作の主人公は7歳から11歳の年端もいかない子供たち。
倫理観や社会性も形成されていないし行動も短絡的。子供は良くも悪くも「純真無垢な存在」だ。
そんな幼い子供たちが巨大な力を手にしたら何が起こるのか?
本作の監督をつとめたのはノルウェー出身のエスキル・フォクト。
『テルマ』、『わたしは最悪』で知られるヨアキム・トリアーの作品では共同脚本をつとめており、監督作はこれで2作目となる。
ヨアキム・トリアーの作品でもそうだったが、本作も静謐かつ緊迫感のある雰囲気が特徴的だ。
子供特有の無邪気な残虐性を表した序盤のシーンなんかでとてもイヤ~な気持ちにさせてくれる(しかもどの描写も痛々しいのがまた…)。
巨大な力を手にしてしまった子供たち。
そこからはある意味想像通りの展開になっていくが、その描写に一切の容赦がないことに驚かされた。
劇中では動物虐待場面や子供が傷つく場面が描かれているので、苦手な人は要注意です。
本作で繰り広げられるのは
子供たちによる仁義なきサイキックバトル
感情をコントロールできず行動も突発的。
一度崩れた関係は悪化し、どんどん取り返しがつかなくなっていく。
まさに「殺らねば殺られる」状態になった彼らの様子はさながら「仁義なき戦い」のよう。子供も大人も結局やってることは変わらないのかもしれない。ただ、イーダたちは本当にまだ幼い子供。
幼いからこそ「善悪の境界が曖昧」というところが本作の面白いところだ。
例えばイーダのアナに対する態度は酷いが、その行動の裏には姉に対する嫉妬心が垣間見える(夏休みどこにも行けなかった原因もアナにあると分かっているから尚更腹が立つのだろう)。
ベンも元から残虐性があったとはいえ、あの行動は突発的なものだったのだろう。ベンの慟哭っぷりを見ると彼も自分の力に振り回された不幸な存在といえる。
この映画で特に印象に残った場面がある。
ベンが猫に対してショッキングなことをした次の日、イーダがベンに会った時に彼の横顔を見る場面だ。
昨日まで仲良く遊んでいたベンの顔はまるで知らない男の子のようで一瞬ドキッとする。
自分が知っていたと思っていた人は実は全然知らない人だったのかもしれない。こうした経験は自分も実生活であるだけにこの場面は心に残った。
この映画で好きなのは「子供たちだけの世界」で物語が完結してるところ。
最初から最後まで大人が彼らの力に気付くことはない。
こういう日常の裏側で戦いが繰り広げられてるというシチュエーションは大好物。
そして驚かされたのが主演4人たちの演技力の凄さ。
パンフレットによるとノルウェーのアカデミー賞であるアマンダ賞で子供たち全員最優秀男優・女優賞にノミネートされていたとのこと。
それも納得で主演が全員年端もいかない子供なのにスクリーンへの集中力た途切れることはない。彼らの演技に終始魅入られっぱなしだった。
善悪の判断も倫理観も定まっていない。
そんな子供でも許せないことはあるしケジメはつけさせないといけない。
彼らのルールで彼らなりの決着をつける終わらせ方も格好良かった。
ショッキングな場面が多いので気軽にお薦めはできないが、個人的にはけっこう好きな映画。
【参考】
本作は、大友克洋の傑作漫画『童夢』からインスピレーションを受けていることも特徴の一つた。
劇中には『童夢』のオマージュを思わせる場面も少なくない(ラストブランコの場面とか)。
ただし『童夢』で描かれるようなド派手なサイキックバトル描写がある訳ではないので、そういった描写を期待して観ると肩透かしを喰らうと思う。
本作のサイキックバトルCGに頼らずは水面にさざ波が立つように静かに行われるのだ。
※DVDで2回目を観た感想