【1人のヴィジランテがヒーローに変わる時】映画『THE BATMAN』感想
2022年3月11日から公開している『THE BATMAN ザ・バットマン』。DCシリーズの人気キャラクターのバットマンを新たに映画化した作品だ。
製作発表の時から楽しみにしていた本作。今回の記事では、筆者の感想と世間一般の評価、本作の参考になっている映画作品との影響を述べています。
ティム・バートン監督やクリストファー・ノーラン監督などの名監督によって、これまでに何度も映像化されてきたバットマン。
今回、マット・リーヴス監督が描いたのは「DC=Detective Comics(探偵コミックス)」という名前の通り、これまでの映像化では観たことのなかった「探偵」としてバットマンの姿。歴代の映画シリーズの中で最もリアルスティックな作品となっている(アメコミファンの方によると、今作が最も原作に忠実な映像化となっているらしい)
今作のヴィラン(悪役)であるリドラーとの謎解き合戦を軸に、キャットウーマンやペンギンなどの他ヴィラン達との絡み、ブルース・ウェイン家の問題と、様々な要素が詰め込まれた物語は重厚的。ハードボイルドな作風もあって、まるで探偵小説をイッキ読みしてるかのような感覚を覚えた。
約3時間(176分)という上映時間に対し、体感時間は短かったが、常に緊迫感が張り詰めているため鑑賞後は満足感もありつつ少し疲れも感じた。
物語、映像、キャスト、音楽、どこを取っても文句無し。サスペンス&ハードボイルな脚本は好みが分かれるだろうけど、個人的にはバットマン映画の新しい見せ方として新鮮に感じたし、改めてバットマンというコンテンツの懐の深さも感じられた。
筆者が特に引き込まれたのは、美しい映像と作りこまれた世界観。
撮影を担当したグレイグ・フレイザーによる映像はどこを切り取っても画になるような美しさ。
基本、夜か雨しかない陰鬱な世界だが、この退廃的な雰囲気が映像も相まって素晴らしい。建造途中のビルでの朝焼けの場面は、多くの人の記憶に残ることだろう。
またキャスト含め世界観の作りこみが本作をより魅力的なものにしているのは間違いないだろう。ロバート・パティンソンが演じたブルース・ウェイン/バットマンは、活動2年目という事もあって、未熟な姿はより人間味があるし何より色気がある。
ゾーイ・グラヴィッツのキャットウーマンも凛とした佇まいがスタイリッシュで格好良かったし、ポール・ダノ演じるリドラーのサイコキラーっぷりも気持ち悪くて最高(格好良い悪役じゃないのも現実的)
ペンギンを演じたコリン・ファレルはそうだと言われても信じられないくらいの別人っぷり。小物だがどこか愛嬌を感じさせるペンギンを演じ切っている。ジェフリー・ライト、アンディ・サーキス、ジョン・タトゥーロなどのキャストも劇中の登場人物全員が見事に役にハマりきっていた。
舞台となっているゴッサムシティは自分は住みたくはないが、映画で観てる分には魅力的。この犯罪都市にバットマンや様々なヴィラン達が住んでおり、様々な事件が起きていると思うと、それだけでワクワクしてしまう。
扱われてるテーマも素晴らしかった。「バットマン」というキャラクターを語る時に必ず題材に挙がる「バットマンとヴィラン、方向性こそ違えど、結局は同じではないのか?」という問題。
本作はそのことに気付き「自分には何ができるか」を模索するバットマンの姿が描かれている。
物語終盤、バットマンは電気ケーブルが水に付くのを防ぐために、自ら水に飛び込む。その後、灯りを掲げ人々を救い出す。自己犠牲と人命救助、この選択こそがバットマンがヴィランとは違うところだ。
観ていて気が付いた。これは「ヴィジランテ(自警団員)」として活動していたブルース・ウェインが「バットマン」としてスタート地点に立つまでの物語なのだ。
本作は、バットマンのオリジン(起源、誕生物語)を描いた話ではないが、バットマンが自身の存在意義を見出すという意味では、このストーリーもオリジンを描いた作品といえるだろう。
観終わってみると『ザ・バットマン』というタイトルは納得できたし、今後このバットマンがどんな人生を歩むのかも見てみたい。
同じような場面が繰り返されるところとか、バットマンとキャットウーマンのロマンスの演出とか、引っかかる所もあり手放しで絶賛する訳ではないが、それでも期待に応えるには充分過ぎる程の作品だった。
早くも続編が観たい。
【参考にした映画との関連性】
下記が参考にしたとリーブス監督自身が語っている&観た人から似ていると挙げられている作品一覧となっている。
多くの人が指摘しているのが、本作の雰囲気がデビット・フィンチャー監督の『セブン』(1996)に似ているという点だ。リドラーがサイコキラーであるという点と、次々と謎を出していく辺りは確かに『セブン』を思い起こさせる。バットマンとゴードン警部補とのコンビもブラット・ピットとモーガン・フリーマンに重なる。
さらに、同じフィンチャー作品の『ゾディアック』(2007)とも似ているという感想もよく見かける。これはもともと、リドラーのキャラクター造形がゾディアック事件の犯人を参考にしているから当然と言えば当然だろう。ただし、マット・リーヴス監督自身はフィンチャー作品からの影響を公言はしていない。
リーブス監督がインタビュー等で影響を受けてる作品として挙げている一本は、フィルムノワールの傑作『チャイナタウン』(1974)。
ジャック・ニコルソン演じる私立探偵が一つの事件をキッカケに、事件の背後に潜む巨悪に挑むというストーリーだが、ハードボイルドな作風はまさに『ザ・バットマン』に通じるし、ゴッサムの腐敗っぷりは本作の腐敗っぷりを参考にしているといえる。
いびつともいえる己の正義を信じ暴走するブルース・ウェイン/バットマンの姿は『タクシードライバー』(1976)のトラビスと通じるものがある。なお、バットマンのスーツにはトラビスの仕込み銃も参考にされているとの事らしい。
劇中のハイライトといえるバットモービルでのペンギンの追跡劇。これは明らかに『フレンチコネクション』(1971)を参考にしているといえるだろう。道路での逆走する場面のスリリングさは両作品とも共通している。
他にもバットマンとキャットウーマンの関係性は『コールガール』(1971)を参考にしているといえるだろう。それだけじゃなく、スマートフォンの録音で犯行が明らかになる場面やラスト、猫を連れてく演出も少なからず参考にしてそう…
【世間的評価は?】
『ザ・バットマン』の世間の評判はどうなっているのだろうか?
世界最大級の映画レビューサイト「Rotten Tomates」と日本最大級の映画レビューサイト「Filmarks」の満足度を貼っておきたい。
Rotten Tomates(ロッテントマト)
Filmarks(フィルマークス)
こうして見ると、どちらも完璧!最高傑作!という訳ではないが、いずれも高評価であることが伺える。(Rotten Tomatesは当初は一般レビュー96%という高評価を叩き出していたが、徐々に落ち着いてきている印象)
個人的に『バットマン』は『スパイダーマン』などのヒーロー映画と違い、全方位的にウケるタイプの作品ではないため、この評価は、かなり健闘してるのではないかと思う。
後、良いという感想も悪いという感想も共通していたのが、キャストが良かったという点と2作目に期待しているという事。今作は新しいバットマンシリーズの顔見せ的な作品でもあるので、次作に期待を寄せてる人も多いのではないだろうか。
【関連記事まとめ】
筆者が『ザ・バットマン』公開までの情報をまとめた記事になります。
THE RIVER様の『ザ・バットマン』の影響を受けたと製作陣が公言している4作品をまとめた記事。興味ある方は是非!
ShoPro Books|アメコミ編集部様によるバットマンの映像化とコミックスの歴史を語った記事。他にもバットマン関連の記事が多数あるため、気になる人は読んでみては
GQのロバート・パティンソンへのインタビュー記事。どのように役作りに向き合ったかが伺える。両親が殺されたトラウマが長年に渡り、バットマンというペルソナになったという解釈はなるほど…!