【モンゴル発】映画『セールスガールの考現学』感想【性と生を巡る青春物語】
モンゴルの映画って観たことありますか?
自分はない。それがこの映画に興味を持ったキッカケだった。
しかもこの映画、アダルトショップで働くことになった女の子が主人公の物語らしい。
「モンゴル×アダルトショップ」!?
それってどんな映画なの?
そもそも自分のモンゴルに対してのイメージは朝青龍、草原、スーホーの白い馬ぐらいしかない。
どんな映画だ?気になる…
という訳で鑑賞してきたという次第。
映画のタイトルは『セールスガールの考現学』。
今回の記事ではこの映画の感想を述べていきたい。
舞台はモンゴルの首都ウランバートル。
大学で原子力工学を学ぶサロールは、バナナの皮に足を滑らせて骨折した友人の代理でアダルトショップにアルバイトとして勤務をすることになる。
先に言っておくと、舞台こそアダルトショップだが官能的な雰囲気やエロスを楽しむような作品ではない。
ところどころ笑いも散りばめられてるし全編柔らかな雰囲気の作品だ。
これは1人の少女の真っ当な成長物語であり青春物語だと感じた。
主人公のサロールは一見すると、何を考えているか分からない静かな子。
原子力工学を専攻したのも自分の意志ではなく親の薦めということからも、内包的な子であることが伺える。
そもそもアダルトショップの店員の代理を頼んだ友人とも親しいわけじゃない。「口が堅そうだし真面目そうだから」という理由でサロールがお願いされたというだけの話しだ。
そんな訳だから、当初はアダルトショップに全く馴染んでない。
アダルトショップは「性的な世界」であり「大人の世界」でもある。
本作はサロールが大人の世界に飛び込んだことにより刺激を受け少しずつ変わっていく様子が描かれる。
サロールを変えるのはアダルトショップだけじゃない。サロールに大きな刺激を与える人物も登場する。
それがアダルトショップのオーナーであるカティア。
カティアは色気があり豪邸に住み謎めいている、いわゆる「大人の女性」。
彼女はサロールのこれまでの人生でまず会ったことがないタイプだ。
いつの時代も少年少女を大人に導くのは社会のレールから少し外れた大人なんだろう。カティアとの出会いでサロールの人生は大きく変わることになる。
出だしこそ変化球だが中身は王道の青春物語だと思った。
サロールを演じたバヤルツェツェグ・バヤルジャルガル(名前凄い)が魅力的。
最初の垢ぬけない雰囲気から、シックな衣装を身にまとった大人な雰囲気、同級生のジョンスを部屋に呼ぶ時など、場面ごとに様々な表情を見せる。
本作は第17回大阪アジアン映画祭でも上映されており、その際に「最も輝きを放っている出演者」に贈られる薬師真珠賞を受賞したとのことだが、それも納得。ずっと目で追っていきたくなる魅力を放っている。
間違いなく作品の大きな魅力の1つとなっていた。今作が映画デビュー作とのことだが、今後の活躍も気になる女優だ。
もう一つ作品を語るうえで欠かせないのが音楽の存在。サロールが移動するタイミングであったり、さまざまな場面で音楽が流れだす。
本作は「音楽映画」といっていくらい音楽の存在が大きいのも特徴的。
本作の音楽を担当するのはモンゴル出身のシンガーソングライターMagnolian(マグノリアン)。
Magnolianの曲はどれも柔らかい歌声と穏やかな曲調が聞きやすい。映画を盛り上げるというよりは、より優しく穏やかに気持ちにさせてくれる。
色んな意味で本作は「今のモンゴルを知る映画」なんだと思う。
音楽、小説…世界の創作物は色々あるが、自分は映画を通して他の国の文化や社会を知ってきた。映画にはそういう役割もある。
劇中で語られる貧富の問題や音楽を始めとするカルチャーなど、草原くらいしかなかった自分の中のモンゴルのイメージがアップデートされた。
一つの物語としても好き。
レトロというか日本でいうと一昔前な雰囲気もあるんだけど、それが懐かしくもある。
お気に入りの場面はサロールとジョンスとの部屋での場面。天井に貼りつく場面はメリーに首ったけを思い出したし自分の体験を少し思い出した。
恐らく2人が恋人になることはないだろうけど(その後もジョンスは出てきてないからそういうことだろう)、あそこで笑い合えるのは素敵だし、かけがえのない思い出になるんだろうな。
これからどれだけモンゴル映画に触れられるか分からないけど、また公開されることがあったら観てみたい。そう思わせてくれる作品だった。
ということで『セールスガールの考現学』。興味ある人は是非チェックしてみてね。