【今年No.1の癖つよ映画!】『エストニアの聖なるカンフーマスター』感想
『エストニアの聖なるカンフーマスター』。
まさに名は体を表すという言葉に相応しくタイトル通り何とも奇妙で癖の強い映画だった。
物語の舞台は1970年代、ポップカルチャーが禁じられたソ連占領下のエストニア。ある男が"ブッラクメタルカンフー"を極めるために修道士になろうとする話。あらすじからして癖が強い!
監督は同じくエストニアを舞台にした『ノベンバー』のライナル・サルネット。モノクロだった前作『ノベンバー』と全く異なるイメージにも驚かされる。
この映画、癖のある食べ物にハマる時の感覚に似ていた。
観始め直後の「何だこれ?」から「あ、これ好きかもしれない」に変わっていき、気付いたらハマっているあの感覚。
自分は大好きな映画だった。
すぐにもう一度観たいというよりは手元に置いておきたくなるようなタイプ。ソフト化されたら買おうと思う。
好きになった理由はビジュアルが今年観た映画の中でもトップクラスに良いから。
「カラフル×奇抜×可愛い」の三連コンボがツボに突き刺さる。
『ノベンバー』でも映像美が特徴的だったが今作でもビジュアルの良さは健在。特にチャプターごとのタイトルバックの出し方は洒落てて格好良い。
IMDbの「合わない人には合わないが、好きな人は100回観るだろう」というコメントがあるがそれも納得。人を選ぶだけじゃなくハマる要素があるのだ。
ビジュアルもそうだがこの映画想像以上に可愛い。個人的にはそこも最高だった。
主人公であるファエルの存在もそうだが、修道院の長老や院長、イリネイなど登場人物をはじめラファエルが乗ってる赤い車など小道具もいちいち可愛い。
ストーリー自体は「理屈じゃねえ、感じるんだ」系だが、この色彩と雰囲気だけでずっと観てられる。後、日野浩志郎さんによる劇伴も本作の場面と絶妙にマッチしてて雰囲気を盛り立ててくれた。
ただ、本作は題材こそカンフーやメタルだが、そうしたジャンル愛の詰まった作品とは少し異なっているということを述べておきたい。
そもそも本作を製作したキッカケは、ライネル監督が友人へのお見舞いに差し入れた修道士の実話本とのこと。本の中で実際に70年代のソ連で活躍した修道士ラファエルの人生を探っていく内に、カンフーやメタルに着想を得たと語っている。
だからこそ、カンフーが話の中心になってる訳ではないし(監督もカンフー映画を観てこなかったと語っている)、メタルバンドの曲が多く使われてる訳でもない。
カンフーやメタルはあくまでも本作を彩る要素の1つ、映画全体からは『ノベンバー』にも通じる神秘主義を感じられた。
結局、本作は一体何についての映画なのか?
自分は「信仰」を巡る映画だと解釈した。奇妙な道のりだが、1人の男がさまざまな変遷を経て神との向き合い方を知る、そういう風に観える。
ということで『エストニアの聖なるカンフーマスター』、気になる人はチェックしてみては。特にビジュアルにビビッときた人は。
※ライナル・サルネット監督の前作『ノベンバー』の感想。ノベンバーもけっこう奇妙な物語だよね。
※ストーリーは全然違うけど、大好き『メタルヘッド』を思い出した。
ラファエルとヘッシャーの立ち位置がよく似てる。