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【兎を暴走させたのは誰?】映画『兎たちの暴走』感想
中国で実際に起きた誘拐事件を題材にした映画『兎たちの暴走』。
9月15日から開催されている「あいち女性国際映画祭」で特別上映されていると知り鑑賞してきた。
実は本作を鑑賞するのは2回目。
1回目は2020年の東京国際映画祭で鑑賞したのだが、その年観た映画祭の作品の中で最も刺さった作品だった。大好きな作品なのでもう1度観れたこと自体が嬉しい。
配給会社がアップリンクということで思うところはあるが、この作品を配給してくれたことは感謝したい(ちなみに愛知ではシネマスコーレで一般上映予定)。
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物語は中国の田舎町。17歳のシュイ・チンの前に生まれて間もなく家族を捨てて都会に出ていた母親が帰ってくる…
母親との16年振りの再会に喜ぶシュイ・チンだったが、それはこれから起こる悲劇の始まりだった…というあらすじ。
ジャンルとしては社会派映画になるのだろうけど、事件に至るまでの経緯や登場人物の心情が切なすぎて、むしろ本作は青春映画としての要素の方が強いと感じた。
そして、そこが自分が本作を好きな理由でもある。
本作は事件に関わった人達や事件の背景にある事情がとにかく切ない。
まず事件の発端にはシュイ・チンの母親への無垢な愛情がある。
本作のキャッチコピーにもなっている「あなたのためなら何だってする」という言葉は比喩ではない。追い詰められた母親を救うために彼女はとんでもない行動に出てしまう。
家庭でも邪険にされていた(後妻からも充分な愛情を受けていなかった)シュイ・チンが母親にのめり込んだのは当然ともいえる。しかも生みの母親があれだけ垢ぬけていたら、その憧れは余計強くなるだろう。
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主人公と級友2人の関係性もこの映画の好きなところ。
環境も境遇も全く異なるタイプの3人。この3人が親友という発言を聞いて疑問に思ったが、彼女たちは全員家庭環境に問題があるという点で共通している。
接点の無さそうな3人組が親友になったのはこうした背景が大きく影響していたのではないだろうかと思う。
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この3人の束の間の青春は劇中でも美しい場面だ。
トンネル前の告白での場面でジン・シーが涙を流している場面は、前回観た時もそうだったがグッとくる。
放送室での場面といい、ジン・シーは劇中であまり家庭環境の描かれてないが彼女もまた2人同様追い詰められた兎なのだ(学校で私服を着たりタトゥーを入れる行為も自衛本能といえる)。
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この作品が「あいち女性国際映画祭」に選ばれた理由も観て納得した。
主人公含め物語の主人公たちは全員女性。劇中での男性は害をなす者として描かれてる。こうした扱いは恐らく意図的だろう。本作は間違いなく女性の映画だ。
追い詰められた末の行き当たりばったりの誘拐計画。そんなものが上手くいく訳もなく観てて辛すぎるほど事態は悪化していく。
言ってしまうと冒頭の場面で、観客はこの計画が上手くいかないことは分かっている。そのため映画の展開をじれったく思う人もいるだろう。
だが事件に至るまでの日々を描いてることには明確な意味がある。それはこの事件の原因についてだ。
兎は確かに暴走した。だが兎を暴走させたのは誰なのか?
一見すると、原因はシュイ・チンの母を思う気持ちにあるように見える。
しかし事件をよくよく振り返ると、その背後にある「両親=大人たち」の責任が浮かび上がる。
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「最悪」な事態は偶然ではなく必然的に起きている。
ユエユエの父親が束縛も暴力も振るわなかったら彼女はあの場所にいたか?シャン・チンの母親がもっとしっかりした人ならば?
シャン・チンの家庭に居場所があったなら違う選択肢があったのではないか?そう考えると違う未来も見えてくる。
だからこそこの映画は切なく悲しい。
監督のシェン・ユーはこれが長編デビュー作ということだが凄い。
早くも次回作が気になる。
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