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【思想もメッセージ性もない】『サイコ・ゴアマン』紹介【ただ愛がそこにある】

惑星を滅ぼせる力を持った残虐宇宙人と、宇宙人を意のままに操れる宝石を手にした少女が巻き起こす騒動を描いた映画『サイコ・ゴアマン』

漫画の『チェーンソーマン』、『ルックバック』などで知られる藤本タツキ先生が描き下ろしイラストを挙げたことで、話題になったので、その名前を知ってる人も多いのではないだろうか。

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7月30日からシネマート新宿ほか、全国の劇場で公開中の本作。筆者も早速鑑賞してきたので、感想を交えて内容を紹介していきたい。

【『サイコ・ゴアマン』映画情報】

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製作年:2018年 製作国:カナダ

あらすじ:舞台はカナダの片田舎。ある兄妹が自宅の庭に埋まってた悪魔を蘇らせてしまう。その悪魔はいくつもの惑星を破壊した伝説の悪魔だった。だが、悪魔を服従させる宝石を妹が手にしていたため、悪魔は妹の言いなりとなってしまう。悪魔を使って好き勝手する兄妹だったが、悪魔の討伐を企てる存在もあり…

本作のスティーブン・コスタンスキ監督は、カナダの過激映像集団<アストロン6>のメンバーの1人。これまでの作品に『マンボーグ』(2011)、『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』(2011)など、いずれもアクの強い作品を世に輩出している。

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【まさに暗黒のニチアサ!溢れ出る特撮愛と80年代オマージュ】

まず、注目したいのは溢れんばかりの特撮愛。何せ登場人物は人間よりクリーチャーの方が数が多い。しかもクリーチャー達は全て着ぐるみ。デジタルが主流となりつつある昨今のモンスター映画において、アナログで撮られた本作からは懐かしさと作り手の特撮への愛が感じられる。

(下記の画像はパンフレットより。各キャラクターの設定がしっかり練られてる点が心をくすぐられる)

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そんな本作は、日本の番組や映画から多大な影響を受けている。筆者は本作を観た時に「まるでニチアサ(※日曜のテレビ朝日の番組)みたいだな」と思ったが、実際、本作を手掛けたスティーブン・コスタンスキ監督は、日本の『仮面ライダー』シリーズや『スーパー戦隊』シリーズから影響を受けたと語っている。

それを知った上で見返すと、確かにスーパー戦隊を思わせるデザインのキャラクターやカットが多い。だからこそ、日本の観客には受け入れ易いだろうし、特撮好きの人にはより刺さる作品となっているだろう。

またクリーチャーのひとり・ウィッチマスターの声を担当してるのは、園子温監督『冷たい熱帯魚』(2011)の黒沢あすかさん。このキャスティングからもコスタンスキ監督の日本カルチャーへの偏愛ぶりが伺える。

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コスタンスキ監督が影響を受けた作品として挙げている日本の特撮作品
『ゼイラム』(1991)
『真・仮面 ライダー 序章』(1992)
『GUYVER DARK HERO』(1994)
『人造人間ハカイダー』(1995)

もう一つ、本作を占める要素の一つが80年代映画へのオマージュ。コスタンスキ監督は少年少女が主人公という点で、『E.T』(1982)、『グーニーズ』(1985)、『ドラキュリアン』(1987)などの80年代の映画を意識したとも語っている。本作の音楽や美術から、そうした80年代オマージュを感じ取ることができるだろう。

本作のED曲『Psycho Goreman (PG For Short)』のMVは、監督が幼少期から大好きだったという『ミュータント・タートルズ』(1990)のエンディング曲『Turtle Power!』のリスペクトが込められたMVだ。こうしたこだわりからも監督の好きなものに対する愛が感じられるのだ。

【アクの強いキャラクター達の織り成す冒険劇!】

本作の特徴として挙げたいのが、笑いのセンスが抜群ということ。くせ者揃いのクリーチャー達に負けないくらい人間側のキャラクター達が個性豊か。
特に主人公ミミのキャラクターは強烈の一言。惑星を滅ぼせる程の力をもつ残虐宇宙人にも、全くひるまないどころか、オモチャにしてしまうくらいの凶悪っぷり。

面白いのは、この極悪非道なキャラクターは、ミミを演じたニタ=ジョゼ・ハンナそのままだということ。ミミは、劇中内でもお喋りなキャラクターだが、ニタ本人はそれ以上らしく、監督がもう少し静かにして欲しいと注文をつけたという程。ニタは本作が映画デビュー作らしいが、それでこの存在感は恐ろしい。今後が楽しみな女優だ。

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ミミと匹敵するくらい強烈なキャラクターなのが、ミミの父親のグレッグ。グレッグの駄目親父っぷりは、本当酷すぎて笑ってしまう。この作品、間の取り方が世界共通なのかと思うくらいバッチリだが、コントのようなやり取りには声を挙げて笑ってしまった。

父親を演じたのは、アストロン6の設立者でコスタンスキ監督の『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』(2011)で主演をつとめたアダム・ブルックス。
ミミと父親に対し、常識人っぽい兄貴と母親との宇宙の命運を巡る戦いと家族喧嘩を同列に描いた展開も素晴らしい。

ちなみに劇中で重要な意味を持ってくる『クレイジーボール』だが、そのルール説明に対する動画も挙げられている。こういう細かいネタを作りこんでる辺りにも作り手達のこだわりと愛を感じる。

いかがだっただろうか。監督の好きなものが詰まった『サイコ・ゴアマン』。B級ド直球の本作だけに、誰にでも薦められはしないが、その分刺さる人には特別な作品となるだろう。特撮好きな人には特にお薦めだし、気になる人も是非チェックして見て欲しい。

写真は、シネマート新宿のポップアップの展示の様子。エレベーターの扉が開くとサイコ・ゴアマン、脳みそ君が観客を出迎えてくれる。

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グッズのサイコ・ゴアマンのキーホルダー。この他にコラボフードなど含め、本作は宣伝担当の方が凄く盛り上げてくれている印象。作り手だけじゃなく、届け手からも愛を感じるのも好感が持てる。

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8月13日から19日の間にシネマート新宿で公開される2本立て。どちらもゴア色強し&カナダ製作の映画という共通点がある。『ターボキッド』は傑作なので、未見の方はこの機会に是非!

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ヴィクトリー下村
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