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【復讐の果てにある世界】映画『ペナルティーループ』感想

恋人を殺された青年は同じ時を繰り返しその度に犯人を殺す。

3月22日から公開されている映画『ペナルティループ』
復讐とタイムリープを題材にしたSF映画だ。
監督は『人数の町』の荒木伸二。主演は『街の上』での若葉竜也、共演に伊勢谷友介、山下リオ、ジン・デヨン。

ここ最近「タイムループ」を題材にした映画を見かけることが多くなった。

2019年に公開された『ハッピー・デス・デイ』。2022年公開の『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』、去年公開の『リバー流れないでよ』といい、どの作品も粒ぞろいのタイムループ作品だ。
タイムループ映画ってアイデアの宝庫だと思う。

※タイムループとは「ある一定の条件下で同じ時間を繰り返す」ことを意味する。過去や未来に身体ごと移動するタイムトラベルとは異なるものである。

この4作品はタイムループ映画でも特に好き。左上から『ハッピー・デス・デイ』、『ミッション:8ミニッツ』、『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』、『リバー、流れないでよ』。

『ペナルティループ』もそんなタイムループ映画に連なる作品でありながら、他のループ作品とは一線を画する作品となっている。

なぜなら、この映画では殺したい程憎い相手を殺すことができる、それも何度でも。

「殺したいほど憎い」という気持ちは生きていれば一度は抱く感情なんじゃないだろうか。自分もそういう感情を抱いたことはある。この映画の主人公、岩森淳もまさにそんな状況に置かれた人物だ。

ただ彼の場合は憎い相手に出会ったなんて次元の話じゃない。
愛する恋人を殺されてしまい犯人を殺したいほど憎んでいる。そして実際に復讐する機会を手にするのだ。

荒木監督へのインタビューによると本作は「どのループものとも違う、これ以上のループものは出てこない」作品を目指したとのこと。

その言葉通り、本作も冒頭からラストまで先の読めない展開が待ち受けている。中盤からの展開には「なるほど、こうくるのか」と何度も唸らされた。

これから具体的な内容についての感想を書いていくが、この映画、舞台背景が曖昧なのが特徴の一つ。

物語が進むにつれ点と点が線で繋がっていくという構成なので、あまり内容を知らないで観た方が楽しめると思う。
これから鑑賞予定の方は映画を観てから以下の感想を読むことをお薦めしたい。

※これより以下は具体的な内容に触れています。気になる方は鑑賞後にお読みください。

2024年製作/99分/PG12/日本

題材的にどんなシリアスで狂気な展開が待っているかと思っていたので、中盤からの展開とガラッと変わる雰囲気には意表を突かれた。

被害者と加害者。
この舞台設定でしか成立しえない2人の奇妙な関係性が良い
。通常、相手を殺した時点で復讐は果たされる、それ以上はない。

本来ならそこで終わる話をこの映画は何とも奇妙な設定によって復讐を果たした先の世界、本来なら有り得なかった筈の景色を描く。

被害者と加害者の交流を描いた映画は珍しくないが、こういうタイプの作品はちょっと見たことなかったな。

タイミングが違えば、こういう世界もあり得たかもしれないという可能性を見せられたような何とも不思議な気持ちにさせられた。

人がいくら強い感情を持っていたとしても長くは持たないんだろうなという諸行無常にも似た気持ちも抱いた。

作品の内容自体とは関係ないが気になった点もある。
それは「実際に大切な人を殺された人はこの状況をどう思うんだろうか」ということ。

「相手を許すならまだしもこんな付かず離れずの関係になるなんて有り得ない、許せない!」と怒る人もいるだろうし、永遠に復讐相手に鉄槌をくだす人をいるだろう。

実際のところ、主人公の心情の変化については賛否分かれそうな気もする。

自分は幸運なことに大切な人が犯罪に巻き込まれたとかそんな経験はしていない。あくまで想像でしかないが岩森が溝口を殺さなくなった気持ちは分かる気がする。

何かに怒り続けるってそれだけでエネルギーを使うものだ。
また人を殺し続けるのも普通の人であれば間違いなく精神的にキツイだろう。

時間までに絶対に殺さなければならないというルールもキツい。

本作は「何度も復讐をできる状況下にしたら人はどう行動するか?」という一種の思考実験のようにも思えるが、ここで大事なのは岩森が溝口を殺さないと決めたことだろう。

溝口を殺さないと決めたが、このループのルールでは殺さないといけない。

この展開からは「契約書はよく読もう」という教訓もあるが、自分は復讐するという選択をした時点で岩森も無間地獄に落とされたようにも思えた。

一気に変わるポップな雰囲気も良い。

この2人の場面は「これまでになかった光景を見せてくれた」という点で面白く、2人の掛け合いがコミカルでオフビートなのも良かった。

若葉竜也はさすがの安定した演技を見せるし伊勢谷友介のしゃがれた雰囲気も良い。山下淳弘監督の『リアリズムの宿』のような緩さを感じた。

個人的には最後のループが終わった時点で終わっても良かったと思う。というのも、このパート以降の展開は蛇足というか自分にはピンとこなかった。

本作はあくまで岩森の物語ということなのだろう。
復讐のその先の世界も描かれていくのだが、彼の恋人周辺の描写はさすがに曖昧過ぎじゃないだろうか。

「実は愛していた恋人のことを全然知らなかった」という衝撃も薄く、明かされてない情報も大きすぎて(彼女は謎の組織に追われていた?溝口のその組織の人間だった?)特に湧いてくる感情もなかった。

恋人役の山下リオさんの雰囲気は凄く良かった。

最後に岩森が起こした事故は仮想と現実の対比ということなんだろう。

全体的に観ると、不思議な感触の作品ではあったが面白かった。こうしたSF作品がオリジナル脚本で製作されているという点でも応援したい。

荒木監督の『人数の町』もまだ観てないけど気になっていた作品なので観てみようかな。

※タイムリープ作品2作品の感想記事。どちらも面白いのでお薦め!


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ヴィクトリー下村
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