【琥珀に包まれたある村の記憶】映画『霧の淵』感想
4月19日から公開している『霧の淵』は、奈良県南東部の集落で旅館を経営する家族の日常を描いた映画だ。
鑑賞後に知ったが、本作の舞台となっている川上村は2018年には人口減少率では全国でワーストになってしまった村とのことらしい。
そんな本作は、村の記憶をさまよう幻想譚であり静かな終わりを辿る物語となっている。
主人公イヒカを演じるのは奈良県出身で本作が映画初出演となる三宅朱莉、イヒカの母・咲を水川あさみ、父・良治を三浦誠己、祖父・シゲを堀田眞三が演じている。
監督は『赤い惑星(ほし)』などのインディーズ作品を手がけ、本作が長編商業デビュー作となる村瀬大智がつとめている。
全編にわたり静謐な雰囲気に包まれた83分だった。
風の音、森にかかる霧、透き通った川、美しい自然の姿やそこで生きる人々の姿はノスタルジックな気持ちにさせる。
何でも村瀬監督たちは実際に川上村に長期間滞在して撮影に臨んだということで、劇中の川上村からは、いわゆる「観光映画」以上に踏み込んだ距離の近さを感じた。
本作の特徴として直接的な表現を避けているということが挙げられる。
冒頭のイヒカの母と父の離婚話もそうだし中盤でイヒカ一家に起こるある出来事もそうだ。
インパクトのある出来事を直接描写しないことで静謐な雰囲気を最後まで保たれている。
本作に関しては村瀬監督のコメント通りの内容になってると思っており(つまり監督の意図通りの作品になっているのだと思う)、自分も見終わった後に静かな終わりを琥珀に閉じ込めたような映画だと感じた。
以下、村瀬監督のコメント(公式HPより)
『霧の淵』、最初は鑑賞予定になかったが、観れてとても良かった。
奈良県は過去に一度友人に会いにいったことがあるのだけど、愛知県とは時間の流れ方が違う場所だったなぁ。
川上村にもいつか訪れたい。
『霧の淵』は現在公開中、これから公開される映画館もあるので気になった方は是非ともチェックしてみては。