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【乱暴なドラえもんがやってきた!!】映画『メタルヘッド』感想

交通事故によって母親を亡くした少年の元に、入れ墨の入った半裸の男がやってくる…という映画『メタルヘッド』。2010年に製作された映画で、主演はジョセフ・ゴードン=レビット。共演者にナタリー・ポートマン、レイン・ウィルソンが名を連ねている。

鑑賞したのは数年前。当時、ジョセフの出演作を追いかけていて、その中の1本が本作だったのだけど大好きな作品。不謹慎だけど笑えて、グッとくる場面もあって登場人物たち全員が愛おしい。

舞台はアメリカの片田舎。主人公は母親を交通事故でなくしたTJという少年。TJは母の死を引きずっており、学校でもいじめっ子に目をつけられているという悲惨な状況だ。TJの父親のポールも妻の死から立ち直れずに、毎日お酒を飲んでは居間のソファで寝るばかり。年老いた祖母と同居しているが、2人がこんな状態なので家の中は暗い雰囲気が漂っている。

こんなどん詰まりな家庭に、ジョセフ演じる謎の男「ヘッシャー」が突然やってきてTJ家に住み着く訳だが、この男の言動がぶっ飛んでいる。

下ネタは当たり前。パンツ一丁で家の中をうろつき回り、真昼間から居間でAVを見るわ、他人の庭に侵入し荒らしまくるわとやりたい放題。ヘッシャーの行動がひど過ぎて観てて思わず吹き出してしまう。ヘッシャーに巻き込まれたTJ達はただ呆然とするしかない。

2010年製作/106分/R15+/アメリカ

例えるならヘッシャーは乱暴なドラえもん(秘密道具はない)。のび太(TJ)を助けるけど、その手口も超乱暴(TJを車で撥ねたりする)。ドラえもんとのび太がいるということで、ジャイアンもいるけどこちらも超乱暴だ。

TJを見つけると問答無用で突き飛ばし「俺のをしゃぶれ!」なんて言ってくるから恐ろしい。やたら淡を相手の顔に吐きかけるという行為も嫌すぎる(ただし、TJも抵抗してるのでやられっぱなしという訳ではない)。

ヘッシャーがその様子を見て助けるかというとそうでもない。ただ、眺めてるだけの時もあるし、引くくらい乱暴な手口で助けてくれることもある。ヘッシャーの言動は無軌道でハチャメチャ。現実にいたらお近づきにはなりたくない。ただ、周囲に忖度しないで自由に突き進む姿は少し羨ましいものもある。ひどいことばかりしてるのにヘッシャーを憎めないのは、ジョセフ自身の愛嬌もあるのだろう。

ジョセフのぶっ飛んだ演技も素晴らしいけど、注目して欲しいのはスーパーの店員役を演じたナタリー・ポートマン。ナタリーといったらその美貌で世界中の映画ファンを魅了してきた訳だけど、本作ではそういったオーラを一切消している。

ナタリーが演じたニコールという女性はいわゆる冴えない人。地味な見た目に不器用な言動も相まってダサいのだが、ナタリーの役作りが素晴らしく本当にそういう人にしか見えない。ナタリーほどの人物になると地味メイクしてもオーラが隠し切れないと思っていたから、初めて見た時は驚いたし、改めてナタリーの演技力の高さを実感した。

しかもこの映画、ナタリーがプロデューサーをつとめているというから驚きだ。ナタリー・ポートマンって見た目に反して、こういう映画を手掛けたり「ナタリーラップ」を披露したりと、本人がなかなかぶっ飛んでそうな人物なのが面白い。

そんなニコールにTJは恋心を抱くのだけど、話が進むにつれニコールもTJと同じく人生に苦しんでいる人間ということが分かる。お金が全然稼げなく家賃を払うのすら苦心している。

「なんでこんな災難に?私が何かした?」というニコールの嘆きは、原因は違えど不慮の事故で最愛の人を亡くしたTJ一家にも共通している。そうした悲しみを抱えた人たちのもとにヘッシャーが現れ、彼らの心を結び付けていく。

要は本作は荒っぽいセラピー映画なのだ。グループセラピーの場面でポールも語っている「自分たちを引っ張ってくれる存在が必要と」。それがヘッシャーだったんだ。悲しみに囚われて停滞していた家族は、ヘッシャーという闖入者によって感情を乱されるが、それをキッカケに徐々に動き出す。

印象的だったのが、夕食時に喧嘩をするTJとポール。ヘッシャーによって激しくなった2人の喧嘩は食器をひっくり返すぐらいまでエスカレートしてしまう。一見すると家庭崩壊にも見える場面だけど、筆者には、これまで対話すらなかった2人が互いの憤りのない感情をぶつけ合ったことで、ようやく家族として向き合い始めたように思えた。

この映画で唯一の癒し役のおばあちゃん。ヘッシャーと彼女の掛け合いはどれも微笑ましくて好きなんだけど、彼女の葬儀の場面でのヘッシャーの別れの挨拶が最低で最高。最初見た時は「金玉…え?」ってなって全然理解できなかったのだけど今なら理解できる。この映画、悩みを抱えたり人生に行き詰ってる時に観ると良いかもしれない。くだらないんだけど、その中に優しさがある。元気を貰えるとかとは違うけど、皆同じなんだと勇気づけられるような気持ちにさせられる。

その後の場面で3人で棺を押す場面もグッとくる。2人はおばあちゃんとの散歩を通じて、ようやく「死」を向き合い見送ることができたに違いない。

ということで、今回久し振りに観返したけど、やっぱり大好きだこの映画。ただ、1つだけ苦手な点もあって、それはTJの回想場面の中で交通事故の場面。いつも音が凄すぎて、この場面だけは何度観ても慣れないな(ジャンプスケア的演出が苦手)。

ちなみにこの映画、世界的に有名なロックバンド、メタリカの楽曲が劇中で使用されていることも特徴の一つ。メタリカは自身の楽曲を映画では滅多に使用させないため、こうしたケースは非常に珍しいらしい。楽曲の使用許可を出した理由はヘッシャーのキャラクター造形にある。

ヘッシャーの不精ひげと伸びきった長髪というキャラクターは同バンドで不慮の事故によって亡くなったベーシストのクリフ・バートンをイメージしたもの。そのことに感銘を受けたメンバーが、同作への楽曲の使用を許可したとのこと。ということで、興味ある人はそうした経緯を踏まえて映画を観るとより楽しめると思う。

監督をつとめたスペンサー・サッサーは今作が初長編映画で、今作以降は長編作品を撮っていないので、また撮って欲しい。後、メタルヘッドのBlu-rayを友人に貸したら、そのまま返ってこなくなった&音信不通状態なのでまた再販して欲しいことも願うばかり。


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