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【渡る世間は殺し屋ばかり】『最強殺し屋伝説国岡 完全版』感想

『ベイビーわるきゅーれ』、『黄龍の村』などで知られる阪元裕吾監督の作品『最強殺し屋伝説国岡 完全版』。ある殺し屋の日常と仕事の様子に阪本監督が密着するという体裁のモキュメンタリー(フィクションをドキュメンタリー風に撮る手法)となっている。

「殺し屋」ではないが「殺人鬼」に密着したモキュメンタリーなら『ありふれた事件』もおすすめ。えげつなくて不快指数高めの作品。

以前にも鑑賞したことがあるのだが、今回、続編にあたる『グリーンバレット』が公開されたという事で復習も兼ねて改めて鑑賞した。
※なお2019年に上映された作品に再編集を加えたため『完全版』となっているとのことです。

2021年製作/93分/G/日本

創作物の殺し屋というと、一般社会と切り離された「裏の世界の住人」として描かれることが多いが、本作に登場する殺し屋たちは少し違う。
黒いコートに身を包んだり過度に目立たない生活はしていない。仕事が終われば仲間で打ち上げしたり、デートしたり、M1見たりと、仕事で人を殺すということ以外はどこにでもいそうな人たちだ。

コインの表と裏みたいな関係ではなく、殺し屋が一般社会に馴染んでいるかのような奇妙な世界。それが本作の特徴の一つ。人を殺しに行くオレンジの目立つジャケットを着たり、子供とかがいるそばで狙撃の待機をしたりと、人を殺すという非日常的な行為が日常生活に溶け込んでいる光景がシュールで面白い。阪本監督作品全般にいえることだと思うけど「死」がとても身近なんだよね。

そもそも、これだけ殺し屋がいる世界ってこの世界の日本はどんだけ治安悪いんだろう…日本全部がゴッサムシティ?

世界観もそうなだけど阪本監督の作品はどれも脚本が面白い。登場人物は主要人物だけじゃなく、全員キャラが立ちまくってる。観終わった後も「ああ、あいつね」と思い出してしまうくらい強烈な連中が勢ぞろい。

この個性が豊かなキャラクターたちの掛け合いも面白くて笑ってしまう。監督はコント大好きなんだろうな。合間合間にコントを見てるようなそんな雰囲気。物語の展開も王道だけど伏線の貼り方と回収が巧い。阪本監督の作品はキャラクターやストーリーのテンポ含めて漫画的という印象。

そしてアクション。基本はゆるい空気感が漂う本作の中で明らかに空気が変わるのがアクションパート。国岡を演じた伊能昌幸さんはボクシング、キックボクシング、太道など多数の格闘技経験者だけ合って、動きはキレッキレ。ラスト8分の長丁場は必見。タイトルバックの出し方もめちゃ格好良い!

特にグッときたのは、国岡がカメラに心情を吐露する場面。この時の国岡は命を狙われる側になったり、好きだった娘が結婚したとことを知ったり、財産が空になったりと、まさに踏んだり蹴ったりな状態。

愚痴から始まり一般社会に溶け込めない自分という人間を吐き出していく。この場面、それまで言葉少なだった国岡が一気にしゃべるの良いのだが、早口でまくし立てているのが人間臭くて凄く良い。

国岡が言う「普通で生きることの難しさ」。これは人生に生き辛さを感じたことのある人にとっては少なからず刺さる言葉じゃないだろうか。筆者も国岡のように普通にできることが難しいと感じている人間だから、この場面は共感しかなかった。思えば阪本監督作品の主人公は、ほとんどが社会にうまく馴染めていない人たちなのだけど、そこも阪本監督作品が好きな理由の一つかもしれない。

ということで復習も終わり!『グリーンバレット』を観るのが楽しみ!


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