【ジョジョを知らなくても楽しめる!】映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』感想
漫画家、荒木飛呂彦の大人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ作品で、2020年よりNHKでテレビドラマ化されてる『岸辺露伴は動かない』の劇場版『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。
日本とフランスのルーブルを舞台に「この世で最も黒く邪悪な絵」を巡る怪奇譚が繰り広げられる。
まず先に言っておきたい。
「ジョジョ」という文字を目にして「読んだことないなぁ…」、「予備知識が必要なのかな…」と思い、ウィンドウを閉じようとした貴方、少し待って欲しい。
本作はジョジョを知らない人でも楽しめるんです!
『ジョジョの奇妙な冒険』といえば30年以上続いている大人気シリーズ。それゆえに今から新規参入するのも大変。
作り手側もそこを理解しており、映画冒頭に「岸辺露伴がどんな人物なのか?」ということを分かり易く表現しているパートがある。
なので『岸辺露伴』シリーズに興味があるけど構えている人にこそ本作を観て欲しい。ちなみに本作のジャンルを大まかに言うなら、オカルトを題材にした「怪奇探偵小説」といった感じだろうか。
京極夏彦シリーズなどが好きな人はハマるかもしれない。
※ちなみに岸辺露伴のキャラクターモデルは、ジョニー・デップ主演の『ナインスゲート』から影響を受けているという記事も以前挙げてるので、こちらも良ければどうぞ。
これより以下はネタバレありの作品の感想となっています。
以下は作品の内容に触れています。未見の方はご注意ください。
【感想】
元々、オカルトミステリー色の強い作品だが、劇場版はこれまで以上にその色が濃くなっていると感じた。
本作での岸辺露伴は「名探偵役」で泉が「助手」のような立ち位置になっている。さながら「怪奇探偵小説」というイメージ。
原作となっているのは、2011年に発売された同名の漫画作品。
フランスのルーヴル美術館とフュチュロポリス社が実施してきたBDプロジェクトの第5弾として発表された作品となる。
映画を観終わった第一印象は、原作を丁寧に膨らませ脚色したなということ。
原作は発売当時に読んだのだが、自分にはピンとこなかった。
岸辺露伴のパーソナルな話を扱っており、そこは興味を惹かれたのだけど話自体が漠然としてるように感じたのだ。
それだけに今回の映画化にも不安があったが、映画は原作で語られなかった部分を上手く掘り下げ脚色している。
オークション会場の説明から始まり「なぜこの世で最も黒い絵は最も邪悪なのか?」という因果関係も分かり易く説明してくれる。
全体的に話が吞み込みやすく綺麗にまとめているという印象を受けた。
脚本を手掛けたのは小林靖子。
ドラマシリーズだけでなく、2012年に始まったテレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』も手掛けている脚本家だ。
この方の脚本はジョジョの世界観に忠実だし、原作ファンから見ても脚色の仕方が上手い。
そしてキャスティングの上手さも露伴シリーズの魅力の一つだ。
青年期の露伴を演じている長尾謙杜や謎多き女性の木村文乃も良いが、個人的には安藤政信や白石加代子はまさに『岸辺露伴は動かない』の世界観にハマっている。偉そうな言い方になるが、観ていて「分かってるな」と思わず頷いてしまう。
『岸辺露伴~』が映画化するまで人気になったのは、ドラマ自体の魅力はもちろん、自分のような原作ファンを納得させる完成度の高さも理由の一つだと思う。
ということで作品の雰囲気は文句なしに良かったが、映画としては物足りなさを感じる場面もいくつかあった。
一つは話の単調さ。
物語がパート毎に分かれているのだが、話自体は単調に感じてしまった。
最大の盛り上がり場面は、恐らく黒い絵を前にした推理パートになるのかもしれないが、その場面自体そこまで盛り上がらない(画的にも弱く感じてしまう)。
これがドラマとして何話かに分かれていたなら、違和感なかったかもしれないが、2時間近く見続ける映画ではもう少し緩急があっても良かったかもしれない。
また、説明過多にも感じる。
上述したことと矛盾してしまうが、丁寧に脚色しているので話自体は分かり易い。しかし、その分説明がくど過ぎる気もする。
特に絵に関する謎の解明パートは結末が分かっているので、観てて長く感じてしまった。個人的な好みになるかもしれないが「謎はある程度謎のまま」でも良かった気も…
(ただ、解明パートのお陰で高橋一生の芸達者っぷりをも堪能できる)
ドラマと雰囲気は同じなので、ドラマファンならある程度満足はできるだろう。でも映画ならではの作りの難しさも実感させられた。
今回、映画を観て改めて気付かされたのは、飯豊まりえ演じる泉京香の魅力と重要性。
泉京香(以下、泉君)、良くも悪くも空気を読めない天真爛漫なキャラ。
露伴との掛け合いが微笑ましいが今作では一種の清涼剤のような役割になっている。
暗めな雰囲気が続く中で、泉君が登場するたびに作品に明るさをもたらしてくれる。彼女の存在自体が良いアクセントにもなっていたんだなと改めて気付かされた。
ということで『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、思うところはあったものの観ることができて良かった。
個人的にこのシリーズは年末の風物詩なので、願わくばこれからも作品が作られ続けることを願いたい。