生誕80年・没後40年 ジョン・レノンとともに読書を②
○『近所の景色/無能の人』つげ義春
手塚治虫は漫画界のビートルズと言われることがあります。漫画とポップミュージックというフィールドの違いはあれ、その表現を深め、かつ、その表現領域を拡大させたという意味で、両者は共通すると言えるでしょう。そして、手塚治虫がビートルズならば、つげ義春はさしづめ、ソロになったJLではないでしょうか。
ある時期から、つげ義春は、自分の日常生活を題材にした、私小説的な作品を描くようになります。漫画を描くことができず、せっかくの依頼があっても断り、家族に疎まれながらも、石やカメラをコレクションしては古物商のようなことをする、そんな漫画を書けない漫画家の日常を漫画に描いたのです。貧しく、情けない話なのですが、どこかユーモラスなところもあって、「無能の人」と名づけるあたり、一種の自虐ネタとも見えるのです。
ビートルズ解散後のJLもまた、「僕はビートルズを信じない。ヨーコと僕だけを信じる」と言って、ひたすらリアルな表現、私小説的な世界へと突き進んで行きます。ラブ・ソングはすべてヨーコか愛息ショーンへのラブレターといっても過言ではないでしょう。それが普遍的な愛や平和、自由に昇華されてしまうのがJLの天才性です。
もうひとつJLとつげ義春の共通点は、自分の情けなさ、弱さを恐ることなく晒すところです。桑田佳祐は、JLへの鎮魂歌「Dear John」の中で「弱さまでいい」と歌ったほどです。この心情吐露はビートルズ時代からで、「I'm A Loser」(僕は負け犬)、「Help!」(僕を助けほしい。あなたに助けてほしい)、「Nowhere Man」(どこにも居場所がない男。そんな彼に少しばかり僕や君は似てないかい?)、「Yer Blues」(僕は寂しい。死んでしまいたい)、「Jealous Guy」(僕はただの焼きもちやきだ)、「Watching The Wheels」(みんなは僕を怠け者というけど、僕はもうメリーゴーラウンドには乗らない)……どうです、このネガティブ表現の雨あられ……ヒロシも真っ青(我が家では最近よくヒロシの旅番組を見ています)ではないでしょうか。でも、情けなさや弱さというものは、誰にも少なからずあるものです。つげ義春とJLの作品がいつまでも色褪せないのは、そんな根源的とも言える人間性を見つめているからでしょう。
つげ義春の『近所の景色/無能の人』の登場人物はしばしば横臥しています。これを見るたび、コンサートツアーとレコーディングと映画撮影に明け暮れ寝る暇もなかったビートルズ時代にJLが作った「I'm Only Sleeping」という曲が思い出されます。「どうか起こさないでください。僕はただ眠っているだけなのです」。何もせず横になっていることへの憧れが行き着く果ては、無能の人? これもまた罪深い人間の性(さが)ではないでしょうか。
文と絵/清水家!(弟)
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