記者発表会の実施方法 オンライン・リアル開催
記者発表会・記者会見の準備と実施方法をご紹介します。
これから初めて記者発表会を実施する方、とくにスタートアップの広報さん向けに具体的にまとめました。
1.記者発表会実施の判断をする
記者発表会の手順を説明する前に、そもそも記者発表会を実施すべきか否かの判断の必要があります。
広報担当としては記者の出席ゼロの発表会になるのは避けたいところです。多くの記者に声を掛ければなんとかなるわけではありません。発表会の立て付けが重要です。
何か発信したい情報がある場合プレスリリースを出すと思います。わざわざ記者発表会を実施する意味は何でしょうか?
①会社として重要な新情報を発表したい
②記者と面識を増やし、関係を築きたい
③(いつの)プレスリリースよりも、多くの記者に記事を書いてもらえる可能性を高めたい
しかし、記者側は貴社と関係を築きたいと考えているわけではありません。
記事になるネタを見つけることが第一目的ですから、
記者が今関心があるテーマだと思ってもらったり、
プレスリリースだけではない会見に来場する動機(通常は取材できないことが取材できる、当事者に深い質問ができる)などを提供する必要があります。
上記のことから、具体的には以下などの発表ごとがあれば記者発表会を検討しても良いでしょう。
新サービス・新商品のローンチ
企業/団体との協業・提携の発表(相手の団体と共に)
実証実験のお披露目
(メガベンチャー以上であれば)今後の戦略発表
逆に言えば内容としては相応しくないのは、「新機能ローンチの度に記者発表会を行う」「今後目指したい目標や概念、創業ストーリーのみを語る」などです。
2.実施日を決める
何を発表するかが固まれば、ある程度実施日が決まります。実施場所の検討と合わせて大よその日程を決めます。
ベースとなる考えは以下です。
新サービスのローンチ発表=新サービスがローンチされる直前、または当日(ローンチ直前でもデモ画面が公開できるならOK)
企業/団体との協業・提携の発表=締結日、またはその数日後
実証実験のお披露目=お披露目当日
(メガベンチャー以上であれば)今後の戦略発表=いつでも良い
社会的な動きと合わせた日程(たとえば雇用に関する発表であればアメリカ雇用統計の発表日に合わせるなど)
これに加えて「記者の来場がより見込まれる/避けた方が良い日時」を検討します。
・平日火曜~木曜の9:00-14:00に実施する(記者は午後~夕方は原稿執筆で忙しい傾向あり)
・企業の決算発表が多い2月中旬/5月中旬/8月中旬/11月中旬は出来れば避ける
・同業界の大きな祭事の日は避ける(自動車に関する発表は東京モーターショーの期間は避けるなど)
・スタートアップの場合は「他社の記者発表会日」「●●の記念日に合わせる」などはあまり考慮しなくても良いでしょう(調べてもキリがないですし、意識してもメディアの来場者数にそこまで影響はありません)
3.実施場所を決める
実施場所の決定は、コストと準備時間が決まる大きな決断です。
大きくは以下の4つがあります。
オンライン
自社オフィス
現場/店頭
ホテル/イベントホール
※記者クラブでの実施というケースもありますが、今回は割愛します。
それそれの実施場所の特徴とメリデメを以下にまとめました。
おススメは自社オフィス、もしくはオンライン
スタートアップであれば、おススメは「自社オフィス、もしくはオンライン」です。多くのメリットがあります。
会場費用がかからない
準備物が少ないので手配漏れなどのミスを減らすことが出来る
短期間で準備でき、急な変更が発生しても問題が出にくい
オンライン開催は記者のスケジュールの都合での欠席が少ない(前後の移動時間が発生しないため)
まず大きいのは「コストが掛からない」点です。
ニュースで見かけるアップル社の発表会のようなホテルやイベントホールでの開催は数百万円、一千万以上掛かることもあります。
SaaSなど無形商材ではお披露目するのはプレゼン資料とPCのデモ画面程度でしょう。特に展示する物もないと思います。であれば自社オフィスの大きい会議室、またはオンラインで十分です。
ホテルで開催するのは数十名以上の来場が見込まれるときや、五感に訴える商材(食べてもらうなど)、ブランディングを気遣う商材に限定されるでしょう。
個人の経験で言えば、自社の大きい会議室のテーブルを移動させ、モニターとイス10脚を用意しただけで記者発表会の会場とした経験があります。予定よりも来場者が多くてパイプ椅子で席を補填しましたが、状況を説明すれば記者からのクレームにはなりません。記者はネタを探しにきているので、装飾などを求めているワケではないのです。
トライしたい「現場/店頭」取材会
次にぜひトライしたいのが、「現場/店頭」での記者発表会です。
なぜなら、記者が取材したい要素が網羅できるので、記事の大きさ、ニュースで紹介される尺が長くなる可能性があるからです。
具体的には以下の要素です。
・動く画がある(現場で自社製品が使われる様子)
・その場にいるエンドユーザーの客観的意見が取材できる(利用者の声、一般消費者の声)
実証実験の予定や小売の店頭で自社サービスが採用された場合などは積極的に関係各所に交渉し、「現場」での記者発表会を狙いたいところです。現場での発表会では椅子など必要なく、立ち取材でも全く問題ありません。逆に現場やお客様の迷惑にならないオペレーションを優先しましょう。
ホテル/イベントホール開催は早めの準備を
ホテル/イベントホールで開催する場合は、早めに準備しましょう。そもそも会場の空き状況や、適切なキャパ、音響照明などの付帯設備の有無など、チェックすべき項目が格段に増えます。
会場を下見・ロケハンして発表内容に相応しい雰囲気があるかのチェックも必要かもしれません。
重要なのは「来場メディア数のヨミ」です。余裕をもって大きめの会場を手配した場合、実際の来場者数が少ないと閑散として寂しくなってしまいます。中には社員にサクラで着席してもらうなどで対応したエピソードを聞いたこともあります。
4.大よその予算を確認する
実施場所が決まれば、大よその予算も算出可能です。
先ほどの比較表に最低金額を記載しています。必要な予算を算出し、社内稟議をとりつけましょう。
オンライン、自社オフィスであれば基本は費用は発生しません。
オンライン記者発表会はZoomで完結できます。
自社オフィスなら自社ロゴのパネル程度はあった方が良いでしょう。キンコーズで作成できます。
ホテル/イベントホールの場合は会場費に合わせて、運営人件費、音響照明、ステージ造作物などの費用も掛かります。合計すると数百万円は掛かってきます。
5.スケジュールを組む
各タスクを関係者と共有するスケジュールを組みます。
スケジュールで重要なポイントをいくつか挙げます。
自社オフィスなどリアル開催の場合は、出席の意向の返信期限を設けます。多くの場合は発表会前日には参加者の申し込みを締め切ります。会場の座席などの準備物に関わるからです。
記者へ送る取材案内状は発表会の2週間前を目安に送付します。遅くとも1週間前に送付します。2週間よりも前に送付しても先の予定すぎて忘れられてしまう可能性があり、1週間を切ってくると既に記者の予定が埋まってしまっている可能性が高まります。
以下はオンライン/自社オフィス開催を想定したスケジュールです。ホテル/イベントホールでの実施の場合は2ヶ月以上前から準備すべきでしょう。
6.発表内容、プログラムを詰める
当日のプログラムを決めます。オーソドックスなプログラムは以下です。
30min 受付時間(リアル開催)※オンラインであれば15分前
2min 開会/挨拶
20min プレゼン(会社概要/新サービス説明/デモ画面紹介)
10min 質疑応答
5min フォトセッション(オンライン開催以外)
閉会
協業・提携の発表であれば、相手のプレゼン時間など上記に追加します。
7.記者への取材案内状を作成する
取材案内状は発表会の概要(開催日時、場所、登壇者)と、大よその発表内容を記載したものです。
ポイントはある程度発表内容を記載することです。何の発表があるのか分からなければ記者は参加の判断ができません。(株価に影響を与えるような場合は注意が必要です。大手企業との提携の場合は企業名を伏せるなどが必要です)
3枚程度にまとめることが推奨されるようですが、個人的にはA4用紙1枚にまとめるようにしています。(複数枚だとFAX送付したときに用紙がバラバラになる可能性があるため)
出席意向の場合の返信期日を記載しておきましょう。多くの場合は発表会の前日まで受け付けます。
8.メディアリストを作成する
発表会に来場してもらいたいメディアをリストアップしたリストを作成します。
面識のある記者さん以外に、発表内容に応じて新規のアプローチメディアを追加します。
以下などを参考に連絡先を把握し、リストを追加していきましょう。
発表の内容によっては「記者クラブ」に案内状の投函が有効です。金融、建設、1次産業などには「記者クラブ」が存在します。一覧は以下です。それぞれの記者クラブによって投函方法、申し込み期限は異なるので各機関に問合せましょう。
ターゲットとなるメディアをリストアップする(以下のYahoo!ニュース提供社一覧やPR TIMESのパートナーメディア一覧を参考に)
既出の署名記事から担当記者を割り出す
記者クラブ
9.取材案内状の配布と声がけ
作成したメディアリストに個別連絡などで送付していきます。発表会の2週間前を目安に送付します。各メディアの窓口に送付しても良いですし、記者のSNSアカウントにDMで送付しても良いです。
各メディアの窓口に送付(右記など参照。https://note.com/yukafujimura/n/n5cb3a835580a)
記者のTwitterアカウントにDMで送付(朝日新聞は記者のSNSアカウントがまとまっています。(https://www.asahi.com/sns/reporter/)
このタイミングで、プロモートと呼ばれる電話で各記者への声がけを行うケースも多いです。ただし、取材案内状に書かれた内容をそのまま説明するだけの電話では嫌悪されるケースが多いです。「読めば分かる」と。案内状には具体的には書けなかったことを伝えましょう(提携先企業名を口頭で伝える、他者も似たような発表をしていて注目のトピックだと補足するなど)
私の経験では、初速で全く出席意向の連絡がない場合は、来場記者が2、3名程度に留まる可能性があります(ニュースバリューがない発表会になってしまっている)。この場合は、社内に見込み来場記者数を早めに報告し期待値とのコントロールを行いましょう。
10.FAQ(想定問答集)の作成
プログラムに記者からの質疑応答を設けた場合は、FAQを用意し、答えにくい質問をされたときのシミュレーションをします。
特に未定のこと、過去に発生した何かの問題についてなどは入念に回答例をまとめます。
既知の内容についてはわざわざ問答を作成しなくても問題ありません。(ex「プロダクト名は何ですか?」など)
11.プレゼンテーション資料の作成
当日発表する内容をまとめた史料です。
スタートアップであれば、いきなり発表内容の具体の話ではなく、そもそもの当該業界の説明や会社紹介から始めましょう。
エレベーターピッチの資料を想起すると良いでしょう。
市場規模/消費動向の変化
自社の紹介(沿革やミッション)
業界のメインプレイヤーや競合とその特徴
新サービスなど発表内容の概要
発表内容の社会的意義
新サービスの機能やそれによって達成できること
12.制作物
プレゼンテーション資料以外の制作物は記者発表会の場所/形態により様々です。
オンラインでの記者発表会であれば、Zoomの背景バナー程度でしょう。
自社オフィス、現場/店頭であれば企業のロゴバナー、または手で持てるサイズのロゴパネルです。
キンコーズの以下などが持ち運び・使いまわしができて便利です。
イベント会場での実施の場合は運営上の手配物が多くあります。例えば以下です。
・バナースタンド
・受付サイン、受付名簿(記者来場予定リスト)
・配布物(プレゼン資料)の出力
・発表会のプログラム進行表(会の流れを明記したもの)
・展示物、展示台
13.記者発表会の前日
発表会前日の夕方には、締め切った来場意向の記者リストを作成します。
オンライン開催の場合
基本はオンラインツールで行うウェビナー開催と同じ要領です。
申し込みいただいた記者にのみ視聴URLを発行、送付しておき、当日を迎えます。
自社オフィス開催の場合
前日のうちに、大きめの会議室に記者用の椅子とプレゼンター用のモニターを用意しておきます。
受付では当日の発表資料を出力して配布しましょう。記者が事前に質問事項を考える時間の余裕ができます。企業側としては”情報はプレゼンで初披露したい”と考えるかもしれませんが、サプライズな演出などは不要です。
注意すべきはオフィスビルのセキュリティでしょう。入館にPASS発行の必要があれば事前に記者との待ち合わせ場所や人数、社内のアテンド役を決めておきましょう。
現場/店頭開催の場合
現場/店頭での発表会は、集合場所が分かりにくいことが多いので、事前に記者に入念に伝えておきましょう。(施設の裏口など)
立ちでの受付、取材になるケースが多いです。
プレゼンテーション資料は受付で配布するよう準備しておきます。
ホテル/イベントホール開催の場合
ホテル/イベントホールの場合は、前日までの準備すべきことは相当多いです。制作を外部に発注してる部分、自社社員に手伝ってもらう部分など、実際は前日よりも前にマニュアル、台本を作成して各所と確認をしておきます。
前日(当日の早朝)の段階ではステージの進行スタッフとの打ち合わせ・リハーサル、来場者受付のセッティングや展示物のチェックなど準備すべきことは多岐に渡ります。
14.記者発表会実施当日
オンラインの場合
発表会当日は、会の進行が滞りなく完了することに集中します。
発表会の司会は広報担当で十分です。プロの司会を雇う必要はありません。プログラムの流れの紹介と、質疑応答の仕切り程度です。
もっとも大事なのは「」
ウェビナーを実施している会社であれば特に問題なく実施できます。
Zoomは視聴者側は画面オフにしておきます。
プレゼン終了後、記者から質問を受け付けます。チャット、Q&A機能を使ってもいいですが、質問者には手を挙げる機能を使ってもらい、音声をONにして直接口頭で質問を受け付ける形をおススメします。
質問の意図が分かりやすいですし、記者側としてもこちらの回答に対して追加の質問がしやすいからです。質疑の際には媒体名を名乗ってもらいましょう。媒体名を理解した方が質問の回答意図がズレずに済みます。(業界メディアであれば業界用語が通じますが一般の新聞記者には通じないケースなど)
自社オフィスの場合
取材案内状に対して出席の連絡がなかった記者が当日突然来場するケースはあります。通常は問題なく会に参加してもらいますが、新商品の試食などの用意が足らなくなる場合は該当の記者にその旨を伝えて参加してもらいましょう。
ちなみに、個人的にお土産は不要だと考えます。
現場/店頭での場合
現場、お客様の迷惑にならないことを第一優先にします。
フォトセッション(写真撮影)では現場に極力協力してもらいましょう。現場で実際に自社サービスが使われている瞬間、店頭に商品が並ぶ様子、一般消費者が利用/購入する瞬間などの撮影リクエストが入りやすいです。現場側には写真撮影が入る可能性を伝えておき、当日は何度か同じ動きをしていただくよう、臨機応変に交渉しましょう。
一般のお客様へのインタビューのリクエストが入る場合は、記者側にインタビュー対象者に直接許諾をとってもらうようにしましょう。
15.記者発表会実施後対応
会閉会後に、記者から電話・メールで質問が来ることがあります。会で発表した内容の追加の質問、疑問点についてなどです。
記者側は記事を当日、翌日朝の公開に向けて執筆している可能性が高く、急ぎの回答を求められます。
回答はなるべく早く返信しましょう。遅くともその日のうちです。
登壇者や関係者には、閉会後にこうした質問が来る可能性を事前に伝えておき、協力を仰ぎましょう。
16.記事の掲載チェック
記事の掲載は、Webメディアであれば当日夕方~、TV・新聞は翌日朝になるケースが多いです。
週刊/月刊の業界紙などは次の発刊タイミング、経済誌などは数か月後の該当特集のタイミングまで待つことになると思います。
掲載された記事に誤りがないかのチェックをします。固有名詞や数字の間違いは指摘しますが、記事の論調、言い回しなどは指摘の範囲ではありません。
以上の流れを事前に理解していただければ、記者発表会の実施は決して難しいものではありません。ぜひ参考にしてください。