乳飲み子と餓鬼①
「乳飲み子をやめなさい。乳飲み子を演じるのをやめなさい」
「乳飲み子」というのは、言葉も話せず、思う通りに体をうごかしたりができません。
泣いて喚いて自分の要求を満たさなければ生きていけないからです。赤ちゃんは泣くのが仕事。それは成長するためです。
ですが、大人になっても乳飲み子を演じている者もいます。
「お願いします」「困っているから助けてほしい」と素直に伝え、礼を返せるならよい。
そうではなく、感情や欲求を周囲の人間を利用して願望を満たそうとする。
しかし、与えられても与えられても受け取れず、要求を常にだし続け欲求を満たそうとするが潤うことなく、沸き上がる欲望と寂しさ、孤独感が消えることがない。
赤ん坊から大人に成長を遂げていくのと同時に、体も成長すると行動範囲が広がり、経験が増え、自分で自分の欲求や願望を知り、何をするかを考えコントロールをして自身を満たすことができる。
乳飲み子の期間というのは世話は焼けるが長いわけではない。
世話されることに溺れてしまうと乳飲み子をやめられなくなってしまう。
こうなると「乳離れ」は大変な苦痛を伴うが、現実では大人である以上は「乳飲み子」でいることは通用しなくなるのだ。
乳飲み子は、自分に生じた不都合や問題をどうにかして取り除きたい。しかも誰かにやってもらいたい。まるでオムツなのだ。
人間は孤独を感じることもありながらも実は他人様と関わりながら日々暮らしている。
心の距離が近くなくとも、社会で暮らしている以上はすべてのものになにかしらの人が関わっている。空間は違えど同じ時間を過ごし、ときどき他人と時空間を共有する。
乳飲み子を演じる大人は、周囲の人間を使って自分の要求を満たすことをなんとも思わない。なにせ「してもらえるもの」だと認識している。
乳飲み子の世話をして喜ぶのは一般的に保護者だろう。それは、与えることの見返りは我が子の成長だからだ。与えた分だけ子は成長し、乳飲み子を終えていく。親はそれを喜ぶ。
しかし、大人の乳飲み子は相手の時間を吸い尽くすが成長の機会を失っている。周囲から相手の命(時間)を消耗させるが、乳飲み子は満たされない。すぐ腹を空かす。
他人の世話を受けて欲求を満たすという行為は、本来はあってはならないことなのだ。有り得ないことをしてもらうのだから「有り難い」のである。
しかし、この「有り難い」の意味が理解できず。そしてしてもらうことが当たり前だと思っているものだから礼がでない。そして成長もない。
報いのない人間関係は次第に荒々しくなる。そして喚くのだ。「なんで理解してくれないの」と。そしてまた自ら孤立する。
他人様からしてもらったことはあくまでも「借り」であり、本来であれば礼を示さなければならないもの。礼を示さない分は「ツケ」となる。
しかし、その借りやツケであることが理解できていないので、ツケを返す気はまるでなく、無自覚のうちに借金まみれになっている。借金まみれというのが心の貧しさだ。
次第に心の中の蔵は財産も尽き、毛が抜け落ち、飢えてガリガリなのに下腹が出て、欲しい下さい頂戴と求めながらも、手に入れても塵になり、水を飲んでも渇きは消えない。
求めるものが手に入りそうではいらない。
貰えそうでもらえない。
その姿はまさしく餓鬼だ。
次々に不満が湧きまた欲する。それを繰り返す。
なぜ飢え続けるのか、満たされないのか。
なぜなら、自分を満たすことができるのは自分しかいないからだ。
お乳を貰えれば満足しぐっすり眠れる純粋な乳飲み子の時期は遠に過ぎてしまっている。
お乳をやめるとなると怖くて仕方がない。それは「してもらえなくなること」が怖いのだ。
他人が与えてくれたことを自分はやったことがないから「自分はできない人間なんだ」と錯覚し、自分を貶め乳飲み子をやめない。
いつしかそれが「できなければやってくれる」「できなければ見てくれる」に変じ歪みが生じる。
やったことがないけれど「自分でやってみよう」に届かない。
もしくは、歪みが大きくなりすぎてしまい、できないを演じていたらやらなくて済むという味が美味しく、しめたという成功体験になってしまったのかもしれない。
弁天様はやりなさい、といってるのではなく、出来るようになるための努力をしましょうと言っている。経験を積みなさいと。
あなたは出来るのだから乳飲み子を「演じる」のはもうやめなさい、と。
精神疾患は長患いをすると悪習慣が自身の性格にも影響を及ぼす。それは自分で断ち切らなければ抜け出せない。
乳飲み子を演じ続けることの末路は餓鬼道。
六道の輪廻は死後の世界ではない。
今生に起きている輪廻です。
乳飲み子を演じるのはやめなさい。
あなたはもう大人になったのだから。
いつまでもそれは通用しないですよ、と言っているのだ。
狛犬のあしあとマガジン『弁才天』
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