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マミさん
※フィクションです
マミさんにはいつも彼氏がいる。
父さんとマミさんは俺が3歳のときに離婚した。幼かった自分はその事をよく覚えていない。料理人だった父さんは家にいることがほとんどなかった。休日はたくさん遊んでくれて父さんがいることが嬉しかった。
家にはマミさんの友人がよく出入りしていた。マミさんは友だちが多いから、いつも誰かしらが家に来たり遊びに行ったり。みんな俺のことを可愛がってくれた。
男の人も女の人もよく遊びに来ていたし遊びに行ったりしていた。
だんだん父さんに会えなくなって来たことに気づいた。その代わり、自分の家には友だちと言っていた男が居座るようになる。
物心ついたころにそれがマミさんの彼氏なんだと理解した。眠っている幼い俺の側でただならぬ雰囲気を感じ取っては子供ながらに一生懸命気づかないふりをした。
マミさんの旧友たちとBBQをしたときに葉っぱでつくる舟を教えてもらった。
「ヨウちゃん、お船にそんなに石を乗せたら沈んじゃうよ〜」ってお姉さんに言われた。
すこしムッとしながらどうしても同じ船に3つの石を乗せたかった。
「これはヨウとパパとママなの!」
お姉さんはそっと微笑んで「そっか」といいながら小さい花を3つ積んできた。
「お花だったら乗るね」
花を乗せた葉っぱの船は流れて行った。
ほっとした。
俺がマミさんを母親と呼ばなくなったのは中学の頃。最初はママと呼んでいた。
小学校に上がるとなんだか恥ずかしくてお母さんと呼んだ。
お母さんに彼氏ができて、情事を知ってしまってからはなんだか頭が混乱してしまい恥ずかしさを誤魔化しふざけて当てて呼んでいた「マミー」がそのうちマミさんになった。
俺が中学・高校とあがり体も大人になるにつれ、マミさんがいままで付き合ってきた人間関係がわかるようになった。
マミさんは誰かがいないとだめたいだ。その上めっぽう男に弱い。
そしてマミさんを弱らせる男というのが変態だったりする。妙に釣り合わない相手を見つけてはマミさんが浮気だの交友関係だの借金だのギャンブルだのに悩まされる。
マミさんは「母親」としての愛情をかけてくれていたと思う。
いつも外見には気を使っていたから、お洒落で可愛くて美人な「ママ」が好きだった。そのお洒落とスタイルは、つねに新しい彼氏のために維持されていた。
そして、俺が大きくなればマミさんも自然に年を取ることになり、その衰えというものに異常に怯えるようになった。
俺が中学に上がる頃にできた新しい彼氏はマミさんより10歳年下だった。社会に出たばかりくらいの彼氏はマミさんの大人の魅力にどっぷりハマったようだ。なんていうか、母親みたいな包容力だろう。
一人で生活してわかったが、身の回りの世話をしてもらえることは楽。学生気分が抜けないうちはこの楽さが心地が良いのだろう。
働き盛りになった男が社会の経験を積んでいくと、次第にマミさんは焦りだした。男盛りで魅力的になっていく彼氏と反して、自分の老いへの恐怖なのかコンプレックスが強くなる。脅迫的に追い詰められてる姿が時たま目に入った。
そしていつのまにか入籍をした。
俺もある程度男女のなにかなんてわかる。さすがに父さんではない男の何人目かで、母親なのか女なのかがよくわからなくなって、拒絶する強烈な気持ちが芽生えていた。
色ボケの母親が鬱陶しく感じるようになり、俺は高校を中退して家を出ることを決意して働くことにした。
高校に通い続けることに意味を感じられない。高校は卒業しろ、と言われたけれどそんなことをしてる時間よりも自分の居場所がほしかった。大学に行くのも目的も目標もない。
ねっとりまとわりつく「女」のマミさんから離れなくてはならない。
表面上は仲良く明るく振る舞う。だけど、俺はもう母親としてみることかできず、「女」のマミさんはそのうち哀れな「メンヘラ女」になってくのだろうと予感した。
父さんは離婚後も会ってくれたし、定期的に祖父母の家にも遊びに行っていた。父さんは「お前はお前の幸せを考えろ」と言ってくれた。一旦、父親のところに身を寄せて世話になり、働き口を見つけた。
社長には可愛がってもらている。仕事も楽しい。いつか自分の力でやってみたいと思える業界だ。
マミさんはよく言っていた。
「あたしはモテる男が好き」
そういいながら、浮気されて泣いたり金銭トラブルに巻きこまれたり、人間関係なんかめちゃくちゃだ。仕事も安定していない。にもかかわらずいつも誰か男がいる。
表面上は社交的で明るくて若くて美しい。
その影でドロドロした悲しみとか焦りとかコンプレックス、不安を異常に抱えてる。
父さんと酒を飲みながら「マミさん」の話をした。父さんからきくマミさんの話は俺の母親の「マミさん」だった。そして父さんはやはり俺の父さんだ。
俺から父さんに話すマミさんの話について返ってきた返事は「相変わらずだらしがないな。昔からそうゆうところがある」だった。
自分が抱いていた嫌悪感にピタッとはまった共感がなにかを溶かしてくれた。