「アシタカ倍増計画」 次なるステップへ
2019年から4年連続4回目の「野外活動指導者セミナーin屋久島(キャンプインストラクター養成講習)」が2022年6月12日に無事に終了した。今回もタッグを組んだのは、”屋久島を環境教育の島へ”を実現すべく活動している、屋久島出身のやっくん。
今回のセミナーのキーワードを挙げるとすると…
”つながり”、”自然(じねん)”、”センス・オブ・ワンダー”、”五感”、"対話"、”違いこそギフト"、分かち合い、”生き様(あり方)”、"焚人"、”ジェネレーター”etc.
「アシタカ倍増計画」のはじまりの話
2019年に(公社)日本キャンプ協会の課程認定団体として、島結が、キャンプインストラクターの資格を発行できるようになって、すぐに声を掛けてくれたのが、やっくんだった。
このセミナーを島結で一から企画して、指導者自分一人ですべて教える。しかも、講義する場所も確保して、広報・集客もする。
ガイド業もする傍ら、もう考えただけで、ムリ!って当時は思っていた。
参加料と経費を天秤にかけても利益どころか自分の人件費すら出ない…。それでもやる意味のあんのかなと?(だいぶ自暴自棄)
そんなところにやっくんからオファーをもらって、彼が勤める屋久島環境文化財団研修センターと共催で初めてこのセミナーを開催したのが、2019年12月だった。
やっくんがNEALリーダーを、
自分がキャンプインストラクターを
2つの資格が同時に取得できる、しかも屋久島で!
広報としては、十分に魅力的なセミナー企画となった。
一方で、自分の中では、このセミナーに臨む上で、ある問いがあった。それは、”ガイド”ではない立ち位置で(野外活動指導者として、ひとりの人としてetc.)、屋久島での”ガイド”の経験を活かして、いかに学びの場を創るか?ということだった。
「問い」と「描きたい未来」を自分の中に据える
2022年に入ってから、旅や場づくりをする際に、心掛けていることがある。それは、その旅や場づくりについての「問い」と「描きたい未来」を自分の中に据えるということ。
「問い」・・・なぜ僕は、このプロジェクトに取り組むのか?
「描きたい未来」・・・このプロジェクトを終えて、どんな未来を仲間とともに分かち合いたいのか?
旅や場づくりをする時、そこには何かしらの意図や狙い、目的があるはずである。その旅や場に関わる人、今回のセミナーであれば、受講生も含めて、僕がどんな問いを抱え、どんな未来を描きたいのかを言語化した(しようとした)上で、ともに場に入りたいと思っている。
それは決して僕の「問い」を、「描きたい未来」を誰かに強制するというものではない。むしろ、逆で、受講生それぞれにおいても「問い」を持ってきてもらいたいし、「描きたい未来」を抱いてきてもらいたい(今はまだなければ、この場で見つけてもらってもいい)。受講生それぞれが「問い」と「描きたい未来」を自分の中に据える、そして表現することで、この場が"自由"で"寛容"な場になっていくだろうと思っている。
今回のセミナーにおける僕の問いは、すで書いた通りで”ガイド”ではない立ち位置で(野外活動指導者として、ひとりの人としてetc.)、屋久島での”ガイド”の経験を活かして、いかに学びの場を創るか?
”今回の”と書いたが、この「問い」に関しては、この2019年に始めた当初から変わっていない。過去3回のセミナーでも、それぞれにこの「問い」につながる何かを得られた気がするが、僕の中での「描きたい未来」の想像が足りず、この「問い」へとつながる明確な何か(手ごたえのようなもの)には至らなかった。少なくとも第4回を終えるまではそう思っていた。
では、「描きたい未来」はどうなのか?
まずは、僕の「描きたい未来」から紹介すると…
そして、ともに場を創ったやっくんの「描きたい未来」は…
僕(ささっちょ)とやっくんのセミナー告知文章。やっくんもこのセミナーに向けて、自分自身が「描きたい未来」を据えている。そして、やっくんもまた自分自身への「問い」を抱えているのだと思う。
「探求/探究」していくという共通点
この文章を書くにあたってあらためて気付いたのが、ともに「探究/探求」という言葉でこの場を表現していること。
僕ら講師は、このセミナーで正解を教えるとか、こうすべきだというHow toを教えるといった、教える側と教わる側という能動と受動の関係ではなく、ともに「探求/探究」していくというスタンスを表現しているということ。
記憶の限りでは、こういうスタンスでともに臨もう!と話をした覚えはない。第1回から3回の開催を重ねる中で、自ずとそうなっていったのだと思う。
このスタンスの共通性こそが、僕らが4回に渡ってこのセミナーを続けてこられた理由なのだろうなと今は思う。もちろん、ともに屋久島が好きであるということは言うまでもない。
ターニングポイントになった初日の最終講義
初日の最終講義は、これまで映画「もののけ姫」に見る、人と自然の関係性について講義をしていた。屋久島らしい題材であるし、多くの人が見たことのある映画で、誰もが入りやすいテーマであると思い、第3回まで続けてきた。この講義から「アシタカ塾」「アシタカ倍増計画」という言葉が生まれた!笑
しかし、今回の第4回は、参加者リストを見ると、教育関係の仕事に携わっていたり、教育に関わるメンバーが多かった。「野外活動・キャンプ×環境教育」を深ぼることがメンバーにとってより深い学びになるのではないか?
僕の中では、そんな直感が働いていた。
実は、「環境教育」にこだわるもう一つの理由が僕の中にはあった。
それは、これまで3回のセミナーでは、野外活動指導者を養成する立場にいながら、今の時代に求められる「サステナブル」や「持続可能性」、「SDGs」といった概念としっかり向き合えていない自分がいた。そして、その部分は、場をともにつくったやっくんに頼っていた部分が大きかったのだ。この自分の課題と向き合うためにも、「環境教育」をテーマに据えた時間をしっかりと取る必要があるように感じていた。
自分の言葉で”サステナブル”を伝えられない
話は遡るが、2021年の11月から1月の3か月にかけて、薩摩リーダーシップフォーラム SELFのラーニングコミュニティのひとつである『SSK( Sustainability speakers Kagoshima)第2期』に僕は参加していた。
屋久島でネイチャーガイドとして活動しながらも正直、自分の言葉で「環境問題」や「サステナブル」を伝えられない…そんな想いがずっとどこかにあった。「環境問題」や「環境教育」については、屋久島に来て、やっくんからの影響が大きかった。ただ、そろそろ外へ武者修行に出ねばという気持ちでこの学びのコミュニティに参加した。
環境”ハカセ”こと大岩根尚さんが場を開いてくれていて、彼のサスティナブルスピーチを元に、参加者それぞれが自分の得意分野でサスティナブルスピーチをしてみるという場だった。正直、僕は、この3か月間ではアウトプットし切れなかった。参加者それぞれのサスティナブルを知り、感じて、自分の中で内省する時間がもう少し必要だった。そして、このアウトプットの実践の場は、今回の「野外活動指導者セミナーin屋久島」に訪れるだろうと予感していた。
環境教育実践者・やっくんインタビュー
そして、講習当日の午前中。
やっくんと最終打合せで、僕のこの直感について話をした。
「アシタカ講義止めちゃうんですか?」と少々寂しそうだったが、インタビューのアイデアを伝えると「それいいですね!」
「ささっちょから質問してもらって、答えればいいんですね。やりましょう。」ほぼ即答即決だった笑
インタビューのみだと一方的になってしまうので、「環境教育との出会い」や「今、実践している環境教育」などについて基本的な質問をした後は、受講生にも会話に加わってもらい、質問をぶつけてもらったりした。
自分でインタビューしながら、あれ!?この感覚どこかで味わったことがあるな?と思ったら、自然とともに生きる大人の話を聞きに行く『環境系学生未来塾』(やっくんの環境教育の実践のひとつ)の1コマみたいだと気付いた。
『未来塾』同様に、受講生にとっては、アシタカのような価値観を持ち、屋久島で環境教育を実践するやっくんの人生ヒストリーは、受講生それぞれにとって大いに得るものがあったと思う。
インタビューの中で、レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」の話が出てきた。やっくんの好きな言葉。”「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない。”この話は、受講生も共感しているメンバーが多いなとその場をファシリテートしながら感じていた。
「センス・オブ・ワンダー」と「五感」のインスピレーション
そして、僕がこのインタビューをしたことで、自分へも刺激となり、セミナー3日目の演習「環境教育プログラム体験:ヤクスギランド」で受講生とどんな時間を創り上げていくのか?という、着想へと繋がっていった。
”「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない。"
感じることだけでは足りないと思っていて、感じたこと(体験)を自分の言葉で表現してみること(対話)が、感じたこと(体験)をより自分の中で深めていく上で大切だなと思っている。
自分の感覚器を使って、外部環境からの刺激をinputする。
そして、自分の言葉を使って、外部環境からの刺激をoutputする。
頭で考えすぎると、どうしても社会の常識や固定観念や思い込みやあたりまえと思っていることが足枷となり、自分の感覚器が使えていなかったり、この場に合わせた言葉や借りてきた言葉になってしまう。
自分の感覚器を使って、inputする。自分の言葉を使って、outputする。そして、その場にそれぞれが言葉を置くこと。きっとこの循環こそが、ありのままの自分を受け入れ、他者をも受け入れていくことにつながっていくのだと思う。
2日目の午前中は、座学が続いた。
理論編「キャンプの対象」という項目の中に「人間の心身の理解」という講義がある。この中では、人間の環境変化への生体適応として、感覚器官と五感の話が出てくる。
講義で五感について触れながら、1日目の夜の「センス・オブ・ワンダー」の話とこの「五感」の話がピタッと結びつく瞬間があった。
「ヤクスギランドの森を五感で感じてもらう時間にしよう。」そう心の中で呟いていた。森の中で、自分で感じたことを、自分の言葉にして、場に置く。そんな場をファシリテートしてみたいと思ったのだ。
もうイメージは出来上がっていた。
3日目の朝。雨が屋根を打つ音で目が覚める。
激しい雨が降り続き、「大雨警報」が発令された。
大雨でヤクスギランドの森へ行けないかもしれない…。
ところが、昼前になって、奇跡的に、雨は小康状態となり、「大雨警報」も解除された。受講生のみんなにヤクスギランドの森へ行けることを伝えるとみんなの表情から笑みがこぼれた。
ヤクスギランドの森での出来事を一言で表現するなら…
”五感で感じる森林浴と対話の時間”
ヤクスギランドの森での詳しいエピソードは、長くなるので、また別の記事でお伝えしたいと思う。
※早速、記事にしたので、こちらもどうぞ!
僕がこのセミナーで得た3つのギフト
ヤクスギランドの森での時間も含めて3泊4日のセミナーの中で、受講生のみんなと時間をともにすることで、僕は3つのギフトを頂いた。
一つ目は、2019年から抱えていた自分への「問い」へのひとつの帰結だ。どうやら自分もまたガイドという固定観念や思い込みが足枷となり、自分の感覚で、自分の言葉で表現できていなかったようだ。屋久島で暮らして11年。この島で生きていくうえで僕が大事にしたいことは何なのか?
それは自分の五感で感じて、自分の言葉で表現すること。そして、それぞれに湧いてきた言葉を分かち合うことだと気付いた。
二つ目は、2021年11月から3か月に渡り、サステナブルについて学んだSSK( Sustainability speakers Kagoshima)の自分なりのアウトプットがようやくできたこと。自分の「舞台」は、やっぱり自然の中であり、森の中なんだと気付いた。そこでこそ、自分の表現はエネルギーを帯びるのだと。
屋久島で僕が、サステナブルを表現するならば、それは、自分自身の持続可能性を屋久島の自然を通して感じてもらうこと。いわゆる、インナー・サステナビリティへの架け橋として、屋久島の自然を案内することが、僕のSSKなんだと。
三つ目は、屋久島での”森林浴と対話”の可能性を探求する実践となったこと。5月に小野なぎささんの元「森林浴ファシリテーター養成講座」を受講し、その学びが活かせたのではないか?今、そんな感触が僕の心の中にある。この実践は、さらに積み重ね、深めていきたい。
そんな風に思える時間だった。
この3つのギフトを手に、さらなる「描きたい未来」の創造に向けて、集う仲間とともにこれからもジェネレート(内側に入って、ともに活動すること)していきたい。
「アシタカ倍増計画」の未来はきっと明るい。
今回、セミナーに参加してくれた、ベニマル、るうちゃん、こんちゃん、ゴア、よっちゃん、亀ちゃん、ともにこの場をつくりあげてくれてありがとう。そして、やっくん、チャド、かんちゃん、いつもありがとう。
それでは、次回はヤクスギランドの森で会いましょう。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
***セミナーin屋久島2022・フォトギャラリー***