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日本科学未来館 #マンモス展 で見えるのは過去か、それとも未来か?

6月7日から東京・お台場にある日本科学未来館で「マンモス展」が始まりました。

開幕前日のプレス向け内覧会に行ってきたので、展示の様子や、解説パネルにはない監修者のコメント、そして「本当の見どころ」などを紹介します。

Tales of Mammoth 1 マンモス、太古の記憶

最初にお出迎えするのは、1977年に発見された仔ケナガマンモスの完全体「ディーマ」。これは冷凍標本ではなくて常温でも大丈夫な標本で、38年ぶりの来日とのこと。

なんというか、質感がすごいです。

足先の毛。ここだけ見たら今にも動き出しそう。

通路を抜けて見えてくるのはケナガマンモスの全身骨格。

解説いただいたのは野尻湖ナウマンゾウ博物館の近藤洋一館長。

比較するとその大きさがわかっていただけるでしょうか。

マンモスの特徴といえば、ゾウ以上に目立つ巨大な牙。土を掘って食料を得たり、メスを巡ってオス同士が争うために巨大化したと考えられています。

マニアックな視点で見ると、今のゾウよりも顔が少し平べったくて、上のほうに出っ張っています。これは、重い牙を支えるための工夫で、「前頭頭頂隆起」という特徴です。

毛は触ることができます。銅線みたいで硬いです。

マンモスは約4000年前に絶滅したとされています。絶滅した説はいろいろあるようなので、それはぜひ会場で確かめてください。

この空間では、マンモスと同じ時代、同じ場所に住んでいた生き物の化石なども見ることができます。

この生き物たちは「マンモス動物群」と呼ばれています。こういう言葉遣いからも、いかにマンモスが中心的存在かわかります。

Tales of Mammoth 2 永久凍土で待つもの

ここが世界初公開の冷凍標本が多い見どころ。まずは去年発見された、3万1150年前のケナガマンモスの皮膚の冷凍標本。

この皮膚は後ろ脚の付け根からお尻にかけてのもの。明るいところが本来の色で、ミイラ化すると灰色になっていきます。大きさは、この写真でいう横幅が2メートルくらい。これくらいの大きいものはそう滅多に出ないとのこと。

「この皮膚の構造にも寒さに耐えるヒントがあるかもしれない」と話す近藤館長。ゾウは暑さに耐える皮膚の構造をしているので、それと比較することで新しい発見がありそう。

そして、こちらも去年発見された、4万1000〜4万2000年前の仔ウマ冷凍標本。ここまで完全な形で発見されるのは初めてで、表面に付いている毛や植物を調べるために、泥をまだ取り切っていません。

近藤館長いわく、こちらのほうが素晴らしいとのこと。尻尾の毛や脚の毛までしっかり残っています。

ちなみに名前は「フジ」。調査に同行したフジテレビから取っています。命名については、大人の個体は発見した地名、子どもの個体は発見した人やグループにちなんだ名前を付ける風習があるとのこと。

説明してくださった、サハ共和国マンモスミュージアムのセミヨン・グレゴリエフ館長。この冷凍標本からは、液体の血や尿まで見つかっていて、この仔ウマの体の中の環境まで詳しくわかることに期待できます。DNAも調べることができれば、ウマの進化や家畜化についても手がかりが得られるかもしれない、とのこと。

本当は次のステージにあるのですが、マンモスの鼻の冷凍標本もあります。これも世界初公開。

2013年発見。これは3分割したうちの一つで、奥が鼻の先端。鼻の先端がハート型になっていることが、この標本から初めてわかったとのこと。ここを指のように使ってものを掴んでいたのではないか、と考えられています。

細胞を取り出してはみたものの、まだ培養には成功してないとグレゴリエフ館長が話していました。

他にも冷凍標本としてユカギルバイソン、ライチョウ、仔イヌがあります。

ライチョウ。

さて、ここまでが、いわば「過去」の紹介。ここから、「現在」のマンモス解析技術の紹介、そして「マンモスが復活するかもしれない未来」に向かいます。

Tales of Mammoth 3 その「生命」は蘇るのか

最終ステージでお出迎えするのは、今までとは毛色が違うイラスト。

ここでは近畿大学の取り組みを中心に、マンモス復活を目標に掲げる研究「マンモス復活プロジェクト」を紹介します。

今年の3月、マンモスの細胞から取り出した核(DNAが入っているところ)をマウスの卵子の中に入れたら、細胞分裂しようとする動きを見せたという報告がありました。

DNAレベルではマンモスはまだ生きていると言えるかもしれない。マンモスを現代に蘇らせることができるかもしれない。この可能性にたどり着くまで、実に20年以上。その様子を、クセのある漫画を読みながら見てみましょう、というものです。

……いろいろ混ざっているので、ツッコミを入れながら読むといいです。所々に、解析に使われた機器が置いてあります。例えば、マンモスDNAを調べる機器「次世代シーケンサー」。

ここでMiniSeq by イルミナ!

バイオイメージング by ニコン!

核を注入するマイクロマニピュレーター by ナリシゲ!

このように、細胞レベルで生命現象を調べる学問は、生物学の中でも「生命科学」と呼ばれています

そして物語はさらなる未来へ。

マンモス復活プロジェクト「2」では、マンモスの核とミトコンドリアを移植した細胞からiPS細胞経由で精子と卵子を作る構想、ゾウDNAを元にマンモスDNAを人工的に作る合成生物学といった方法が紹介されています。

未来には存在するかもしれない、復活したマンモスの模型の下で解説してくださった近畿大学の研究チーム。左から近畿大学生物理工学部の松本和也教授、三谷匡教授、先端技術総合研究所の加藤博己教授。マンモスの足元には、管理用のタグのようなものが付いています。

3人は次のように、マンモス展で興味をもった子どもたちへのメッセージを打ち出していました。

「自分を知ること、それを誰かに伝えることに魅力を感じる人は、生命科学の世界に入ってほしい」

「最新の冷凍保存と生命科学の技術で、生命の不思議にどこまで迫られるか、ワクワクしながらチャレンジする人は科学の世界に入ってほしい」

「研究は簡単に終わらないので、先を見据えながらやるもの」

過去のマンモス × 現在の生命科学技術 = 未来の生命観

マンモスに限らず、恐竜でもニホンオオカミでも「絶滅した生物を見てみたい」と思う人は多いでしょう。

しかしマンモスに限っては、永久凍土という他にない保存環境のおかげで、細胞がかなり新鮮な状態のままになっています。化石がほとんどの恐竜とは、ここが大きく違います。

ということは、現代の細胞を扱う技術を使って、他の生物の細胞と同じように培養できれば、細胞レベルでいろいろなことがわかるようになります。その情報を元に、最終的にはマンモスを復活させることも夢物語では無くなるのかもしれません。

生命科学の進歩は著しいものがあります。これはマンモスに限ったことではありません。

今や、一人一人違う腸内細菌の種類を丸ごと調べることもできる時代です。

マンモスだけ見るとロマンがあるように感じますが、復活プロジェクトの先にあるのは、「生命とは何か、生きているとはどういうことか」という生命観です。

過去のマンモスを、現在の生命科学の技術を使って知ることは、マンモスを含めた未来の生命観を作り出すことかもしれないのです。

展示構成を監修した作家・クリエイターのいとうせいこうさんは、「マンモスには、過去と未来が入り混じっている。マンモスだけでなく、生命をどう扱うのか、倫理的、科学的、哲学的な問題を含んでいる。『マンモス展』ではなく『我々展』と言っていいくらい、自分たちと関係がある」と話していていました。

マンモスを復活できそう——でも、本当に復活させる?

途方もない目標をあえて掲げることで技術革新を促そうというやり方は、よくあることです。「人類を月に送る」は、その典型例です。

「マンモス復活プロジェクト」も、古代生物のゲノム解析や細胞操作の技術革新に大きく貢献しています。もしかしたら、医療の革新や食糧問題、環境問題の解決につながるきっかけも得られる可能性だってあります。それは喜ばしいことです。

ただ、「いよいよマンモスを復活できそうだ」となったときに「本当に復活させる?」はまた別問題です。

普通の生命は親からの情報を受け継いで生まれます。ところがマンモスは、数千年の時を経て突然復活することになります。連続的に命をつなぐのが当然の中で、マンモスの復活は非連続的な命の誕生です。クローン羊のドリーとは時間差がまったく違います。

マンモスが現在の地球上の生命にどう影響を与えるのか、また影響を受けるのか。
影響を避けるためだからといって、隔離した空間で飼育することに意味があるのか。
マンモスを復活させるなら、マンモスに適した環境も復活させる必要があるのか。
数千年前に絶滅した生命を蘇らせることができるなら、「絶滅」という現象すらなくなるのか。

このあたりの疑問も、マンモス展では投げかけています。もしかしたら、過去のマンモスから未来を考えることこそが、マンモス展の本当の見どころ(考えどころ?)かもしれません。

どう考えたらいいかのヒントも展示してあるので、ぜひ会場で探してください。

最後は、2005年の愛・地球博で有名になったユカギルマンモスの冷凍標本でさようならです。

展示会場を出たら、もう一度パンフレットやポスターでマンモスを見てみましょう。

その風景は過去ですか? それとも未来ですか?


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