やさしさの睡眠薬で幸せに眠れた早朝4時。
失恋した。
突然のことだった。
仲良くやっていたし、相手に不満も不安もなかった。
それなのに、たった一瞬で積み上げてきた関係は崩れ去った。
どうしようもないことだった。
わたしにはどうしてあげようもない。
相手の気持ちの問題だから、わたしが変えてあげることもできない。
いや、そうやって自分を慰めていたのかもしれない。
そうでもしないと、立つことさえできなかったのかもしれない。
◆◆◆
「失恋パーティ」と称して、友達が飲みに誘ってくれた。
「酒で冷やしてあげるよ!!」
そう言われ飲み始めた18時半。
食べ物に目がないわたしの箸が進まないことに気付いたのか、しきりに「これおいしいよ」とすすめてくる。
彼女が連れてきてくれたのは、予約がなかなか取れない人気店だったらしい。
こじんまりとしたお店。
価格の書かれていないメニュー表。
こんな世の中にもかかわらず、店内は満席だった。
たしかに料理はどれもとてもおいしい。
たわいもない話で笑わせてくれた後、しばらくして何があって別れることになったのか、彼女は明るく聞いてくれた。
わたしの話をうんうんと聞いてくれ、ところどころで相槌を入れてくれる。
相手のことも、わたしのことも一切否定しない。
「もういいの、いつかご縁があったらまた出会えると思うし!」
そう言ったわたしに、「そうだね」とだけ彼女は言った。
◆◆◆
2件目、3件目と梯子酒をし、だいぶアルコールのまわった深夜2時。
「さくらは頑張りすぎなんよ、あんたの頑張ってるの見てるとしんどくて涙が出てくる。」
そう言って突然彼女が泣き出した。
「もっと力抜いていいし、もっと甘えていいんだよ?いつも大人な考えでエラいなって思ってたけど、本当はすごくすごく我慢してるよね?わたしにも言えない?甘えられない?もっと頼って。いつだってわたしはさくらの味方でしょ?誰が離れてもわたしはさくらから離れないから。あんたを知るには時間がかかる、わたしはちゃんとわかってるから。」
彼女とは5年の付き合いだった。
出会いのきっかけは、お互いの共通の友達を介してだった。
意気投合し、海外旅行にも二人で行く仲になっていた。
その5年の間に彼女は、何度も私の失恋も失敗も見てきている。
そのたびに、「さくらなら大丈夫、もっといいことあるよ」と笑顔で受け止めてくれていた。
そんな彼女が今日は泣いている。
彼女が泣いているのを初めてくらいに見たかもしれない。
彼女の涙でわたしはやっと気づくことができた。
わたしは一人じゃない。
わたしは愛されている。
その日わたしも初めてくらいに彼女の前で大泣きした。
ずっと自分を肯定できずにいた。
今回の失恋だって、わたしが彼に選ばれるような女性じゃなかったからだと、心の奥底ではそう思っていた。
自分のことが大嫌いで、なんでも自分に価値がないからだと思ってきた。
でも彼女は違う。
こんなわたしをありのまま受け入れてくれる。
わたしが嫌いなわたしを、好きでいてくれる。
心優しい彼女に好かれるわたし。
そんなわたしなら、わたし自身も好きになれそうな気がした。
◆◆◆
深夜3時半。
人妻の彼女は目を腫らして帰っていった。
家庭があるのに、わたしのために目を腫らし、こんな夜中まで付き合ってくれる親友を持てたこと。
わたしの人生にこれ以上の幸せがあるだろうか。
失恋に心沈んでいる場合ではない。
わたしはこれから彼女に、どれだけのことを返していけるだろう。
彼女のやさしさにふれながら、人生の中でいちばんあたたかい気持ちで眠りにつけた早朝4時。
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