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藤坂環
2024年2月22日 12:57
こんな、夢を見た。 夏目漱石のパクりとか言って怒らないで下さい。 見たんだからしょうがないんだもん。でもごめんなさい。 長い間つきあっていた恋人との結婚がようやく実現に至った。 つきあい初めの頃の情熱は少しずつ薄れていき、何度も起こった諍いにも疲れ始めていた、そんな頃だったけれど、それでもプロポーズは、それまでの辛さがすべて消えてしまうほど嬉しかった。 父に報告をした。 低く唸っ
2022年1月28日 11:45
受け月に願いをかけると叶うと聞いたのはどこで誰からだったか。 誰にも言えない願いを、掬い零さず受け止めてくれる月だという。 上弦の月の中でも、皿のように薄く真っ直ぐに冴えた月が、受け月と呼ばれるのだという。しかしこの月が、夜空に姿を見せるのは、一年の中でも実はそれほど多くはないらしい。 偶々夜空に浮かぶ日に、雨も降らず雲もかからなければ見えるその月に、願いをかける。 そのとき誰かに見ら
2022年1月26日 15:24
その夜、女はどばどばと涙と鼻水を流しながら、男と言い争っていた。 男にとっては「理屈に合わない要求」が、女にとっては「耐えがたい苦痛」が、積み重なった末の、最後の一つが引金となった結果だった。 暮らし始めて間もなく、男は女に、薬と毒の話をしたことがあった。「薬と毒は、別種の何かではない。ある物質が人の身体に入ったとき、プラスに作用すれば薬、マイナスに作用すれば毒と呼ばれる。プラスになる
2022年1月22日 19:38
休日を共に過ごしたその日暮れ、男と女は、適当に目についた、小綺麗な居酒屋に入ることにした。 男は、テーブル席を希望した。 そこまで混んでいなかったのか、個室の四人席に通された。 二人は腰を下ろし、昼間歩いて疲れた足を休めた。「酒はどのくらい飲めるの? ビールは飲める?」と男が女に訊いた。「そんなに強くはないけど、全然飲めないわけじゃないですよ」 大学入学以降、あちこちで訊かれ続け、
2022年1月21日 17:35
上「それじゃ、行ってくる」 早朝の駅のホームで、男は女の頬にキスを一つ残し、東京行きに乗り込んだ。 女は右手を軽く振りながら、軽い微笑でそれを見送った。 若い頃、様々な職を渡り歩き、一時華やかな業種にも身を置いたことのある男は、さほど美形でもなければ若くもないけれど、不思議とどこかあでやかな男だった。 この男でなければ、こんな人目を引くような気障な真似はさせないのに。 女は、列車
2022年1月19日 22:51
『オペラ座の怪人』二次創作です。 オペラ座の怪人のラストで、初回はボロ泣き、何度見ても辛さが減らず、可哀相で可哀相で、個人的にパラレルを作ってしまいました。 こういうことをするのは、初めてのことです。拙い文章ですが、折角書いたので、この際、載せといてみようかと思います。 あの舞台のラストは、美しい終わり方だったと思っています。 あの物語の終わらせ方は、あれしかない、とすら思っています。