新作落語『かどわかし』#2020のゆくえ
いつの世にもきな臭い事件は起こるものでございます。昔も今も変わりません。時は江戸の終わりごろ。町の真ん中を流れる清流の水くみ場にて。
かみさんたちの会話。
おたま:ねえ、聞いた。
おみい:何の話だい。
おたま:どうやら最近、かどわかしが起こっているようなんだよ。
おみい:かどわかし!恐ろしいね。
おたま:そうなんだよ。小さい子が狙われているらしいんだ。
おみい:そりゃあ、物騒だね。いったい、どういうことだい。
おたま:諏訪神社や長福寺があるだろう。
おみい:うん。
おたま:あそこの境内から消えたっていうんだよ。
おみい:なんてこったい。そりゃホントの神隠しじゃないかい。
おたま:そうなんだよ。あの辺りは小さい子がよく遊んでるだろ。それが最近は姿が減っているいうんだよ。
おみい:そういえば、近頃はあのあたり前よりも静かだね。
おたま:うわさを聞いてさっき諏訪神社と長福寺へ寄ってきたんだけどさ、チビどもが少ないんだよ。今までならこんなにお天気がいい日は、走り回ったり寝そべったりしてるのにさ。
おみい:そりゃ、いよいよウワサはほんとだ。
おたま:お互いにチビどもに気をつけるんだよ。他のみんなにも言っといておくれ。
おみい:あいよ。おちおちしちゃあいられないね。
大店の材木問屋「木曽屋」、裏口にて。
ご隠居:おお、熊さんかい。
大工の熊:ご隠居さん、いつもごひいきにありがとうございます。
ご隠居:さあさ、庭の中へ回っておくれ。
大工の熊:へえ。ご隠居さん、今回はどんな普請でしょうか。
ご隠居:今回は簡単なんだよ。庭にね、縁台を5つばかしこしらえてもらえないか。
大工の熊:へえ、がってんでさあ。縁台ですね。
ご隠居:ちょいと日向ぼっこをしたくなってね。頼んだよ。
大工の熊:へえ、まかしておくんなさい。
後日、清流の水くみ場にて、かみさんたちの会話。
おたま:かどわかしの犯人が見つかったってさ。
おみい:そうかい。で、誰だったんだい。
おたま:材木屋「木曽家」のご隠居さんだって。
おみい:えっ、あの優しいご隠居さんが。なんでまた。
おたま:それがさ、あのご隠居さんアレルギーがあっただだろ。
おみい:うん、よくくしゃみをして鼻をグズグズしてたもんね。
おたま:ご隠居さん、アレルギーを治そうと舶来品の「にいまるにいまる」を飲み始めたんだって。
おみい:べらぼうに高いってウワサの新薬だね。
おたま:そう、それがよく効いたらしいんだよ。アレルギーがすっかり治って大喜びさ。
おみい:そうかい、そりゃあよかった。
おたま:それで、ご隠居さん猫アレルギーが治ったもんだから、「これからは好きなだけ猫を飼う」って言ってるらしい。神社やお寺でのんびりしている子猫を見ると家に連れ帰ってるんだって。
おみい:伊勢家さんなら屋敷は広いし、食べ物もたんともらえそうだ。ノラも大喜びだろうよ。
おたま:さっき、伊勢家さんのようすを見てきたんだよ。
おみい:どうだった?
おたま:丸々太った猫が5匹、日当たりのいい縁台で居眠りしてたよ。
おみい:そりゃあ何よりだ。
おたま:ついでにご隠居さんが煮干しをくれたよ。いつでも遊びにおいでだってさ。
おみい:じゃあ、私もあとでのぞいてこようかな。
おたま:ああ、生垣の下ににちょうどいいスキマがあるからそっから入れるよ。
おみい:にゃあ。
今日も田舎町の猫は元気でしたとさ。おあとがよろしいようで。
本日はさや香さんの「第2回 新作落語 de 心灯杯☆ 『2020のゆくえ』」企画への参加記事です。楽しい企画ありがとうございました。