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リーダーシップは共感に根ざす

感情知能の四つの領域の最後の領域である人脈管理は、影響力 (Influence)コーチとメンター (Coach and mentor)対立管理 (Conflict management)チームワーク (Teamwork)、リーダーシップ (Inspirational leadership) の五つの特性から成り立ちます。今回はいよいよリーダーシップに関して TED の動画などを参照しながら理解を深めたいと思います。動画を見る際には日本語の字幕を活用してください。

感情知能の四つの領域と14の特性

リーダーシップの仕事にはいろいろな側面がありますが、感情知能の側面からは、組織文化を構築することだといえます。組織文化は、組織における人々の行動様式に影響を与え、やる気を引き出したり、もしくは、やる気を失わせたりもします。従業員を導く価値観が含まれているため、組織内に浸透することで、たとえ不測の事態が発生しても、目的と明確な期待によって従業員を突き動かし、ゴールを達成する効果があります。


集団的創造力を引き出す

この動画では、成功する組織は、一人の天才のひらめきによって支えられるのではなく、多くの人々が関与する集団的な創造力によって成り立つと説いています。そして集団的創造力を発揮するために、組織に必要な三つの能力を提案しています。

創造的摩擦 (Creative abrasion)

創造的摩擦とは、多様なアイデアを建設的に議論し合う組織の能力のことです。意見の対立と聞くと不快な議論を想像する人もいるかもしれませんが、心理的安全性の高い組織であれば、むしろ議論の重要性を理解し、自分の意見に対する他者からの挑戦に積極的に耳を傾けることができます。

良いアイデアを育むためには、多様性意見の対立が必要です。同じ意見を出し合うのみの組織や他人の視線を気にしすぎて意見を出し合えない組織では、衰退は目に見えています。リモートワークにも似たようなリスクがある点は以前お話しした通りです。

創造的俊敏さ (Creative agility)

創造的俊敏さとは、迅速な探求、反省、調整を通じて、アイデアを検証し、洗練させる能力のことです。アイデアが実際に上手くいくかどうかは実験してみなければわかりません。これは反復的で失敗の連続であり、発見的学習を積み重ねることで、アイデアをより良く育てるプロセスとして機能します。アイデアに酔いしれて視野が狭くなると、成功するアイデアに発展させることができなくなります。このプロセスではむしろ、矛盾する仮説から背理法的アプローチで失敗してみて、どれだけお客さんを理解できたかが重要になります。失敗を認識できない実験では、学びが浅くお客さんを理解できていない可能性があります。成長思考を大切にし、チームのアウトプットを最大化することを心がけます。

創造的決断力 (Creative resolution)

創造的決断力とは、皆の意見を吸収して総合的な意思決定を行う能力のことです。一方が「勝ち」、他方が「負け」と感じさせないように意思決定を行わなければ、組織は分断されるリスクがあります。

リーダーシップとは、このような組織の能力を実現する組織文化の構築であり、リーダーが自ら行動を起こすことで模範を示し、従業員の行動を促し、そして組織の力を引き出すことにあります。行動こそがリーダーシップの最大の武器ですが、一方で、一朝一夕に実現するものではありません。

組織を動かす共感できる理由

注意: この記事では Purpose を「共感できる理由」と訳しています。動画の自動翻訳では「目的」と訳されていますが、日本語の「目的」は、ゴールに近いニュアンスを強く連想させるので、その違いを強調させてください。

この動画では、共感できる理由 (Purpose) が人々を自律的に突き動かし、仕事においても、生活においても、目標を達成するための原動力になると説いています。リーダーシップには行動が必要であることを述べましたが、共感できる理由はリーダーの行動の責任を説明する役割を持つと同時に、従業員の行動の責任も説明します。

共感できる理由 (Purpose) はビジネスの世界でも比較的新しいトピックです。ここではいくつか有名なものを取り上げることで、そのイメージを膨らませてもらえればと思います。

ファッション産業は地球環境負荷が非常に大きい産業と指摘されていますが、パタゴニアでは、より高い品質と耐久性を追求し、損傷した製品は買い直しよりも修理することで再利用することを勧めています。このような組織が掲げる共感できる理由は、企業文化や従業員に求められる行動の重要な指針となります。企業のミッションやビジョンは、企業が提供するハードスキルに根ざしている場合が多いと思いますが、共感できる理由は企業が大切にするソフトスキルに根ざすことで、従業員のみならず顧客からの共感も誘い、従業員同士を結び付ける行動の価値と責任を共有します。文字通り、従業員が組織で働きたい理由となり、モチベーションとなります。

これからはソフトスキルの時代

ソフトスキルは、ハードスキルの強化にも活用にも重要です。ハードスキルの構築には、医学、建築、コンピュータサイエンスなど、各分野の専門知識に対する知能レベルを向上させる必要があります。しかし、インターネットの登場により、人類の知識は専門分野を超えて広く自由にアクセスできるようになりました。一方で、今や誰もが同じ知識にアクセスできるのに、必ずしもすべての人が成功するとは限らないのはなぜでしょうか?大規模言語モデルなどの AI の登場により、ハードスキルに対する敷居は今後さらに低くなっていくことも予想されます。

感情知能は、人間の感情や脳の活動という科学的な側面から、人間の行動や人と人とのつながりを最大限に有効活用する知能レベルに着目しています。感情知能は学び鍛えることができ、職場や家庭など人とのコミュニケーションで成り立つ人生のあらゆる場面で必要となる知能です。そして、リーダーシップでは、ハードスキルよりも、ソフトスキルの成熟度がより重要になります。それは、多様な人材を活用することでイノベーションが期待できるからです。現在の日本の学校教育は、ハードスキルの知能レベル向上に重点を置いていて、ソフトスキルの向上は暗黙的に大人の責任となっており、誰からも教わることなく混とんとした状態のまま各個人に課せられています。一方で、昨今の心理学や脳科学の発展により、脳の機能や感情の働きに対する科学的な理解が進み、TED をはじめとした多くの媒体を通して浸透し始めています。米国では、既に学校で教えているところも年々増えてきており、単に勉強を教えるよりも学力向上に良い結果も出ているようです。この記事が皆さんの感情知能向上のお役に立てば幸いです。


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