チームワークとは、共感力によるソーシャル・キャピタル
感情知能の四つの領域の最後の領域である人脈管理は、影響力 (Influence)、コーチとメンター (Coach and mentor)、対立管理 (Conflict management)、チームワーク (Teamwork)、リーダーシップ (Inspirational leadership) の五つの特性から成り立ちます。その中から今回はチームワークに関して TED の動画などを参照しながら理解を深めたいと思います。動画を見る際には日本語の字幕を活用してください。
チームワークとは、他者の感情、視点、動機を理解することで、他者と効果的に仕事をする能力のことです。チームメンバーそれぞれの長所と短所を認識し、共通の目標を達成するために協力し合うことが含まれます。また、非言語的な合図を読み、効果的にコミュニケーションをとり、対立を管理する能力も含まれます。
ソーシャル・キャピタル
この動画では、組織における価値を生み出す過程において、チームワークの重要性とそれを引き出すソーシャル・キャピタル (Social capital) の大切さを語っています。
ソーシャル・キャピタルという言葉になじみのない方もいると思いますので簡単に説明すると、人々が集まるとソーシャルと呼ばれる状態が出来上がりますが、そのソーシャルを支える本質的に重要な要素のことです。例えば、人々同士の信頼関係 (Trust)、心理的安全性 (Psychological safety) などが該当します。
ソーシャルとは、直訳すれば、社会ですが、会社の組織やチーム、さらには家族など、その大きさにかかわらず人々同士が特定の目的でつながっている集団だととらえて良いと思います。そして、ソーシャル・キャピタルを上手に構築するということは、その集団の結びつきを強くし成長するために大切な要素であるということです。
ソーシャル・キャピタルの成功例は、米国国防長官も務めたポール・オニール氏が、大手アルミメーカーであるアルコア社を、会社の利益よりも労働者の安全を最優先して、当時時価総額270億ドルの世界最大のアルミメーカーに育て上げた取り組みに見ることができます。昨今、心理的安全性の重要性が改めて認識されていますが、安全な職場環境はソーシャル・キャピタルを向上させる上で非常に重要な要素となります。
リモートワークの不都合
逆に、ソーシャル・キャピタルに対して悪影響があるといわれているのが、リモートワークです。リモートワークは「社員が最高の仕事ができる環境」だと感じている人も少なくないかもしれません。通勤に係る時間やストレスを排除出来たり、仕事と生活の時間配分をより細かく管理できるリモートワークは、技術の進歩と新型コロナウイルス感染症というタイミングがうまく重なり、世界中に一気に広がりました。一方で、孤立感が増し、人とのつながりが減少しているという声もあります。
定まった仕事を細分化してメンバーに割り振るのであれば、リモートワークは作業を効率的に行える環境と言えるかもしれません。一方で、仕事を分担してこなすだけが「チームワーク」かと考えると、疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。
昔の日本のビジネスシーンは男性中心に物事が動いており、飲みニケーションと呼ばれる飲み会やタバコ部屋での会話がソーシャル・キャピタルの構築に一役買い、チームワークに良い影響を与えていたという分析もあります。一方で、リモートワークのようにメンバーがお互いに合う機会を失われることで、そのような風潮を見直すきっかけになったとともに、チームワークとはそもそも何であり会社にどのような影響があったのかという本質的な問いを考える良い機会が訪れたといえます。
良いアイデアは、生まれるのではなく、育つ
組織においてチームワークが発揮される場面の一つとして、新しい商品やサービスの企画や開発が挙げられると思います。そのような場面では様々な理由で行き詰ることがありますが、新しい気づきや良いアイデアによって状況を打破できることがあります。チームワークは、良いアイデアを育てることができるとても効果的で確立された戦術なのです。
一つ誤解のないように強調しておきたいのは、良いアイデアとは育てるもので、生まれるものではないということです。確かに、スティーブ・ジョブズ氏やイーロン・マスク氏のようなスーパーリーダーからは良いアイデアが生まれてくるのかもしれません。しかし、ほとんどの場合は、自身の脳内のおしゃべりや仲間との建設的な会話などのプロセスを経ることにより、アイデアとも呼べない小さな気づきからインパクトのある良いアイデアに育っていくものです。組織においてはこのプロセスが必要な時に心地よく自然発生する環境を提供することが肝要です。また、その環境を維持、成長させることは長期的な戦略として重要課題と言えます。
チームワークに必要な三つの要素
この動画では、不可能と思われる状況をチームワークで克服した2010年のチリ鉱山事件のケーススタディーから、チームワークに大切な三つの要素を教えてくれます。
前途多難な中にも謙虚な姿勢で臨む
他のメンバーの能力への好奇心を持つ
素早く学ぶためにリスクを取ることを厭わない
メンバー一人ひとりが謙虚であることは大切で、共感力のあるコミュニケーションが効果的です。わからないことは、わからないと伝え、間違いに気が付いたことは、間違えたと伝え、自分の考えを誇張しないことです。メンバー間で競争意識があると、自分を相手より良く見せようとする心理が働くことがあります。「私が勝つということは、あなたが負けるということ。」そのような考えのメンバーがいると、チームワークが乱れ、得られる成果も得られなくなるリスクがあります。現代の組織では、優れたスーパープレーヤーよりも、有能なチームプレーヤーが求められています。両方を満たしているのであれば、何も言うことはないでしょう。
そして、有能なチームプレーヤーは、他のメンバーの能力と自分の能力をどのように融合させるのかに好奇心を持ちます。その際には知らないことを素早く学ぶ必要があり、たとえそれがくだらない質問に思えても、積極的に質問し、学ぶ姿勢を示します。この戦術は、対立を管理する際のアプローチと類似しています。そして、そのような行動は、メンバー間の心理的安全性を高め、信頼感を向上させます。
心理的安全性が低ければ、質問することもはばかられ、状況を悪化させるリスクを伴います。一方で、共感力を持って質問をすれば、相手への信頼を表現することにもつながりますし、自身の謙虚さも表現できます。自分を適切に表現することができれば、相手からの評価に影響を与え、信頼を築くことができるのです。その影響は波紋のようにチーム内に伝わり、チームワークの変化を促進します。
そしてこれが、リモートワークの難しさでもあります。皆が見えるところで働いていれば、メンバーは意図せずともあなたの仕事ぶりを見たり感じる機会を得るため、その波紋の影響を受けやすく、それが信頼感や心理的安全性を含めソーシャル・キャピタルの向上につながります。ところが、相手の姿が見えないと、相手を想像するしかありません。一方で、その想像は、自分の思考傾向に大きく影響されます。相手をポジティブに想像できるか、ネガティブに想像できるか。いずれにせよ、この想像が公正であることは難しいでしょう。想像は、たとえ最良のケースであっても、相手に対する過去の印象に基づくものであり、日々の成長を考慮することは困難です。
ただ、この困難さは乗り越えられないものではないと思います。それを解決するツールとして感情知能があり、その解決策の一つとしてハイブリッドワークと呼ばれるアプローチが広く試みられています。組織における問題点を整理し、解決策の候補となるアイデアを実験して効果を検証する、そのようなアジャイルな組織運営はますます重要さを増してきています。成長思考はそのようなアイデアをサポートし、共感力は困難を乗り越える際の支えとなります。
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