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映画雑考

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#映画

『必死の逃亡者』

『必死の逃亡者』

(1955年 アメリカ)★★★☆

監督 ウィリアム・ワイラー
出演者 ハンフリー・ボガート/フレドリック・マーチ

郊外に暮らすサラリーマンの家庭に、銃を持った脱獄囚たちが押し入ります。仲間から逃走資金が届くまで彼らは家族を人質に、その家に留まることを強要。一つ屋根の下で繰り広げられる、脱獄囚と家族の静かな攻防を描くサスペンスで、3人の脱獄囚のうちリーダー格の男をハンフリー・ボガートが、サラリー

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『東京ウィンドオーケストラ』★★★☆

『東京ウィンドオーケストラ』★★★☆

洗いたての白シャツに袖を通すような、小ざっぱりと気持ちが良いコメディです。

世界的に有名なオーケストラを、地元の島に招くはずが、当日やってきたのは、そのオケと、一文字違いの素人楽団。

”人違いが巻き起こす騒動”という、古今東西、繰り返し使われてきた定番のプロットを、奇をてらうでも、大袈裟にするでもなく。素直な展開を、起承転結、順に丁寧に積み重ねていく。

演出にしても、洒脱さや目新しさはありま

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『家庭の事情』(★★★★☆)

『家庭の事情』(★★★★☆)

流行作家のユーモア小説を映像化した、他愛もないプログラムピクチャーかと思いきや、いやはや。源氏鶏太による、小市民の悲喜こもごもを描いた原作を、ほぼ同じ年齢の吉村公三郎は、ベテランならではの安定した土台の上に、都会的な演出とリズムを重ね、見事にクールでモダンな快作、昭和中期のシティポップと呼びたくなる作品に仕上げています。

7年前に母親を失くした、父親と4人の姉妹からなる一家。
定年退職を機に、そ

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『西部戦線異状無し』★★★☆

『西部戦線異状無し』★★★☆

監督 ルイス・マイルストン

リュー・エアーズ/ ウィリアム・ベイクウェル/ ラッセル・グリーソン

時代は第一次世界大戦の最中。徐々に敗戦が濃厚になっていくドイツ軍の前線を舞台に、祖国のために死ぬ、その無意味さを噛みしめながらも、戦場という非日常を生きる若者達を描いた戦争映画の古典であり、反戦映画の不朽の名作として知られる作品。時代が青春を奪い、国家が命を奪う。人格を否定する軍隊、戦場の狂気に加

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『砂塵』(★★★★)

『砂塵』(★★★★)

オープニングからして良い。水平方向のパンによる長回し撮影で、西部の田舎の街道町”ボトルネック”の往来、酔っ払っては銃をぶっ放し、馬を駆け、喧嘩に騒ぐ無法者たちを、絵巻物のように見せていく。その絵巻物のラストには、一軒の酒場のドア。

大勢でごった返す店内。中央に設えたステージでは美貌の歌手が歌い踊り、荒くれ共が飲み騒ぐ中を娼婦が立ち回っている。一方、店の2階の小部屋では哀れな農夫が全財産の土地と牛

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『ダンケルク』★★★☆

『ダンケルク』★★★☆

デミアン・チャゼル監督の『セッション』が、ジャズのクラスを舞台にしながらも、音楽の映画ではない(”ジャズ”という賭け金を奪い合うフィルム・ノワールである)ように、この『ダンケルク』も、第二次大戦中の戦地を舞台にはしていますが、戦争を描く映画ではありません。
『ダンケルク』に最も近い戦争映画を選ぶとすれば、スピルバーグの『宇宙戦争』でしょう。実際、『ダンケルク』と『宇宙戦争』の二本はとても良く似てい

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『否定と肯定』

『否定と肯定』

今の日本社会の現状を顧みるに、間違いなく一見の価値がある映画です。

もっとも、社会的意義と切り離しても、魅力的なキャラクターが織りなす法廷劇映画として充分に楽しめる作品になっています。特に、もう一人の主役とも言える、ビンテージワインを愛する老弁護士(トム・ウィルキンソン)は、ビリー・ワイルダーの『情婦』に登場するウィルフリッド卿を思わせる好人物です。

古色蒼然としたイギリスの裁判の様子も面白い

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『ブロンコ・ビリー』(★★★☆)

『ブロンコ・ビリー』(★★★☆)

『夕陽のガンマン』や『ダーティー・ハリー』シリーズ等々における、凄腕ガンマン役で名を馳せたクリント・イーストウッドの監督7作目。

舞台は1970年代後半のアメリカ。

イーストウッド自身が演じる今作の主人公、ブロンコ・ビリーは、西部開拓時代(ウェスタン)の世界から抜け出てきたような、誇り高き西部の漢。彼を慕う仲間のカウボーイやインディアンの夫婦とともに、本物の西部を見せる『ワイルド・ウェスト・シ

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