見出し画像

【前編】フランス人女はセックスする為結婚する 性欲の直接貿易~為替変動リスクはディナーの後で~篇

朱炎しゅえんの酒に酔いしれ焼かれ、
ぼくらはせ返る一夜を共にした
これはとあるフランス人女性との肉情のお話

「フランス人はセックスがしたいから結婚するんだよ」
「あなたにもその気持ちを教えてあげる」


白皙はくせきにして甚だ端正な顔立ちに
身体全体を余地なく覆ううぶ毛はか細くも硬くその存在感を示す。

彼女は卑陋ひろうあかく揺らめくベッドライトの下で、
ダークトーンの銀白を惜しげも無く無自覚に照らし返すのだ
この世の者か疑念を抱く程、その姿は妖しくも幻想的な風景を纏っていた。

空に浮かぶ月の色が偽りだと、
ぼくはこの時明瞭に知った。

―――「君サンは松井須磨子を知っていますか?」


喫茶店の窓の外には午後の光と蝉時雨
初めて交わした会話は
往古の新劇女優について
仕事の打ち合わせの席だった事を記憶している。


某貿易出版社に勤める彼女はフランス人、
若かりし頃のマリオン・コティヤールに瓜二つの美女だった。


20代半ばに差し掛かる彼女は
まだ幼なげな印象をその美しく整った容貌に残し、
己への自信と希望に満ちた蒼白の瞳でぼくを射抜く
その表情は文字通りきらきらと輝いていた。



「知ってるよ。溝口健二の映画で見た?
それともカチューシャの唄か、ゴンドラの唄か…
あ、日本初の整形女優って肩書きもあるよね、彼女(笑)」



愚かな男に知識を尋ねると、
喜び勇んで3倍になって跳ね返ってくるぞ気をつけろ

ぼくも古い映画や小説や演劇が大好きだ
ぼくは知る限りの情報を動員し、彼女に向き合った
日本へ興味を持つ外国人が、
日本人より日本に深い理解を示すことは珍しくない。



そうです!
 私は大学時代彼女についての研究をしていました。
 彼女は日本において初めてジェンダー秩序に触れた気高い女性だったと思います。」



どこの誰に話しても須磨子女史の存在を知らない
ぼくは彼女にとって貴重な、渋い趣味の合う外国人、
深く打ち解けるまでに時間はそう必要なかった。


―――
彼女とはたくさんの話をした
宝塚歌劇、revueレビューの歩み
すこぶる非情!
大正より続く日本映画の歴史
麗しき新版画、
竹久夢二…高畠華宵…
はいからな大正ロマンの尊さを貪るよう翫味し合った。


そして、
何度目かの逢瀬おうせののちに
その時は訪れた。


―――
ぼくらはディナーを終え店を出る
渋谷の街は眠らず人通りは多い、
ぼくは彼女にこう切り出した。


「なんか今日寒いね。
 手、冷えてない?」


その日の夜は体感凡そ30℃
余炎よえん去りやらぬ季節だというのに
口をいて出た言葉と行動は
ぼくのちんぽこの表情を露わにしたものだ(所謂大嘘)

ぼくは半ば強引に、
彼女の歩みに合わせて揺らめく指頭しとうに触れた。
まるで雪のような白肌は、触れれば溶けてしまいそうで、
だからこそぼくの右手に沿って、
この賊心ぞくしんともとれる煮え立つ熱を伝えたかった。


「ん、そうですか?
 私はチョット熱い(笑)」


はにかみそう答える彼女も意図は理解している
火照る心は充溢じゅういつこぼれ出て、しっとりと華奢な掌を濡らしていた。

人の手はちんぽこの先端でありまんぽこの先端だ
それを連結させる行為は等しくセックスそのものであり、
その事実からは到底逃れようもなく
ぼくは彼女の意識がセックスへのTurning Pointを迎えた瞬間を見逃さない。

■Analyze the data_

   ▼観測点eye-level:150cm_

   ▼二点間の水平距離:僅か20cm_ _

   ▼目標高度への角度:上方30°_ _ _

   ▼_
   ▼_ _ _
   ▼These are the results of the analysis_

   ▼算出される対象の全長:凡そ171cm


"今"だッ―!


人気のない裏路地へ差し掛かりグイと彼女の腕を引く
ぼくは壁を背に、足りない隙間を埋めようと必死に踵を上げて(チビは努力する)
まるで、出来たばかりかの様潤う彼女の口唇をそっと奪った。



はむ…


ちゅ…

ちゅっ…



喧騒は遠く
足音は耳元を通り過ぎる



はむ…はむ…



互いの唇を舐め
優しく愛撫し時にその内方を蹂躙する



ちゅ…

くちゅ…



尿道球腺液はデニムのコットン生地をとうに貫通し、
彼女のフェミニンな薄手のリブワンピースを侵食する。

互いの呼吸はもはや幼獣ようじゅうのそれの様に
フッフッと荒く乱れていた
ぼくはそっと顔を遠ざけた。




「ンフゥ…」
(大きな瞳を閉じ興奮交じりの深呼吸)


「君サンは、どうして、こういうことをした?」




何故か急にカタコトめく彼女にぼくは吹き出しそうになる
白く煌く肌は迸る感情と赤い血潮を隠し切れない。




「どうしてって、好きだから」


そうだ


「セックスしよう」


なんとでも言ってしまえ
駆け引きなぞ必要ない、あとは押し切るのみだ


「ぼくと、イヤ?」


ここでこういうのも挟んでおこうね


「…イヤじゃないよ。ケド」


ケド?


「一杯だけ、お酒飲みにいこ?」




今でも鮮明に覚えている言葉だ。
上目使いで(本当は見下ろされている)
気高く美しい彼女が
しおらしく頬を桃色に染めて、目を潤ませてそう訴えるのだ

そりゃあもうかわいくてかわいくて、
あたしゃちんぽこがひっくり返るかと思ったよ。

そんな心境だ。
日本発"Kawaii"がフランスより逆輸入された瞬間だった。


――
性欲の直接貿易まで残り30分
この後彼女は豹変する
食べるのはぼくか、将又はたまた彼女の方なのか


”フランス人女はセックスする為結婚する”



決して眉唾物ではない
”本物の性欲”を、
この夜ぼくは目の当たりにすることとなる。




▼後編へ続く▼

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?